目次
はじめに
序章 問題の所在
第1節 労働力確保の選択と移住労働の女性化
1-1 東・東南アジア間の国際的労働力移動
1-2 労働力供給先の選択
1-3 移住労働の女性化と台湾の特徴
第2節 問題意識と本書の目的
2-1 研究目的と課題
2-2 外国人介護労働者の受け入れ問題に関する先行研究
2-3 本書の研究意義と研究方法
2-4 本書の構成
第1章 台湾における外国人介護労働者増加の背景―介護制度・資源との関係を軸にして―
第1節 外国人介護労働者の受け入れと社会状況との関連性
1-1 外国人介護労働者の受け入れ拡大
1-2 家庭介護の維持と社会状況の変化
第2節 介護資源の構築
2-1 経済政策に関連する介護政策
2-2 介護制度の形成
2-3 介護資源の現状
第3節 家庭の介護労働力の選択
3-1 家庭介護を維持するための外部介護労働力の選択
3-2 宿泊型介護施設への選択
第4節 介護現場における台湾人介護人材の課題
4-1 介護人材の不足
4-2 外国人介護労働者の労働力に頼る宿泊型介護施設
第2章 介護労働者となる外国人女性の選択―労働課題と女性たちの行動―
第1節 複数選択肢のなかでの女性たちの決意
1-1 インタビューした外国人介護労働者の基本情報
1-2 未来を切り拓くための出稼ぎ
1-3 出稼ぎ先の選択
1-4 選択の制限
第2節 外国人介護労働者の労働実態と課題
2-1 家庭外国人介護労働者
2-2 施設外国人介護労働者
第3節 問題解決に向けての外国人介護労働者の能動的な行動
3-1 消極的な抗議から積極的な抗議へ
3-2 女性たちの抗議ルートと制限
3-3 雇用主の変更
第3章 外国人介護労働者の失踪と失踪後の非合法介護労働―労働者と雇用主の不安―
第1節 外国人労働者の失踪
1-1 目立つ介護労働者の失踪
1-2 外国人介護労働者の出身国の変化と失踪
第2節 「失踪」という「選択」
2-1 合法労働継続への不安
2-2 合法労働継続のための仲介費用負担の重みと不安
第3節 失踪後の非合法介護労働
3-1 短期的な介護労働の多さ
3-2 短期的な介護に対する需要
3-3 結婚移民と称して働く失踪者
3-4 失踪者の介護賃金
第4節 自由と不安の失踪生活
第4章 失踪問題の社会的意味―制度的弱者のジレンマと「総弱者化」の進行―
第1節 失踪問題からみえること
第2節 外国人介護労働市場の変化
2-1 仲介費の仕組みの変化
2-2 国際間での外国人労働者確保競争
2-3 高まる介護需要
第3節 雇用主・仲介業者・労働者の三者間の緊張関係
3-1 労働者の能動的な行動の増加と失踪問題
3-2 家庭雇用主の不安と失踪問題
3-3 施設雇用主の不安と失踪問題
3-4 仲介業者の不安と失踪問題
第4節 雇用主・仲介業者・労働者の「総弱者化」か?
第5章 弱者を作らないために何が必要なのか?
第1節 結論と主張
第2節 介護というユニバーサルな課題をみつめて
第3節 「私たち」の選択
あとがき
参考文献・資料
前書きなど
序章 問題の所在
(…前略…)
2-4 本書の構成
本書は以下のとおりの構成となる。
序章では,グローバルな視点および歴史的視点から,台湾の外国人労働者の受け入れ選択と特徴を整理し,台湾での移住労働の女性化の中心となっている東南アジアからの外国人介護労働者の概況について述べた。そして,本書の目的を説明するとともに,先行研究の大半が雇用主・仲介業者・労働者の間にある「強者」と「弱者」の関係性を軸に様々な問題を分析してきたことを明らかにしたうえで,本書の特徴を4つの観点から説明した。
第1章では,台湾政府が外国人介護労働者を「一時的な受け入れ」と位置づけつつ,外国人介護労働者への依存を一定程度に抑える方針で臨んできたが,外国人介護労働者がますます増加し,26万人近くにもなることに至った背景を雇用主の介護労働需要の視点から考察する。そして,家庭介護および施設介護がともに外国人介護労働者に強く頼っている現状を台湾の介護政策および介護資源との関係を軸に分析する。
第2章では,介護労働者となる外国人女性たちが能動的でありながらも「弱者」である状況を考察する。42人の外国人介護労働者への半構造化インタビューを中心に,外国人女性の出稼ぎ選択の意思決定に影響する要因,出稼ぎ先で直面しやすい課題および課題の発生要因,そして外国人女性が問題に直面した時の選択肢および制約を分析する。
第3章では,14人の失踪者(失踪経験者)の失踪原因および失踪後の介護労働の実態把握を踏まえ,台湾の外国人労働者の受け入れ制度の問題点を考察し,失踪者の失踪理由と雇用主の介護労働力の確保問題および労働者管理責任の不安との関連性を分析する。
第4章では,外国人介護労働市場が買い手市場から売り手市場に移行するという変化のなか,雇用主・仲介業者・外国人労働者の三者の選択と関係が変容するとともに,「総弱者化」とでも呼べるような変化が生まれていることを指摘し,その変化を示すとともに失踪問題の社会的意味を考察する。
第5章では,本書の内容を整理したうえで,介護というユニバーサルな課題について改めてみつめ,コロナ禍の最新状況をも含めて,介護にまつわる「私たち」の選択について,少しの提言を述べる。