目次
まえがき
【ロシアの歴史 古代から16世紀末まで 6年生】
序文
第1章 古代ルーシ
1.東スラヴ族
2.東スラヴ族の隣人
3.古代ロシア国家の形成
4.キエフの最初の諸侯
5.ウラジーミル・スヴャトスラヴィチ公――キリスト教の受容
6.古代ロシア国家の最盛期――賢公・ヤロスラフ公時代
7.古代ルーシの文化
8.古代ルーシの日常生活と慣習
第2章 ルーシにおける政治的分裂
9.古代ロシア国家の分裂の始まり
10-11.ルーシの主要な政治的中心地
12.東方からの襲来
13.西方の侵略者とロシアの戦い
14.ロシアとキプチャク・ハン国(金帳汗国)
15.ロシアとリトアニア
16.12~13世紀のロシア文化
第3章 モスクワ・ルーシ
17.「ルーシの地」統合の前提諸条件。モスクワ公国の興隆
18.オルダ支配(モンゴル・タタールのくびき)との闘争の要――モスクワ・クリコヴォの戦い
19.14世紀末~15世紀中ごろにおけるモスクワ公国とその隣国
20.統一ロシア国家の設立とオルダ支配(モンゴル・タタールのくびき)の終結
21.15世紀末~16世紀初頭におけるモスクワ国家
22.15世紀末~16世紀初頭の教会と国家
23.選抜会議の改革
24.イヴァン4世の対外政策
25.オプリチニナ
26.14~16世紀における教育、口承民族文芸、文学
27.14~16世紀の建築と絵画
28.15~16世紀の生活
まとめ
年表
【ロシアの歴史 16世紀末から18世紀まで 7年生】
第1章 16世紀から17世紀までのロシア267
1.ボリス・ゴドゥノフの内政と外交
2.動乱(スムータ)
3.スムータ時代の終焉
第2章 17世紀のロシア
4.経済における新しい現象
5.ロシア社会の主要な階級制度
6.国内の政治的発展
7.権力と教会。教会分離派
8.国民運動
9.外交
10.17世紀における教育と文化
11.階級ごとの生活。習慣と道徳
第3章 ピョートル時代のロシア366
12.ピョートルの改革の前提条件
13.ピョートル1世。世紀の狭間にあるロシア
14.北方戦争
15.ピョートル1世の改革
16.18世紀最初の四半世紀におけるロシアの経済
17.18世紀最初の四半世紀の国民の動き
18-19.18世紀最初の四半世紀の文化と生活の変化
第4章 1725~1762年のロシア
20-21.宮廷クーデター
22.1725~1762年の国内政治
23.1725~1762年のロシア外交
第5章 1762~1801年のロシア
24.エカチェリーナ2世の国内政治
25.E・I・プガチョフの農民戦争
26.18世紀後半ロシアの経済発展
27-28.エカチェリーナ2世の外交政策
29.パーヴェル1世のロシア
30.科学と教育
31-32.芸術文化
33.生活と習慣
まとめ
年表
【ロシアの歴史 19世紀 8年生】
序文
第1章 19世紀前半のロシア
1.1801~1806年のアレクサンドル1世の内政
2.1801~1812年の外交政策
3.M・M・スペランスキーの改革事業
4.1812年 祖国戦争
5.ロシア軍の国外進軍。1813~1825年の外交政策
6.1815~1825年のアレクサンドル1世の内政
7.1812年の祖国戦争後の社会経済の発展
8.アレクサンドル1世時代の社会運動
9.1825年の王朝の危機。デカブリストの乱
10.ニコライ1世の内政
11.1820~1850年代における社会経済発展
12.1826~1849年代のニコライ1世の外交
13.ニコライ1世の治世における社会運動
14.1853~1856年のクリミア戦争。セヴァストーポリの防衛
15.教育と学問
16.ロシアの最初の発見者と探検家
17.芸術文化
18.生活様式と慣習
年表
前書きなど
まえがき
本書はロシアで出版された4巻からなる歴史教科書『ロシア史――古代から16世紀末まで 6年生』、『ロシア史――16世紀末から18世紀まで 7年生』、『ロシア史――19世紀 8年生』、『ロシア史――20世紀から21世紀初頭 9年生』の日本語訳である。
ロシアにおける学校教育制度は日本の教育制度と異なり11年制をとっており、初等教育課程(1~4年生)、基本教育課程(5~9年生)、中等教育課程(10~11年生)となっている。2007年までは初等教育課程及び基本教育課程が義務教育と位置づけられていたが、現在は全教育課程が義務教育になっている。
歴史の授業は、5年生から「古代の世界史」の科目で始まり、6年生からは「ロシア史」を、それと並行して「中世史」(6年生)、「近代史」(7~8年生)、「現代史と法」(9年生)を学ぶ。10年~11年生は、より理論的なレベルで歴史の再学習が実施され、「古代から19世紀末までのロシア史」及び「ロシア史、20世紀から21世紀初頭」と同時に「世界史――古代から19世紀末」及び「諸外国の現代史」を学ぶ。これら歴史科目は必修科目となっている。
社会主義政権時代、ソヴィエト連邦のすべての学校が、ひとつの歴史教科書シリーズを用いていた(他科目も同様)。ソ連邦崩壊後、ロシアの教育状況にも変化の兆しが現れ、様々な教科書の出版が許可された(ただし教育現場においては、ロシア教育省による教科書推薦リストのなかから採用)。ただ、圧倒的多数の学校は、以前同様「教育(Просвещение)出版社」(1930年に国営企業として設立され、2005年から株式会社となる)の教科書を用いている。
本書は、同出版社から出版されたロシア史の教科書を翻訳原本として採用した。また、基本教育課程の教科書は、ロシアの歴史、近隣諸国及びその他の諸外国との相互関係の歴史、世界文明史におけるロシアの位置等に関する現代ロシア人の基本的世界観、思想、価値観の形成の基礎となっているため、その教科書を翻訳に用いた。
ソヴィエト政権以前には、ロシア史は明らかにイデオロギーの殻に包まれ伝えられてきた。そして、儀式や神に選ばれたロシア民族の思想、専制政治の思想、ロシア正教の偉大な役割の思想が、それらの基になっていた。したがって、そこでの歴史は、大公・皇帝や諸侯、ロシア正教の高位聖職者の伝記や行伝に帰着していた。
ソ連時代の世界史やロシア史の教育も、イデオロギー化されたものであった。社会発展でのすべての事象が、階級闘争と物質的・経済的要因の優位性を盛り込むマルクス・レーニン主義のプリズムを通して論じられてきた。
ポスト・ソヴィエト期に入り、歴史プロセスの全体的流れと個々の出来事や史実について、より客観的で多様な解釈と評価を行う余地が生まれ、歴史観に対するイデオロギー的抑圧は著しく緩和されている。現代のロシアの歴史家たちは、ロシアの国家と社会の進化を、より客観的に、多様に捉えようとし、全世界的な歴史の歩みの中でより有機的に書き加えようと試みている。
過去数年間に、個々の歴史的出来事やある時代(例えば、キエフ・ルーシ形成のノルマン学説、モンゴルのくびき、イワン雷帝の時代、ピョートル大帝の改革、十月革命、レーニン及びスターリンの役割など)について、非常に独創的な数多くの研究が生まれた。それに伴って、学術界のみならず、それらの問題やその他の諸問題を巡って社会的に熱烈な議論が行われている。
このような変化は、当然ながら中等教育における歴史教育分野にも影響を及ぼすことになった。ロシア史の教育課程は、脱イデオロギー化、歴史プロセスをより客観的に分析するという観点から見直されてきた。さらに、教科書の執筆者たちは、10~11年に満たない生徒たちの年齢や教育水準を考慮して、ロシアの歴史の歩みやロシアの諸民族の運命、ロシア史における最重要の出来事やもっとも代表的な人物に関する客観的で一貫した理解を生徒たちに促すことに主要な注意をはらい、極端な評価や概念は使用していない。慣習や風習の歴史、教育や科学技術、文化・芸術、宗教の歴史に関連する資料が著しく増大したことは、肯定的評価に値する。
読者にとって、いくつかの史実に関する解釈や評価が、難解で、あるいは単純化されているように感じるかもしれない。しかし、読者は、本書の次の主要な特徴を考慮に入れる必要がある。第一に、本書は専門家向けの学術研究書ではなく、ロシア史を初めて学習する生徒向けの教科書である。そのため、叙述方法も、史実や人物の解釈と評価も、特定の年齢層(12~16歳)向けに書かれている。第二に、他のどの国の教科書でもそうであるように、国家の視点から歴史が描かれている。そうすることにより、ロシア人のメンタリティや世界観、歴史や世界を、より明瞭な理解へ繋げることを意図している。
読者がロシア人の解説によるロシア史を学ぶことにより、近くて遠い隣国を一層理解し、何よりも日本とロシアの相互理解の深化に役立つことを心から期待する。
最後に、翻訳諸氏の尽力なくしては、本訳書の上梓は実現されなかったことを銘記し、心から感謝申し上げたい。同時に、本書の刊行を決意された明石書店の石井昭男社長、出版過程で励ましと助力をいただいた佐藤和久氏に深い謝意を表したい。