目次
まえがき(吉田順一)
第I部 モンゴル帝国研究の諸相
1 『モンゴル秘史』研究の新たな展開にむけて(吉田順一)
2 『元朝秘史』の世界を理解するために――中国における『元朝秘史』研究の問題を中心に(チョクト[朝克圖])
3 『集史』第1巻「モンゴル史」の校訂テキストをめぐる諸問題(宇野伸浩)
4 石刻史料が拓くモンゴル帝国史研究――華北地域を中心として(舩田善之)
5 ジュチ・ウルス史研究の展望と課題より(赤坂恒明)
6 モンゴルと西アジア(高木小苗)
7 モンゴル帝国時代の移動と交流(四日市康博)
8 モンゴル帝国成立過程における“氏族制”批判――ウラディミルツォフ的解釈を離れるために(福島伸介)
第II部 ポスト帝国期のモンゴル
9 ポスト帝国期のモンゴル・中国関係(永井匠)
10 四オイラド史の成立(チンゲル[青格力])
11 チベット仏教世界の一部としてのモンゴル理解の必要性について(石濱裕美子)
12 モンゴルにおける史書の受容と継承について――『白い歴史』と『蒙古源流』を事例に(井上治)
13 清代モンゴルの社会・行政統治構造理解をめぐる試論(岡洋樹)
14 清朝の八旗制とモンゴル(柳澤明)
第III部 「モンゴル民族」の誕生
15 ボグド・ハーン政権――近代モンゴルと中国(橘誠)
16 モンゴルとソヴィエト,コミンテルン(青木雅浩)
17 内モンゴルと近代日本(鈴木仁麗)
18 近現代におけるモンゴル社会の構造変動と社会史の可能性(ボルジギン・ブレンサイン)
19 20世紀におけるモンゴル人の牧畜環境――ノーン(嫩江)ホルチン地域を中心に(アルタンガラグ[阿拉騰◆日◆])【◆=口偏に戛】
あとがき(柳澤明)
前書きなど
まえがき(吉田順一)
(…前略…)
本書は大きく3部から構成される。第I部「モンゴル帝国研究の諸相」では,モンゴルが世界帝国を築いた13~14世紀に関して,『モンゴル秘史』や『集史』などの重要史料や,中国・西アジアなど帝国を構成した諸地域の状況をめぐる諸問題が取り扱われる。第II部「ポスト帝国期のモンゴル」では,おおむね15~18世紀,すなわち帝国解体後の分裂時代から,チベット系仏教の再浸透,清朝による統合を経て,近現代のモンゴルにつらなる枠組みが形成されてくる過程に目が向けられる。第III部「「モンゴル民族」の誕生」では,19世紀以降の近現代において,さまざまなレベルでの社会変動や,中国・ロシア(ソ連)などの隣接諸勢力との関わりの中で,「モンゴル民族」が明確な形をとってあらわれてくる過程が扱われる。
本書の企画にあたって留意したことは,単なる個別研究論文の集積ではなく,内容に全体として有機的な連関をもたせ,かつある程度幅広い読者層にアピールしうるものにしたいということであった。そこで,執筆依頼にあたっては,各執筆者に,それぞれのトピックスにかかわる史料や研究の状況をできるだけ手際よく整理するとともに,その問題点をも指摘し,将来への展望を示すことを求めた。つまり,本書はいわゆる論文集ではなく,むしろ「研究の手引き」に近い性格をもつものである。本書の大きな特徴は,各執筆者の専攻する時代・分野のバランスが取れているため,もちろん完璧とは言えないものの,モンゴル帝国時代から近現代に至るモンゴル史上の重要な問題の多くをカバーしていることである。また,日本国内だけではなく,広く世界のモンゴル史研究に目を配っている点も強みである。本書に類する性格の書物は,たとえば中国史に関してはいくつか見受けられるが,モンゴル史に関しては類書がないと言える。
早稲田大学モンゴル研究所はこれまで,国際シンポジウムを実施したり,内外の研究者を招いて講演会や座談会を行ったりして,内外の研究者との交流をさかんに行ってきた。また研究の成果として,『早稲田大学モンゴル研究所紀要』1号~5号と同紀要の別冊2種類のほか,『近現代内モンゴル東部地域の変容』(アジア地域文化学叢書8,雄山閣,2007年)も編纂した。今回研究所を閉じるにあたって,本書を出版して有終の美を飾ることができるのは,まことにうれしいことである。
(…後略…)