目次
はじめに――なかなか一歩を踏み出せない私たち[南野奈津子]
序章 日本社会、そして外国人の今[南野奈津子]
1. 移住者をめぐる世界の動向
2. 移民社会としての日本の今
3. 私たちはどこへ向かうのか
第1章 移住外国人をめぐる法的な状況、実態と課題[青柳りつ子]
1. 外国人特有の法的な問題とは
2. 法的な問題の相談はどうすればよいのか
3. 法的支援の現場から:専門家相談コーディネーターとして
第2章 医療の現場から見えてくる共生社会の現状と課題[沢田貴志]
1. 日本の医療の仕組みと外国人
2. 外国人が医療を受けるうえで直面する壁とは
3. 課題をめぐる資料
4. 外国人の医療アクセスへの支援の実践
5. 今後の取り組みのあり方について
第3章 教育から排除される外国人の子どもたち[小島祥美]
1. 学校に通っていない子どもたち
2. 学校に通う子どもたちの変化
3. 困難を抱える外国人の子どもたち
4. 「学校長裁量」を子どもにとっての「最善の利益」のために:私たちができること
第4章 移住労働者(移民)とその家族の生存権保障の実態――課題と展望[大川昭博]
1. 移住労働者(移民)受け入れと使い捨ての歴史
2. いのちの差別とセーフティネットの逆転構造
3. 差別なき生存権保障のために:すべての制度への包摂と相談支援の充実を
4. 移住労働者、そして移民の生存権保障のために:人権と反差別の視点から
第5章 福祉的支援を必要とする外国人の子どもたち[南野奈津子]
1. 外国人の子どもとは
2. 外国人の子どもの実情
3. 多文化背景をもつ子どもが直面する苦労や悩み
4. 保育・幼児教育をめぐる状況と子育てニーズ
5. 特別な支援を必要とする外国人の子ども
6. 外国人の子ども家庭の養育課題
■コラム 非正規滞在の子どもたちの葛藤と現実:NPO法人A.P.F.S.の活動[吉田真由美]
第6章 ドメスティックバイオレンス(DV)被害者の女性と子ども[鳥海典子・松原恵之]
1. 外国人女性のDV被害の実際
2. 外国人DV被害者への支援
3. 一時保護を経て施設入所となった外国人DV被害者への支援の実際
4. 外国人DV被害者が日本でひとり親として生きるということ
第7章 日本に逃れてきた難民への支援――その実情と課題[新島彩子]
1. 世界、そして日本に逃れてきた難民を取り巻く状況
2. 日本における難民の受け入れと支援の実情はどのようなものか
3. 難民に接する際の留意点
4. 生じている課題と取組のあり方
■コラム 諸機関と協働する支援:日本国際社会事業団(ISSJ)の活動[石川美絵子]
第8章 国際社会における外国人の支援と権利保障[木村真理子]
1. ソーシャルワーク専門職のグローバル定義と人権
2. ソーシャルワーク専門職の倫理と価値
3. ソーシャルワーカーの役割と文化や国、国籍、対象を超えた共通性
4. 移住者の生活と適応に関わるソーシャルワーク
5. 今後の課題:外国人支援、そして国際ソーシャルワークにおける人権とは何か
第9章 社会を変える 個別支援で終わらせないために[木下大生]
1. ソーシャルワークとは
2. 社会を変えること始め:ソーシャルアクションをやってみる
3. 求められるソーシャルアクション:専門家と非専門家の役割と協働
終章 改めて外国人支援を考える 私たちができること[南野奈津子]
1. 多様で複層的な外国人の不利
2. 言葉の壁をなくす、さらなる取り組みを
3. 人としての尊厳を守る社会へ
4. 私たちができること
おわりに[南野奈津子]
前書きなど
はじめに――なかなか一歩を踏み出せない私たち[南野奈津子]
日本に暮らす外国人が増え、英語や中国語の看板やアナウンスに触れるのもすっかりめずらしくなくなった。しかし、ずいぶん前から多くの外国人が、日本に暮らしているにもかかわらず、いまだに言葉や文化の壁により、日々の生活に苦労している外国人が多くいる。外国人に対する差別的な言動、外国人労働者の不当な扱い、国際結婚を経た外国人シングルマザーの貧困問題や外国籍の子どもの教育問題など、深刻な課題がある。そして、本書が出版される2020年、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、社会状況は大きく変わった。安心して医療を受けることができる、そして安定した職を維持することができることのありがたさを感じさせる一方で、それらが脅かされる人々の姿も浮かび上がってきた。
(…中略…)
本書では、苦境に立たされている外国人の実情、その問題が起きる構造、行われている支援の実際、そして今後の課題や展望について、各領域で第一線に立つ専門家・専門職が紹介している。国際社会での外国人の生きる権利の保障の考え方や取り組み、そして地域での社会への発信やつながり、という観点からソーシャルアクションについても広く触れている。実情を知りたい、自分にできることや何かヒントを得たい、という期待に応えるような事例を多く掲載した。それだけではなく「なぜ支援が必要なのか」についての実態だけに留まらず、「とらえ方」についても触れている。専門職も、そうでない人も、外国人の生活困難と支援に関する日本の実情を、背景も含めて共に考え、そのうえで、今いる場所で自分ができることを考えていく。そのことが、本書のタイトルを「いっしょに考える」としたゆえんである。
問題は山積しているが、何もしないわけにはいかない。できることから始めるしかない。そのためには、いろいろな情報、そして実際に起きていることを知ることが、小さくて大きな一歩である。この書籍が、現状や事例の共有、そしてできることをする、につながることを願っている。