紹介
隣国に、忘れてはならない苦難があった…….。
観光旅行コースの中に埋もれた史実を丁寧にすくい上げ、現代史に刻まれた虐殺・弾圧による厳粛な事実を、歩いて、見て、考える異色の歴史紀行。
〈目次〉
はじめに
第1章 クメールの笑顔―ポル・ポト時代のカンボジア
1 プノンペンに到着
2 クメールの笑顔―カンボジア・リビングアーツ
3 ポル・ポト時代の表情
4 チュン・エク村のキリング・フィールド
5 トゥール・スレン虐殺犯罪博物館
6 殺す者と殺される者の境界
7 クメール・ルージュ時代の傷
コラム ラオスの不発弾―COPEビジターセンターにて
コラム いちょう団地―インドシナ難民の安住の地
第2章 緑島という監獄島―台湾の白色テロ時代
1 緑島を訪ねて
2 台北の「二二八事件」を歩く
3 台湾民主主義の到達点
コラム 台北に残る白色テロ時代の名残
第3章 四・三事件と済州島の人々―板挟みの中で
1 耽羅の面影
2 済州四・三の傷跡
3 解放後の苦難
4 済州島で何が起きたのか
5 大阪・鶴橋と済州島
おわりに
追記―「歴史の逆流」を防ぐために
目次
はじめに
第1章 クメールの笑顔―ポル・ポト時代のカンボジア
1 プノンペンに到着
2 クメールの笑顔―カンボジア・リビングアーツ
3 ポル・ポト時代の表情
4 チュン・エク村のキリング・フィールド
5 トゥール・スレン虐殺犯罪博物館
6 殺す者と殺される者の境界
7 クメール・ルージュ時代の傷
コラム ラオスの不発弾―COPEビジターセンターにて
コラム いちょう団地―インドシナ難民の安住の地
第2章 緑島という監獄島―台湾の白色テロ時代
1 緑島を訪ねて
2 台北の「二二八事件」を歩く
3 台湾民主主義の到達
コラム 台北に残る白色テロ時代の名残
第3章 四・三事件と済州島の人々―板挟みの中で
1 耽羅の面影
2 済州四・三の傷跡
3 解放後の苦難
4 済州島で何が起きたのか
5 大阪・鶴橋と済州島
おわりに
追記―「歴史の逆流」を防ぐために
前書きなど
はじめに
日本は先の大戦で焼け野原となった。それでも戦後には経済大国へと登り詰めた。日本人の勤勉さと努力の成果である。しかし、忘れてはいけない。能力が存分に発揮されたのは、平和に恵まれたからであった。
私たちの隣人は平和ではなかった。アジア各地は戦争や内戦、虐殺、圧政、そして貧困など、あらゆる苦しみが襲った。
本書で紹介するカンボジア、台湾、韓国済州島の悲劇は、日本人には他人事かもしれない。視界に入れる必要などないといわれるかもしれない。たとえ視界に捉えても、たやすく理解できないかもしれない。日本の過去に似た経験がないからだ。
日本人も先の大戦で苦しんだ。しかし、まだ敵と味方の区別はあった。本書で取り上げた隣人は、敵と味方の境界が見えなくて苦しんだ。いつ誰が命を奪いに来るか分からなかった。人は人を信じられず、ただ口を閉ざして感情を殺すしかなかった。
隣人の悲劇を他人事と言うのは簡単だ。しかし、もしかしたら、彼らは自分だったかもしれない。私たちが平和な戦後日本に生まれてきたのは偶然にすぎない。ならば、70年代のカンボジアに生まれてこなかったのも偶然にすぎない。自分と他人の間にはさほど境界がない。ならば、隣人の苦しみは、自分の苦しみだったかもしれない。妄想のようだが、本書を書くにあたり、改めて現地を訪ね、人々から話を聞き、本を読み漁ると、この妄想が限りなく真実に感じた。
いまだに核心に触れた手応えがない。今も遠くから眺めている感じがする。そこで読者にお願いしたい。もし現地を訪ねられたならば、見たこと、感じたことを教えてほしい。
過去の悲劇に今も苦しむ人がいる。近づくべきではない場面もあった。その一方で、悲劇を忘却せず、広く世界に伝えたいとの訴えもあった。このジレンマに悩みながら本書を書いた。
2020年 10月 藤田 賀久