目次
はじめに
第Ⅰ部 ルーシからロシアへ
1 キエフ・ルーシの時代――国家の建設と諸公の分立
2 タタールのくびき――異民族支配のもとで
3 モスコーヴィア(モスクワ大公国)の台頭――第三のローマの誕生
4 大荒廃と動乱(スムータ)の時代――リューリク朝からロマノフ朝へ
5 ニーコンと古儀式派――17世紀の教会分裂
6 ウクライナ問題――もうひとつのルーシ
第Ⅱ部 ロシア帝国の時代
7 ツァーリと女帝――ピョートル改革に起因する女帝の誕生
8 ロシア帝国の領土拡張――多面的帝国の実相
9 コサック――ロシア帝国の尖兵
10 「大改革」の時代――西欧化と帝国の拡張
11 自由主義の時代――10月17日詔書への道
12 ユダヤ人問題――ロシアとユダヤの複雑な関係
13 19世紀の日露関係――通商関係樹立交渉から国境画定交渉へ
14 日露戦争と日露関係――敵国から同盟国へ
15 20世紀のロシア――帝国崩壊からソヴィエト体制へ
16 ベルジャーエフの時代――精神的転換と新たな世界観の探求
第Ⅲ部 ソ連邦の時代――「ユートピアの逆説」
17 レーニン――後進ロシアを社会主義の道へ
[コラム1]ロシア革命と古儀式派
18 戦時共産主義とユートピア――新しい人間の創造
19 共産党の支配――「党=国家体制」の成立と党内政治
20 ネップの農村――農民との「結合」の試みとその破綻
21 笑顔のプロパガンダ――1930年代の政治・文化
[コラム2]ハリウッドとコルホーズ――「楽しい生活」の映画プロパガンダ
22 飢饉とテロル――1930年代の悲劇
23 スターリン――20世紀が生んだ独裁者
24 大祖国戦争――偉大なる戦勝体験
25 米ソ冷戦と抑留問題――ソ連による捕虜の「ソヴィエト化」と米占領軍の「防衛網」
26 冷戦とソ連の核開発――米国製原爆のコピーから独自体制の構築へ
27 ソヴィエト農業の悲劇と勝利――最後の緊張の年1945~1970年
第Ⅳ部 変容するソ連――「危機の30年」
28 フルシチョフ改革――非スターリン化から共産主義建設へ
29 冷戦と米ソ関係――対立と協調の二重螺旋
30 日ソ交渉と日ソ関係――北方領土交渉の原点・共同宣言
31 ソ連と中国――同盟、対抗、そして戦略的パートナーシップへ
32 待ちの政治家ブレジネフ――「停滞の時代」と米ソデタントが象徴
33 デタントとエネルギー――エネルギー大国への道
[コラム3]デタント時代における日ソエネルギー協力について
34 ブレジネフ時代の社会――安定と停滞
35 ゴルバチョフ――冷戦を終わらせた男
36 世界を変えた「新思考外交」――冷戦の終結をもたらすが、残された課題も多く
[コラム4]「新思考」と北方領土――逃した接近の機会
37 ペレストロイカと民族問題――立て直し/改革/崩壊
38 国民の総意に基づかないソ連解体――主因はペレストロイカとレーガンの対ソ戦略
第Ⅴ部 よみがえるロシア
39 エリツィンとその時代――苦難に満ちた体制転換
40 ウクライナとロシア――ウクライナの対ロ姿勢と内政
41 ロシア連邦の民族問題――進行する二つのナショナリズム
42 よみがえる宗教――民族的伝統としての正教と正教民族としての記憶
43 経済体制の転換――石油・ガスに依存する粗野な資本主義の実現
44 農業・農村問題――生産の集中化と農村の過疎化の進行
45 プーチン――無名の治安幹部から世界レベルの大統領へ
46 オリガルヒ――国有エネルギー資産の民営化で生まれた寡占資本家
47 プーチン外交――欧米との「協調」から「対立」へ
48 ロシア独自の安全保障観――影響圏的発想と過剰な国防意識
49 ロシアと未承認国家問題――ロシアの近い外国に対する重要な外交カード
50 日ロ関係――ペレストロイカから21世紀へ
ロシアに未来はあるか――おわりにかえて
参考文献
ロシアの歴史を学ぶためのブックガイド
ロシアの歴史を知るための50章関連年表
前書きなど
はじめに
今ここにおおくりするのは新しく書かれたロシアの歴史入門である。目次と巻末の執筆者紹介を見れば理解できるように、主題ごとに執筆している筆者陣は手練れのベテランから新世代の若手歴史家までが参加している。
日本にとっての隣国でもあるロシア連邦は、地表の8分の1と世界最大の領土をほこる大国として、なによりもユーラシア、そして世界の歴史に多大な影響を与えてきた。ロシアが動くたびに、世界を驚かせた。
このことは何よりも20世紀ロシアにあてはまる。2017年で100周年を迎えるロシア革命、そしておなじく25年前におきたソ連崩壊、ともに20世紀最大級の「世界を揺るがした」歴史的事件となった。現代グローバル政治でこれほどのインパクトを与えた国はほかに少ない。なかでもモスクワ発の共産主義は、20世紀最大の政治運動(A・ブラウン)、そして支配体制となり、「短い世紀」(E・ホブスボーム)としてのこの時代を刻印することになった。
その後もロシアはグローバル政治の転換の源泉である。そうでなくともプーチン政権以降のロシアは経済成長と政治の安定によって、とくに2012年の大統領再選後ロシアは世界政治でも最重要なプレーヤーの一つとして復帰していた。なかでも2014年2月ウクライナでの「マイダン革命」という政治危機、3月にはクリミアのロシア連邦への併合が生じた。政治大国ロシアの台頭は中国の超大国化と並んで多極世界へむかう世界の大きな徴表となっている。
そのクリミア危機は、あらためてキエフというルーシ国家と現在のロシア、ウクライナ国家との関係の問題を提起した。そもそも「ロシアとは何か、ロシア国家の起源とは何か」という、新たな問題をも提起することになったからである。クリミアは988年にルーシの大公ウラジーミルが同地のヘルソネスでキリスト教を受洗することにより、その後のロシア国家の起源となったと言われる。
(…後略…)