目次
まえがき
豊州炭礦
ポンプ方の一生——森田喜久雄
募集人の奴隷狩り——安元錫
兄の代わりに連行——安龍漢
あえない命を訪ねて
豊州炭礦の「壁文字」について
貝島大辻炭礦
寺を訪ねて
朝鮮人労務管理者——森本岩男
大辻炭礦のにわか坑夫——呉鶴伊
三菱方城炭礦
方城炭礦と朝鮮人
青年労務 永岡巌の証言
方城炭礦朝鮮人独身寮
方城炭礦の囚人労働
大和寮舎監の証言
強制連行の記録文書
朝鮮人労働者の移入と訓練
過去帳調査
方城炭礦「金田分坑」
圓満寺の思い出
田川の石灰山
石灰山と「産業セメント」
朝鮮人労働者の証言——金宗元
朝鮮人労働者の証言——崔丁述
戦時期の強制連行
死者を訪ねて
寺院巡り
納骨堂の建立
付記
「創氏改名」についての麻生妄言
「被強制連行」は誇りなのか?
調査の日々を顧みて
あとがき
前書きなど
金光烈先生から豊州炭礦と三菱方城炭礦の分厚い調査記録を手渡されたのは、長崎での「南京大虐殺生存者証言集会」に福岡から駆けつけてくださった二○○一年一二月のことであった。「ぜひ読んでほしい」と、親しい者たち数人がいただいた。しかし、私はいずれじっくり読むつもりで、結局一○ヵ月間も机上に置いたままにしていた。思い出すだけでも情けなく、申しわけないことである。それは金先生に対してのみならず、記録に登場するすべての強制連行犠牲者に対して恥ずべきことであった。 読み始めると最後まで一気に読んだが、無数の犠牲者の呻き声が聞こえてくるようで、居ても立ってもいられなくなったのを覚えている。「歴史の闇に葬られてたまるか、恥を知れ、責任をとれ」と彼らは時空を超えて訴えてきた。金先生に出版を強く勧めようと、その時、私は決心した。長崎の離島の炭坑までも一つひとつ丹念に調査し記録しておられることを私は知っていたし、三菱への遺骨返還要求にその綿密な記録の一部を活用させていただいたこともあった。これまで先生は三○年以上に及ぶ調査記録を出版することには踏み切れないでおられた。最大の理由は「出版を快く思わない人たちがいたから」で、痛い経験があるとも言われていた。しかし、私は納骨堂の埃にまみれた同胞の遺骨にはらはらと涙を流された先生の思いを犠牲者たちの万斛の涙とともに世に告げてほしいと懇願した。事実と数字の乾いた記録ではなく、人間の、そして民族の情がほとばしる記録だからである。しばしの躊躇の後、幸いにもついに先生は私の懇願を聞き届けてくださったことをここに記しておきたい。 本書は九州筑豊地方での調査記録の一部にすぎないが、朝鮮人強制連行・強制労働の全貌に通ずるものと言って過言ではない。戦後六○年近い今日なお日本の侵略と侵略戦争に対する無知と無関心と無責任に加え、知名の政治家の言動にも隠蔽と歪曲の策動が目立つ現状に対して、本書が抗議し警鐘を鳴らす意義は大きいと考える。 また、本書はいわゆる拉致問題を意識して出版されたものではなく、拉致が卑劣な犯罪であることはいうまでもないけれども、戦前の朝鮮人強制連行や軍隊性奴隷もまた肉親を引き裂く拉致と消息不明や遺骨放置であったことを結果として思い起こさせるであろう。日本国と日本国民は強制連行された朝鮮人の恨(ハン)を決して忘れてはならないのである。 長崎大学教授 岡まさはる記念長崎平和資料館理事長 高實康稔