目次
はじめに
Ⅰ カリブ海世界への招待
第1章 21世紀のカリブ海世界――「環カリブ海地域」とカリブ海域諸国
第2章 カリブ海世界の自然と環境――熱帯の多様な自然と人びとの暮らし
第3章 現代カリブ海世界を創った欧米列強の遺産――抗争と植民地争奪戦の跡
第4章 カリブ海世界の多人種・多民族社会――その形成の歴史と21世紀の姿
第5章 21世紀のカリブ海世界の経済社会――開発途上国からの脱却と経済の多角化への努力
第6章 グローバル化するカリブ海世界――大きな経済格差と人口減少に直面する小国家群
【コラム1】グレナダのナツメグの話
Ⅱ ヨーロッパによる破壊と「植民地」という秩序の形成
第7章 「コロンブスの交換」――コロンブスによる新世界の「発見」とカリブ海世界
第8章 カリブ海域の先住民は絶滅したのか?――病死・虐待・逃亡・絶滅・復活
第9章 カリブ海域の砂糖プランテーションと奴隷制――アフロカリブ海世界の形成
第10章 カリブ海域の開発とユダヤ人――海賊から交易まで
第11章 ヨーロッパからの労働移民――プアー・ホワイトの導入
第12章 ヨーロッパが運んだアジア人――環カリブ海地域の中国人
【コラム2】カリブ海と「コロンブスの日」
Ⅲ 欧米植民地統治からの独立とその後
第13章 アフリカ人奴隷の導入――新大陸で最大の奴隷輸入地域となったカリブ海世界
第14章 カリブ海地域における奴隷制度の廃止――奴隷貿易の廃止から奴隷解放への道
第15章 フランス植民地はどのような道を選択したか――独立の道と同化の道
第16章 スペイン植民地の独立――ドミニカ共和国・キューバ・プエルトリコ
第17章 英国植民地の独立――英領西インド諸島連邦から分離独立への道
第18章 オランダ植民地の独立――オランダ領に留まった島々と独立したスリナム
第19章 米国の未編入領域の経緯と現状――米国領バージン諸島とプエルトリコ
【コラム3】奴隷制廃止と英国議会――W・ウィルバーフォースが遺したもの
Ⅳ 多人種・多民族が共存するカリブ海世界の姿
第20章 アフロカリブ海世界――アイデンティティの変容とブラック・パワー運動
第21章 環カリブ海地域のアジア系社会――インド人・ジャワ人・ベトナム人など
第22章 インド系年期奉公人から多数派へ――トリニダード・トバゴとガイアナの政党政治を中心に
第23章 環カリブ海地域のイスラム系社会――その起源と現代に至る社会の形成
第24章 環カリブ海地域のユダヤ系社会――オランダ系ユダヤ人から東欧系ユダヤ人まで
第25章 カリブ海島嶼のマイノリティ――カリナゴ・ガリフナ・マルーン
第26章 環カリブ海地域のシリア・レバノン系社会――行商人から大富豪へ
第27章 環カリブ海地域のヨーロッパ系白人社会――絶対少数派としての存在とアイデンティティ
【コラム4】セイントマーティン――「言語境界線」が横断する島
Ⅴ 欧米におけるカリブ系社会と混交文化
第28章 古くて新しいクレオール――クレオールがカリブ海文化のキーワードになるまで
第29章 ニューヨーク市の英語圏カリブ系集団――誇り高きカリブ海の西インド諸島系
第30章 マイアミのハイチ・クレオール社会――言語文化継承の取り組み
第31章 英国のカリブ海移民たち――マイノリティの文化的影響
第32章 フランスのカリブ海移民社会――クレオール化を生きる人びと
第33章 オランダのカリブ海移民社会――多様性を認めるオランダ社会での定住と存在感
第34章 世界に広がるカリブ海の音楽――「ラム・アンド・コカコーラ」
【コラム5】キュラソーのクレオール言語パピアメントは書きことばとして定着するのか?
Ⅵ 融合と混交による独自のカリブ海文化の生成
第35章 トリニダード島の観客参加型カーニバル――カリブ海最大の熱狂
第36章 英語圏カリブ海音楽におけるアフリカ性――トリニダード島のカリプソとソカ
第37章 20世紀以降のジャマイカ音楽――ラスタファリからレゲエまで
第38章 カリブ海文学への招待――大陸と大陸、語圏と語圏を股にかける
第39章 英語圏文学への招待――起源と展開
第40章 スペイン語圏文学への招待――大アンティル諸島から大陸部まで
第41章 フランス語圏文学への招待――書き言葉と話し言葉のあいだで
第42章 カリビアンアート――世界の芸術文化が融合して誕生したカリブ海世界のアート
【コラム6】スリナムと小アンティル諸島のクレオール料理
Ⅶ 現代カリブ海世界の政治
第43章 政治体制の多様性と旧宗主国との関係――継承した体制と独自の体制の並存
第44章 社会主義国キューバ――半世紀にわたる自立への苦闘
第45章 カリブ海域の盟主をめざす大国の力学――ドミニカ共和国が取り組む地域外交
第46章 米国の対カリブ海域政策――軍事介入の歴史に決別できるか
第47章 現代中国とカリブ海世界――習近平のラテンアメリカ・カリブ外交
第48章 旧英領植民地諸国と英連邦の絆――英国伝統文化と慣習法
第49章 旧フランス植民地の多様性とフランス海外県――困難を伴う自立への道
【コラム7】女性の地位向上と政界進出――カリブ海世界の女性首脳たち
Ⅷ カリブ海世界の連携――経済社会開発を目指して
第50章 西インド諸島が輩出した二人の知識人――W・アーサー・ルイスとE・ウィリアムズの遺産
第51章 カリブ共同体(カリコム)――経済統合・機能的協力・対外政策上の協力
第52章 西インド諸島大学を中心とする人材育成のための地域協力――英国留学から地元の大学へ
第53章 カリブ海世界と米国およびラテンアメリカ諸国との連携――CBIとCELACを中心に
第54章 東カリブ諸国機構(OECS)――通貨を共有するミニステートの協力
第55章 南北問題とカリブ海世界――国連とロメ協定・コトヌー協定
第56章 カリブ海世界のジェンダー――男女平等と女性のエンパワーメント
【コラム8】旧宗主国への謝罪と賠償の請求――先住民虐殺と奴隷制の補償問題
Ⅸ グローバル化するカリブ海世界
第57章 カリブ海諸島のラム酒――旧宗主国の伝統を受け継ぐ地場製品
第58章 海島綿(シーアイランドコットン)――カリブが世界に誇る最高級コットン
第59章 カリブ海域のバナナ産業――グローバル化に翻弄される熱帯の特産物
第60章 カリブ海域の会員制ホールセールクラブ――存在感を保つプライススマート社
第61章 知られざる地下資源保有諸国――ボーキサイト・ニッケルから石油まで
第62章 カリブ海域の観光産業――地域を支える基幹産業の実情と課題
第63章 世界を動かすタックスヘイブン――その歴史と実態
【コラム9】クジラ漁の島、グレナディン諸島のベキア島
Ⅹ カリブ海世界と日本――相互交流の現状と未来
第64章 日本のカリブ海世界外交――利害を共有する諸国との外交重点地域
第65章 核兵器廃絶へ向けた日本との連携――共通目標への緊密な協力
第66章 日本とカリブ海域とのヒトとモノの交流――島嶼国同士の400年に及ぶ絆
第67章 カリブ海地域諸国への日本の開発援助――評価を受ける日本のODA
第68章 日本のカリブ海域水産業への支援――なぜカリブ海域なのか
第69章 カリブ海域の気候変動・防災・環境への支援――日本の経験を活かす
第70章 カリブ海諸国のエネルギー問題――構造的課題解決への日本の支援
【コラム10】カリブ海域諸国で愛される日本の中古車――日本の顔としての存在感
『カリブ海世界を知るための70章』参考文献
前書きなど
はじめに
読者の皆さんは、カリブ海世界は日本から遠いと、何となく思っているのではないだろうか。しかしカリブ海は必ずしも日本から遠くない。日本から直行便で行ける北米・欧州のいくつかの都市で乗り継げば、そこからカリブ海域のどこかの国へ直行できる。そしていったんカリブ海世界に足を踏み入れると、域内の移動は空路やフェリーで案外簡単なことが判る。そこでは街を走る車がほとんど日本車であるためカリブ海世界における日本の存在に気づき、多くの国が親日的であることも実感する。
しかし本書では、そのようなカリブ海世界を「白い砂浜・碧い海と空」の異国情緒あふれる地域として紹介するのではなく、カリブ海域諸国の政治・経済・社会・文化の有り様と人びとの暮らしを70のテーマで紹介する。世界のどの国とも同様に、暮らしの豊かさと公正・公平を実現しようとする取り組みがあり、社会における貧富の格差や不正・不公平を克服する難しさに直面しながらも、多くの住民が近代的な首都を中心に整った官公庁・道路・海空港などのインフラ・市場・教育施設・博物館・美術館などを身近に持って暮らしていることを知れば、読者の持つカリブ海世界のイメージは大きく変わるに違いない。
本書をまとめるにあたって編者があらためて気づいたことは、カリブ海世界全体を日本語で紹介した本があまりにも少ないことであった。専門的な研究書が出版されており、カリブ海世界で仕事をしている日本人も少なくないにも拘わらず、この地域全体の姿を紹介した出版物がほとんどなかった。そこでカリブ海世界をできるだけ広い視野で紹介してみようと考え、歴史・政治・経済・言語・文学・文化人類学などを専門分野とする研究者と現地で活躍する日本人を本書の企画に誘った。
(…後略…)