目次
はじめに
謝辞
1 性的人身取引――概要
抑えられぬ欲望
岐路に立つ文明
性的人身取引とは何か
性的人身取引の構造
性奴隷たちの運命
性の奴隷制というビジネス
性奴隷の経済
なぜ性的奴隷制は勢いが衰えないのか
個人的な使命
1人の個人には何ができるか?
2 インドとネパール
最初の出会い
子どもたちは苦しんでいる
ネパールの娘たち
3つの階層、1つの目的
大きな過ち
救いの川岸
人身取引業者と会う
人身取引と債務労働
国境を越える
破滅への道
マッサージ店とダンスクラブ
シンドゥパルチョーク
不十分な資源、執行されない法律
カイラシュ山
3 イタリアと西欧
夜の子どもたち
陸路で、空路で、海路で
エド族と呪い
非常に組織化された犯罪組織
寂しい人、友達募集
ややこしい法律、お粗末な法執行
合法にすべきか、非合法にすべきか
大聖堂の希望
4 モルドヴァと旧ソ連諸国
マクラー
モルドヴァから世界へ
モルドヴァはどこへ?
呪われたカティア
見えにくさと沿ドニエストル
トルコ人とセックス観光業
ガガウズ自治区
腐敗、腐敗、腐敗
シュテファン大公
5 アルバニアとバルカン
誓いの処女と血の報復
ヴロラ
張り込み
収斂進化
古くからの戦いと現代の「スリーストライク」
バルカン地方の国々
失われた純真さ
確たる計画、でも不十分
放たれた天の恵み
6 タイとメコン河流域地帯
かわいい娘、とても若い娘
ロイクロ通りのそばの少女
メコンの幽霊
良い警官
高地の人々
タイ人女性と仏教
売春の歴史
コミット
ミミズ、鳥、ジャガー
7 アメリカ合衆国
すぐそばなのに、とても遠い
奴隷を探して
カデナ・ファミリー
彼らはどのようにしてここに来たのか?
カレト・ファミリー
人身取引被害者保護法
責任を取る
2006年4月26日
8 奴隷制廃止に向けての枠組み――リスクと需要
自由連合
短期的戦術
小売業者=奴隷所有者
アイという名の子ども
訳者あとがき
付録C 主要な人間開発統計
付録B 現代奴隷制の経済学
付録A 主要な表および注
注
参照文献
前書きなど
はじめに
(…前略…)
世界中の売春宿やシェルターの内外を訪ねる調査旅行に三度赴いた私が言えるのは、性的人身取引とは、人道に対する悪質極まりない犯罪だということだ。女性の人生を卑劣かつ非情に破壊し、そのことによって莫大な収益をもたらすものだ。その破壊行為を描き出す作業は、私にとり容易ではなかった。本書の第1稿は全編旅行記風に綴り、合間に現代の性的人身取引がいかに機能しているかという概説を織り込んだ。ところがその試みは挫折した。より多くの読者を惹きつけるにはそれでいいのだが、性的人身取引産業の始まりや、世界各地でどう運営され、どうすれば根絶できるのかといった、もっと重要かつ喫緊の課題をより正確に描き出すには、ふさわしくなかったのだ。これらの目的に沿うために、第1章ではまず現代の性的人身取引産業の主要な側面を分析的に解説し、いかに根絶するかという議論を最後に述べることにした。そして最終章はこの議論をフルに展開した。その概要は以下のようになる。世界的な性的人身取引産業を根絶する最も効果的な方法とは、この産業の巨大な収益性に打撃を与えることによって、奴隷所有者や消費者による性奴隷への需要の総量を減らすことだ。また、政府、非営利団体、主要国際機関、そして市民ひとりひとりが一丸となった、奴隷解放運動の新たな世界ブランドを提唱する。その枠組みによって、性的人身取引というビジネスを解体させるべく、大鉈を振るって外科手術を行うのだ。本書は行動への呼びかけであり、その原動力は、私が目撃したあまりに悲惨な苦しみだ。それはエピソード中心の中盤章で、トーンを抑えずに語られることになる。読者の皆さんにお約束したい。第1章の基礎的な分析を読み終えたら、それ以降の、世界の性的人身取引産業を巡る国境を越えた旅に出発するためのより良い準備ができるだろう。道すがら、おびただしい数の奴隷と出会うことになる。と同時に、幾人もの勇敢な人々が、性的人身取引の廃絶と被害者の支援のために尽くしている姿に出会うだろう。この本が、彼らに加わりサポートする、さらに大きな力を突き動かすことを願っている。