目次
1 シルクロードから現代へ
第1章 中央アジアの多様な世界
第2章 「中央アジア=シルクロード」か?
第3章 モンゴル帝国とその後
第4章 ティムール帝国
第5章 英雄叙事詩に見る歴史とフィクション
第6章 チンギス・カンの子孫とムハンマドの子孫
第7章 カザフ・ハン国
第8章 中国ムスリム大反乱とコーカンド・ハン国
第9章 ロシア帝国の支配
第10章 ロシア・ムスリムの改革と反乱
第11章 ロシア革命と自治運動
第12章 ソビエト体制への抵抗と適応
第13章 東トルキスタン共和国
第14章 スターリン時代
第15章 ソ連計画経済体制下の工業開発
第16章 アラル海の悲劇
第17章 ペレストロイカ・ソ連崩壊と中央アジア
第18章 「歴史の見直し」から「国史」の創成へ
2 ことばと芸術・文化
第19章 中央アジアの言語
第20章 カザフ文学の世界
第21章 タジク・ウズベク民族文学の創成
第22章 口承文芸の現在
第23章 現代に生きる伝統音楽
第24章 中央アジアのポピュラー音楽
第25章 中央アジアの美術
第26章 中央アジア映画の活力
3 中央アジアの町と人々
第27章 ブハラとサマルカンド
第28章 アルマトゥとサルアルカ
第29章 カザン
第30章 新疆ウイグルの町々
第31章 マハッラのくらし
第32章 農村のくらし
第33章 人の一生と人生儀礼
第34章 中央アジアの女性
第35章 中央アジアのロシア人
第36章 中央アジアの朝鮮人
第37章 祝祭
第38章 料理と酒
4 政治変動とイスラーム運動
第39章 カザフスタン
第40章 ウズベキスタン
第41章 クルグズスタン
第42章 トルクメニスタン
第43章 タジキスタン
第44章 カラカルパクスタン
第45章 中央アジアの反対派政治家群像
第46章 タタルスタンとバシュコルトスタン
第47章 新疆ウイグルの民族問題
第48章 フェルガナ盆地のイスラーム復興
第49章 イスラーム運動
5 市場経済移行の苦しみ
第50章 市場経済への移行(1)
第51章 市場経済への移行(2)
第52章 農業改革の二重の課題
第53章 畜産ソフホーズの解散
第54章 カスピ海周辺の天然資源
6 「グレート・ゲーム」と日本
第55章 戦前日本に来たタタール人・バシキール人
第56章 新しい「グレート・ゲーム」?
第57章 地域協力機構の盛衰
第58章 日本との経済関係
第59章 環境問題での日本の協力
第60章 日本「シルクロード外交」の行方
中央アジア概略図
中央アジア各国・地域概要
参考文献
《執筆者一覧(編者以外)》
赤坂恒明,石田紀郎,井上徹,岩崎一郎,岡奈津子,帯谷知可,川口琢司,小松久男,坂井弘紀,島田志津夫,新免康,東田範子,西山克典,野田仁,野部公一,吉田世津子,輪島実樹
前書きなど
ユーラシア大陸の文字どおり中央に位置する中央アジアは、外部世界の人々にとって長い間秘境だった。ソ連時代、一部の観光都市を除いてはソ連領中央アジアを訪れる外国人はまれであった。私は一九九〇年にカザフスタンを訪れた時、多くの場所ではじめて見る日本人だということで大歓迎を受けたのを思い出す。 しかしソ連崩壊後、独立した中央アジア諸国は世界とのつながりを深め、国際社会での存在感を確実に増してきた。石油・ガスなどの資源、イスラーム過激派問題、またサッカーなどのスポーツと、さまざまなニュースの中に中央アジアはよく登場する。日本でも中央アジアへの関心は高まっている。考えてみれば、中央アジアは中国とロシアをはさんで、日本にとって隣人の隣人という関係にあるのである。だが、この地域について幅広く正確な知識を与えてくれる本は、意外に少ない。本書は、多数の専門家を執筆者とし、歴史と現状の両方にまたがる概説書としては、日本ではじめての試みである。 地域的には、ウズベキスタン、カザフスタン、クルグズスタン(キルギス)、タジキスタン、トルクメニスタンを主な対象としたが、中央アジアの不可分の一部である中国の新疆ウイグル自治区や、中央アジアと深いつながりを持つロシアのムスリム(イスラーム教徒)地域であるタタルスタンとバシュコルトスタンにも、紙幅の許すかぎり触れた。アフガニスタンについては正面からは取り上げていないが、二〇〇一年の米国同時多発テロ以降のアフガニスタン情勢と中央アジアの関わりは、十分視野に入れている。 歴史、とくに古代・中世の中央アジア史については優れた概説書が多数あるため、この本ではポイントを絞って触れる形を取った。人々の暮らしや芸術をさまざまな角度から取り上げたことは、この本の大きな特色である。中央アジアの豊かな文化・芸術の世界、濃密な都市空間や山中の村の暮らし、草原の風やバザールのにぎわいを、十分に堪能していただきたい。政治や経済の面では、やや辛口の分析も行った。真の国際理解のためには、外国をむやみに美化するのではなく、長所も短所もあるいわば「普通の国」として見る必要があると考えるからである。もちろん他方では、中央アジア諸国が今にも大混乱に陥るかのような一部の予想を裏切って、これらの国がそれなりに安定した独立国家建設を進めてきたことも、私たちは評価している。(後略)はじめに 宇山智彦