目次
はじめに
Ⅰ 現代メキシコへの招待
第1章 2018年のメキシコ――地理と数字でみる「21世紀の大国メキシコ」
第2章 変貌した2010年代の社会――グローバリズムがもたらした生活環境の変化
第3章 岐路に立つメキシコ経済――経済成長の低迷と「失われた30年」
第4章 拡大した階層間格差――貧困率60%の社会の姿
第5章 階層社会と地域格差――近代民主国家になれないメキシコの理由
第6章 メキシコの汚職文化――権力者の汚職に寛大なメキシコ国民
第7章 幸せを感じて暮らすメキシコ人――アンケート調査から読むメキシコ人像
【コラム1】地震大国メキシコの首都圏大地震体験記
Ⅱ 21世紀の社会改革
第8章 メキシコ革命の遺産――公正で公平な社会建設を目指した革命の理想と現実
第9章 サパティスタ25年の歩みと現状――インターネットによる社会運動の先駆け
第10章 一党支配体制の終焉――分権化によるPRI体制の崩壊とPAN政権の政治
第11章 構造改革の取り組みと失敗――再登場したPRI政権の現実
第12章 首都メキシコ市の革新都政――民主革命党による20年間の市政と変革
第13章 2018年7月1日の総選挙――史上最大規模の「民主的」大統領選挙
第14章 国家再生運動(MORENA)政権への期待――中道左派新政権の改革提言
【コラム2】汚職の一掃――「聖域」を支配した巨悪との対決
Ⅲ 国際政治とメキシコ外交
第15章 内政不干渉主義と中立外交の伝統――カランサ・ドクトリンとエストラーダ・ドクトリン
第16章 対米外交――反米と依存と共存の関係
第17章 21世紀のメキシコ外交――グローバル化の中で模索する新外交政策
第18章 ラテンアメリカを非核武装地域にしたメキシコ人――アルフォンソ・ガルシア=ロブレス
第19章 メキシコ人の意識を世界に向けさせたエチェベリア大統領――「アメリカの隣国」から第三世界のリーダーへ
第20章 「先進国クラブ」OECDの事務総長になった元財務大臣――リスケ交渉人から「金持ちクラブ」のトップに
【コラム3】超一流教育を受けたテクノクラート集団と英語力
Ⅳ 国境の壁で分断されるメキシコと米国
第21章 メキシコと米国の国境地帯――21世紀における国境の意味
第22章 「国境の壁」――米国トランプ大統領が構想する「現代版万里の長城」
第23章 「豊かな北の国」を目指して――越境するメキシコ移民
第24章 米国におけるメキシコ系移民社会――その姿と影響力
第25章 在米メキシコ人の出稼ぎ送金――メキシコにとっての意味
第26章 国境で分断された家族――世代を超えた絆とメキシコ社会
第27章 国境を越える麻薬と犯罪組織の活動――市場と供給の関係からみる実態
【コラム4】米墨国境と麻薬問題の話題作が続くメキシコ映画
Ⅴ 資源大国の経済運営
第28章 メキシコとNAFTA――発効後24年の姿と新貿易協定USMCAの誕生
第29章 メキシコの地下資源――恵まれた鉱物環境と高い外資依存度
第30章 天国と地獄を往復した石油政策の軌跡――石油開発の光と影
第31章 国営企業PEMEXの21世紀の課題――民間資本との協調に向けて
第32章 メキシコ経済と外国資本――最強先進国米国に隣接することの活用
第33章 メキシコ民族資本――継続する家族による所有・経営支配
第34章 観光資源――豊かな観光資源と開発の現状
【コラム5】メキシコ新国際空港の建設
Ⅵ 21世紀のメキシコ社会
第35章 男女平等社会形成への取り組み――ジェンダー・クオータ制による女性の政界進出
第36章 女性の社会進出――マチスモ社会の変化
第37章 家族の多様化――核家族・ひとり親家族・ディンクス・生涯独身者
第38章 悪化する21世紀のメキシコの治安――日常生活における暴力と犯罪
第39章 多文化社会のなかの先住民――保護ではなく対等な立場を求めて
第40章 メキシコにおけるリーガルプルーラリズム――潜在的多元性から公認された多元性へ
第41章 多文化・多民族社会のメキシコ――受け入れられた欧米・中近東・アジア系移民社会
【コラム6】メキシコ人の肥満
Ⅶ 21世紀のメキシコにおけるビジネス環境
第42章 メキシコにおけるビジネス環境――改善が進む現状と課題
第43章 メキシコにおけるEコマース――アマゾン参入により本格普及へ
第44章 統合が進む国内小売資本――主役ウォルマートと統合を進めるソリアーナ
第45章 メキシコのベンチャー企業――台頭するベンチャー企業を取り巻く環境
第46章 メキシコにおけるシェアリングエコノミー――成長と課題
第47章 アエロメヒコ航空と全日空の直行便――再び活況を呈する日墨航空路線
第48章 メキシコの自動車産業――外資主導による北米偏重度の高い輸出依存
【コラム7】メキシコ石油と心中した邦銀の貴重な教訓
Ⅷ メキシコにおける日本企業
第49章 メキシコの日系企業――自動車産業と広がる日本人向けサービス企業
第50章 メキシコに定着した日本の食品・雑貨ブランド――消費市場を攻略する
第51章 メキシコの教育市場と躍進する日本企業――公文式からクイッパーまで
第52章 注目が集まる日本のポップカルチャー――市場規模の拡大と課題
第53章 メキシコにおける日本映画ブーム――ラテンアメリカ地域への拡大の期待
第54章 日本を目指すメキシコ企業――進出企業の取り組みと現況
【コラム8】本格派日本食レストランで成功するメキシコ企業
Ⅸ 魅惑の文化大国メキシコの姿
第55章 魅惑のメキシコ――34の世界遺産を持つ国
第56章 悠久のメキシコ食文化――ユネスコの無形文化遺産に登録されたメキシコ料理
第57章 テキーラ――ユネスコ文化遺産に登録されたメキシコのアルコール文化
第58章 骸骨が躍る「死者の日」――メキシコ人の死生観
第59章 芸術大国――メキシコ造形美術の鼓動
第60章 現代メキシコ文学への招待――時代に呼応する文学の流れ
第61章 フォルクローレ――多様な地域文化と洗練された文化表象
【コラム9】博物館大国――「時の記憶」を訪ねて
Ⅹ 21世紀の日本とメキシコ――相互交流の実績と現況
第62章 日墨平等条約の回顧と展望――日墨外交の伝統と歴史遺産
第63章 日本人移住120周年と21世紀の日系社会――ピオネロスの足跡とコロニアの現在
第64章 日墨交換留学制度の40年――その成果とさらなる期待
第65章 日本とメキシコの学術文化交流――日本とメキシコを結ぶ知的交流
第66章 メキシコ大学院大学――ラテンアメリカ地域の日本研究センター
第67章 日本の対メキシコ技術協力の歴史――二国間協力とJMPP
第68章 バヒオ地域に進出した日本の自動車産業――直面している課題
第69章 メキシコにおけるJICAの自動車産業支援――生産現場の改善活動と人材育成
第70章 エスパシオ・メヒカーノ――駐日メキシコ大使館の文化活動
【コラム10】異文化共生を学ぶ日本メキシコ学院
参考文献
前書きなど
はじめに
本書は、2011年に出版された『現代メキシコを知るための60章』の改訂増補版である。この改訂版の作成過程が編者のメキシコ長期滞在というタイミングと重なったため、当初予定した一部だけの加筆修正という計画を変更し、メキシコで活躍している日本人専門家をお誘いしたことで大幅な改訂版となった。本書を通じて読者の皆様が、現地の事情に精通した各執筆者の知見と専門知識によって紹介されている21世紀のメキシコの姿を知り、日本との深い関係に新たな「発見」をしていただけたら幸いである。地理的に遠いメキシコが日本と非常に近い関係を有し、欧米先進諸国に劣らぬ芸術・文化・観光大国であることを知ると、読者は驚くと同時にメキシコを是非とも訪れてみたいと考えるに違いない。しかも成田とメキシコ市の間には、直行便が毎日2便も出ている。空の旅は快適である。メキシコ人は陽気で優しい。近年、編者は1年の半分をそのようなメキシコで暮らしている。
メキシコは、1994年に世界の「先進国クラブ」とも称される経済協力開発機構(OECD)にラテンアメリカ地域で最初に加盟した国である。このように20世紀末には世界の先進国の仲間入りをしたメキシコは、あらゆる分野で著しい変化を遂げてきた。林立する高層ビル、主要都市を結ぶ快適な高速道路、近代的な公共施設、ショッピングセンター、そして国民生活全般を含めて、2010年代のメキシコは10年前のメキシコを知る者にとってさえその変貌ぶりに驚く。また世界の多くの国々と同様にグローバル化が進んでいる。もっとも21世紀に入って著しく悪化した治安と長年にわたる経済成長の低迷によって、社会経済が必ずしも順調な発展を遂げてきたわけではない。本書ではこのようなメキシコの政治・経済・社会・文化・対日関係などを、2010年代に焦点を当てて紹介しようと試みた。執筆者17名の間にはそのみる視点と分析に相反する部分もあるが、それもまたメキシコの現状をみる多様な視点である。さらに、本書で紹介されている北米自由貿易協定(NAFTA)の改訂交渉や6年に一度の大統領選挙といった「歴史的な年となった2018年」の展開を追うテーマでは、最初に設定した「原稿〆切」をぎりぎりまで延ばしてまとめたことから、関連するいくつかの章の間で若干の時間差が生じている。また固有名詞や人名表記をできるだけ統一したが、「アメリカ合衆国」の国名表記が「米国」と「アメリカ」としても表記され、「ラテンアメリカ」も「中南米」という表記を使用している章もある。しかし、それぞれの分野で使用されるこの種の用語を編者は敢えて統一しなかった。さらに多様な分野の情報元がインターネットを含めて膨大なため、参考・参照文献欄にすべての関係資料を掲載することができなかった。これらの事情をご了解いただければ幸いである。
(…後略…)