目次
序章 ユーラシア国家カザフスタン
Ⅰ 自然環境・地理・民族
第1章 自然環境と人々のかかわり――地形、気候と氷河の役割
第2章 生態――半乾燥地域における自然利用と暮らしとその変容
第3章 カザフスタンの諸民族――テュルク系・スラヴ系など多民族の共存
第4章 二つの主要言語――カザフ語とロシア語
第5章 諸地域と三つのジュズ――歴史が生み出す重層性
第6章 二都物語――趣ある旧首都アルマトゥ、未来型の新首都アスタナ
第7章 ユーラシア大陸の観光発展途上国――知られざる魅力を縦横無尽に旅する
第8章 在外カザフ人①――中国のカザフ人
第9章 在外カザフ人②――モンゴルのカザフ人
【コラム1】移動するカザフ遊牧民
Ⅱ 歴史
第10章 気候変動とカザフ草原の歴史――気候・植生の復元から
第11章 遊牧民の遺跡――古墳、黄金人間、岩画、石人
第12章 遊牧国家の興亡――突厥からモンゴル帝国まで
第13章 遊牧民のイスラーム化――その経緯と浸透の諸相
第14章 カザフ・ハン国の成立とジュンガルとの戦い――カザフ民族の源流
第15章 カザフ・ハン国と中国・清朝――アブライ・ハンの外交から中華民国期まで
第16章 交易路としてのカザフ草原――多様な商人たちによる東西ユーラシア交易
第17章 カザフ草原におけるロシア統治――同化と異化の間で
第18章 カザフ近代知識人――変化の時代の多彩な活動
第19章 ロシア革命とアラシュ・オルダ――自治運動の苦闘
第20章 カザフ共和国における民族と政治――「疑似国民国家」の実体化
第21章 ソ連時代の開発と環境――社会主義的近代化とその末
第22章 遊牧地域からソ連の食料基地へ――社会主義農業の確立
第23章 ソ連崩壊とカザフスタンの独立――揺らぐ連邦制の中で追求した自立
第24章 歴史像の変遷――政治と学問の変化を映す鏡
【コラム2】歴史上の人物を顕彰する――街路、銅像、そして祝祭
Ⅲ 生活・社会
第25章 もてなしと食文化――カザフ料理から多様な外食産業まで
【コラム3】ミルクから観る牧畜文化
第26章 伝統的天幕と現代の住居――シャヌラクは家族の象徴
第27章 父系出自と親族関係――ルーツ探求と相互扶助
第28章 子どもの誕生と成長――出生祝から割礼祝まで
第29章 結婚のかたち――恋愛から婚姻儀礼まで
第30章 死と葬送――死者が生者にもたらす豊かさ
第31章 イスラーム復興の行方――国家による統制と人々の日常生活
第32章 教育――輝かしい改革と生々しい現実
第33章 医療・保健――ソ連崩壊後の健康悪化とプライマリー・ヘルス・ケア
Ⅳ 文化・芸術
第34章 口承文芸の世界――カザフ文化の支柱
第35章 カザフ文学――「反乱の詩人」から現代作家まで
第36章 カザフの音楽――伝統音楽と周辺ジャンルの重層性
第37章 カザフ映画――世界の注目を集める才能と作品
第38章 現代アート事情――ソ連の遺産と新しい潮流の併存
第39章 現代の若者文化――グローバル化と民族意識高揚の間で生まれる多様なスタイル
第40章 スポーツ事情――サッカー、格闘技、馬上競技など
第41章 ファッション――民族衣装と現代のデザイナーたち
第42章 インターネットとマスメディア――「部分的自由」の中の民主化
Ⅴ 政治・経済
第43章 長期化するナザルバエフ政権――大統領への権力集中と強まる閉塞感
第44章 外交・地域協力――「全方位外交」に見るリアリズム
第45章 台頭する中国との関係――国境問題の解決と貿易・投資の進展
第46章 急進的改革の是非はいかに――世界経済の潮流に翻弄される資源国の体制移行
第47章 「新興小麦輸出国」の憂鬱――市場経済移行下の農業
第48章 石油ガス開発――外資との協調、輸出ルート多角化が不可欠
第49章 鉱物資源開発――石油産業と並ぶ経済的原動力としての期待
第50章 安全保障――軍の変化と国際平和維持活動の実践
第51章 社会問題――ストライキ、過激派のテロ、ウクライナ紛争の反響
第52章 在外カザフ人のカザフスタンへの移住―― 「帰還」の夢と現実
第53章 独立後の民族問題―― 上からの「解決」と表面的「多文化主義」の強調
【コラム4】反対派政治家の生きざま――N・マサノフとV・コズロフ
Ⅵ 日本とのかかわり
第54章 日本人抑留者――戦後最大の悲劇の中で
第55章 セミパラチンスク核実験場とヒロシマ・ナガサキ――「ヒバクシャ」の医療支援
第56章 親日国の日本語教育――日本語ブームが去った後の可能性
第57章 日本研究――文化と社会への多様な関心
第58章 アラル海調査と環境問題――灌漑水利開発が社会と環境に及ぼした影響
第59章 日本との経済関係――戦略的パートナーシップ構築の道
第60章 日本のカザフスタン外交――援助外交から安定した二国間関係へ
カザフスタンを知るための参考文献
あとがき
前書きなど
あとがき
本書では、独立から20年余りを経て日本とのかかわりが増しつつあるカザフスタンについて、新たな研究成果をふまえて包括的かつ多面的に紹介してきた。カザフスタンの魅力は、なんといってもそのスケールの大きさにあるだろう。見渡す限りの草原には大小さまざまな河川と湖が点在し、一部には峻厳な山脈もそびえたつ。この雄大な自然環境のもと、過去から現在に至るまで、ユーラシア全域に及ぶダイナミックな活動が繰り広げられてきた。天然資源が豊富なことも特徴で、日本との政治・経済関係が強化される要因の一つとなっている。
両国間の関係の発展の一方で、あまりよく知られていないカザフスタンの人々の社会と文化について、現地での調査研究をふまえて盛り込んだことも本書の新たな試みであった。ソ連時代には外国人の現地調査はきわめて制限されていたが、1990年代以降、カザフスタンに実際に暮らしながら研究を進めることができるようになった。多民族が暮らす現地の日常に身をおくことで鮮烈に見えてくるのは、カザフ文化やイスラームのあり方、そして社会のあり方そのものを模索し続ける人々の姿である。同時代を生きる人々の現在進行形の活動を、本書ではできるかぎり伝えるよう努めた。
学術・文化交流の進展を反映して、現地出身の研究者による成果も本書には含まれている。カザフスタンから日本にいかなる視線が注がれているのかについてもとりあげた。現地でしばしば聞く日本人抑留者についての記憶は、私たちが知らなかった歴史の一面をも伝えてくれる。本書が、カザフスタンについて、そして日本とのかかわりについても、より深く知るきっかけとなるならば幸いである。
(…後略…)