目次
まえがき
第一部 ロシア史研究の現在
Ⅰ 中世ロシアの教会と国家………………………宮野 裕
Ⅱ 18世紀末までの専制―君主と統治階級― … 田中良英
Ⅲ 近世ロシアの民衆運動……………………… 豊川浩一
Ⅳ 19世紀ロシア農民…………………………… 吉田 浩
Ⅴ 帝政期の教育と社会………………………… 橋本伸也
Ⅵ 近代ロシアの都市と労働者………………… 土屋好古
Ⅶ 20世紀初頭ロシアの農村・農民・農業… 崔 在東
Ⅷ 第一次世界大戦、ロシア革命、ネップ… 池田嘉郎
Ⅸ スターリン時代……………………………… 松井康浩
Ⅹ フルシチョフ・ブレジネフ時代…………… 松戸清裕
XⅠ ペレストロイカ……………………………… 河本和子
XⅡ ロシア帝国論………………………………… 宇山智彦
XⅢ ジェンダーと家族………………………… 広岡直子
XⅣ 文化と思想………………………………… 根村 亮
XⅤ 日露・日ソ関係史………………………… 富田 武
第二部 座談会
「ロシア史研究会―初期の十年程について―」
中村喜和・荒田洋・外川継男・和田春樹
第三部 資料と年表
Ⅰ 初期の例会 1956—1960
Ⅱ 『ロシア史研究』総目次 1号‐87号
Ⅲ ロシア史研究会年表
人名索引
前書きなど
まえがき
1956年2月25日、東京でロシア史研究会の「創立の会合」が開かれた。研究会が設立されたその日はモスクワで開催されていた第20回共産党大会の最終日にあたり、スターリン批判の秘密報告がなされた歴史的な一日であった。もとより偶然の一致ではあるが、研究会の設立に尽力した日本の若いロシア史家たちが目指していたのも公式的なソヴィエト史学の批判であったから、偶然とだけ言い切れないものがあるだろう。発足時の会員数は50名に満たなかったが、毎月開かれた例会では活発な議論がおこなわれ、そして1960年11月には機関誌『ロシア史研究』が創刊された。研究会は当初同人的な集まりであって、一時的に休会の危機にも見舞われたが、1999年に日本学術会議の「登録学術研究団体」、つまり正規の学会の仲間入りをした。こうして2006年に創立五十年を迎えたわけだが、塩川伸明の「日本におけるロシア史研究の50年」(『ロシア史研究』79号)は、以上のような半世紀に及ぶ研究会の歴史を的確に整理したものである。同時に戦前から研究会設立の頃までのロシア史研究については、鳥山成人の「日本におけるロシア史研究」(『歴史教育』7-1, 1959)が網羅的な文献紹介をしているので、併せて参照願いたい。因みに2012年3月段階で、ロシア史研究会の会員数は正会員258名、雑誌会員38名となっている。
ロシア史研究会では創立30年、40年、そして50年にそれぞれ記念の会合を開催していて、その記録の一部は会誌にも掲載されている。だが半世紀というのは大きな区切りでもあるから、資料集など何らかの記録を刊行してはという要望があった。その後いろいろな経緯はあるが、本書は遅蒔きながらロシア史研究会五十年を記念して、研究会の資金を充てて刊行されるものである。第一部の「ロシア史研究の現在」は主に中堅のロシア史家による最新の研究動向15本を揃えた。1991年末のソ連邦の崩壊以来すでに20年が経過したが、いずれの論稿も国内外でおきた新しいさまざまな動向を的確に伝えている。近代・現代史の比重が高いのは、ロシア史研究の「不均等発展」に由来する昔からの「伝統」の反映であって、ご理解をお願いしたい。第二部の「座談会」は研究会の最初の十年間を中心に古参会員からうかがった座談の記録である。座談会は2011年10月の大会前日に神田の如水会館で行われ、限られた時間であったが、興味深い回顧談をうかがうことができた。研究会の創設に立ち会った第一世代の多くの方々がすでに亡くなっておられるが、40年記念の大会では当該世代の方々を囲むシンポジウムが行なわれている。第三部の「資料」には初期の例会の記録、『ロシア史研究』総目次、年表等を収めた。個々の会員が所蔵する資料は少なくないのだが、掲載するには断片的なものが多く、それらの公表については別の機会に委ねることとした。
以上のように本書はロシア史研究会が主体となって企画・刊行される記念出版物であって、通常の入門書とはいささか趣を異にしている。最新の研究動向と研究会資料の収録といういわば「二兎を追う」もので、どちらも中途半端の感がないでもない。いずれ本格的な入門書の刊行を期待したい。1976年6月に刊行された菊地昌典編『ソビエト史研究入門』(東京大学出版会)はレファレンス・ブックや文献紹介に特に力を入れたオーソドックスな入門書で、執筆者の多くもロシア史研の会員である。ほぼソビエト期に限られ内容もかなり古くなったが、全体として今でも有益であろう。
本書の編集委員会は昨年二月末に発足したが、比較的短い期間でこのような形で刊行できたのは、執筆者はじめ会員諸氏のご協力のおかげである。また出版をお引き受けたいただいた彩流社の竹内淳夫社長には『日露200年』(1993)以来お世話になっているが、今回もさまざまな協力と援助をいただいた。記して謝意を申し上げる。