目次
本書の刊行にあたって
シンポジウム委員会 委員名簿
はじめに
このシンポジウムの名称について
第1章 出入国管理行政における諸問題の解決にむけて
第1節 序論
第2節 被収容者の権利擁護のために
第3節 改定入管法――在留カードを中心に
第4節 外国人の権利擁護のために
第5節 総括
第2章 外国人労働者の直面する問題とその解決にむけて
第1節 はじめに
第2節 外国人研修生・技能実習生の労働問題
第3節 日系南米人の労働問題
第4節 ALTの労働問題
第5節 外国人労働者・技能実習生関東一斉電話法律相談会
第6節 外国人労働事件入門
第3章 多文化・多民族共生社会に関わる法と弁護士の役割
第1節 外国人の子どもの教育について
第2節 渉外家事事件に取り組む
第4章 ヘイトスピーチ規制立法にむけて
第1節 京都事件から考える
第2節 諸外国におけるヘイトスピーチ規制
第3節 日本国内におけるヘイトスピーチ規制の現状(京都事件を題材に)
第4節 提言
第5章 弁護士へのアクセス
第1節 弁護士による支援の必要性と問題点
第2節 弁護士へのアクセスを拡充するために
資料編
日弁連資料
弁護士が外国人の仮放免申請を行うときの取り扱いの変更について
未成年・妊娠中の女性等事務連絡のお知らせ
弁護士が身元保証人となる場合等の入国管理局の仮放免の取り扱いと、
被退去強制者の送還予定時期の弁護士への通知制度について
・添付1 協力申出書
・添付2 通知希望申出書
入管書式
第15号様式 面会許可・物品授与許可申出書
放免許可となった場合の居住予定地
退去強制令書発付等取消請求訴訟 訴状例
再審申請書
外国人技能実習制度の廃止に向けての提言
アンケート結果の集計
弁護士会法律相談センター
日本司法支援センター(法テラス)
国際交流協会等
コラム
コラム1 外国籍の弁護士による入管収容施設における面会
コラム2 カナダの入管収容施設見学記
コラム3 規約人権委員会とは…?
コラム4 入管身柄事件と憲法31条、33条、34条、37条
コラム5 外国人に関する法制と指導判例の来歴
コラム6 排外主義が発生する背景について
コラム7 公職者のヘイトスピーチ規制
コラム8 日本国籍取得後の法的問題──エスニック国家、シビック国家
コラム9 羽田入管当番弁護士制度
あとがき
執筆者一覧
前書きなど
はじめに
本書は、2012年度の関東弁護士会連合会(関弁連)シンポジウム委員会が2011年7月から行ってきた調査・研究に基づく報告と提言です。
第1章では、入国管理局に収容されている外国人が、医療体制の不備・水準の低さ、身体の自由に対する過度の制約、弁護士等相談機関へのアクセスの不十分さ等、人権上無視できない状況に置かれていることを先ず確認し、弁護士の早期受任による施設収容回避、仮放免手続による早期の釈放、難民認定申請を含む入管分野における弁護士のスキルアップを図るとともに、将来的には全国の入管施設における法律相談制度の充実や、国際空港等における入管当番弁護士制度の導入を視野に入れ、特に軽視されがちな非正規滞在者をはじめとする外国人の権利擁護に努める必要性を提言したものです。更に、2009年7月公布の改正入管法によって導入された新しい在留管理制度(在留カード)が2012年7月9日より施行されているところ、新制度の運用が、弱い立場に追い込まれた外国人を不当に危険に曝すことのないよう、今後、継続的に注視していく必要があることを具体的に述べています。
第2章では、外国人研修・技能実習生、南米日系人、ALT(外国語指導助手)等の外国人労働者の多くがチープ・レイバー(安価な労働力)として位置づけられ、人権侵害及び労働諸法令違反が常態化している状況を明らかにし、弁護士が各個別事案における救済に取り組むと共に、制度的な改革についても積極的に取り組む必要があることを示しました。
第3章では、在日外国人の増加に伴い、外国人を当事者とする離婚の件数も増加していることから、渉外家事事件において問題となる準拠法、手続等について、情報交換のためのネットワークの構築・研修会等の実施により、渉外家事事件の経験のない弁護士にも受任できる体制を早急に整える必要性を提言しました。また、外国籍の子どもたちの中には、「日本語がわからない」等の理由により、学校に行かない子どもが増えていますが、日本語指導の充実、就学への対策によって、外国人の子どもの教育を受ける権利を保障することが、彼らの民族的アイデンティティを確立させ、ひいては、多文化・多民族共生社会の構築につながることを述べています。
第4章では、排外主義的主張を標榜する団体による外国人に対する差別・迫害事件が近時多発しています(京都朝鮮第一初級学校襲撃事件、フィリピン人家族の「追放デモ」等)が、これは一部の団体の行動というだけの問題ではなく、社会全体の中で外国人に対する排外主義的雰囲気が強くなり、インターネット上などで外国人に対する差別言論が横行していることを背景にしており、外国人の人権擁護の観点から看過し得ない問題となっている現状から、諸外国の規制法を手がかりとして、ヘイトスピーチを含む人種差別的・排外主義的加害行為を、一定の限度で事前に規制しうる法制度の構築を提言したものです。
第5章では、弁護士による支援の必要性は高いにもかかわらず、「日本語が話せない」「どこに相談に行っていいのかわからない」「費用が払えない」等の理由により、弁護士にアクセスすることが困難となっている外国人の状況を解消するために、各弁護士会が、通訳人を準備した無料法律相談の実施とその広報、外国人の事件を取り扱う弁護士の名簿の作成とその配布、自治体及び国際交流協会等との連携や、空港等において上陸不許可となった外国人や、入管施設に収容された外国人の相談を受けるための制度の構築・充実に努める必要性があることを確認しました。
本書が出版できたのは、関弁連の「外国人の人権救済委員会」委員(委員のほとんどは本シンポジウム委員でもあります。)のこれまでの熱心な取り組みの成果といっても過言ではありません。改めて、外国人の人権救済委員会委員をはじめ、本シンポジウム委員会委員、関弁連事務局に感謝致します。
本書を参考に、多くの会員が外国人が直面するさまざまな困難を認識し、その解決に向けた取り組みを始められることを願っています。
関東弁護士会連合会 2012年度シンポジウム委員会 委員長 植竹和弘