目次
序章 思想史の深層
Ⅰ 国家と宗教
1 近代日本の国家と仏教
2 戦前における神道研究—宮地直一を中心に—
Ⅱ 戦争と哲学/宗教
1 天皇主義と仏教
2 鈴木大拙の霊性論と戦争批判
3 戦時下京都学派と東洋/日本
Ⅲ 死者と関わる
1 戦争の死者の慰霊と宗教
2 死者と向き合う仏教の可能性
3 死者と共に闘う——上原専禄
4 死者から出発する哲学
Ⅳ 文学における他者
1 芥川龍之介の中国
2 川端康成とまなざしの美学
3 心霊世界と現実世界—宮沢賢治、二つの『銀河鉄道の夜』の間—
Ⅴ 他者と周縁
1 女性の目ざめと禅——平塚らいてう
2 偽史と東北——『東日流外三郡誌』
3 理解と誤解——異文化間相互思想理解の可能性
4 思想と思想史——中国・台湾の問題提起を承けて
あとがき
初出一覧
前書きなど
あとがき
二〇〇四年に『明治思想家論』『近代日本と仏教』を『近代日本の思想・再考』1・2として刊行した時、正直を言って、まさかⅢが出ることになろうとは思ってもみなかった。その頃から身辺が非常に忙しくなり、落ち着いて研究に割ける時間が極端に少なくなった。しかし逆に、この二冊を出したことで、それまで行き詰まっていた発想が自由になり、狭い専門にとらわれずに近現代の問題にまで手を伸ばすとともに、『仏教VS倫理』(ちくま新書、二〇〇六)、『他者/死者/私』(岩波書店、二〇〇七)にまとめたような、哲学的な探求を深めることになった。
この間、海外も含めて、いろいろな共同研究に加えていただいたり、シンポジウムや講演に招かれ、必ずしも十分に熟していない私見を披露することも少なくなかった。また、畑違いの分野からエッセーを求められることも出てきた。本書に収録したのは、こうした機会に発表した論文、小文や講演記録が中心であるが、いま校正のために読み返していると、ずいぶん冒険的にいろいろな問題に手を出していて、いささか足元が危ない感じがしないでもない。しかし、学問の分野分けの狭間に埋もれ、これまで見逃されてきた重要で興味深い問題を浮かび上がらせることは、ある程度できたのではないかと思っている。本書は、完成した研究というよりも、粗雑であっても、これまで隠されてきた問題に光を当て、目を向けてもらう捨て石的な手掛かりとも言うべきものである。読者の問題意識をいくらかでも刺激するところがあれば、本書の役割は果たせたことになるであろう。
本書をまとめるにあたって、初出のものにある程度手を入れて、一冊の本としての整合性を図ったが、もともとの文体の相違や注のつけ方などまでは、統一しなかった。しかし、全体として読んでいただけば、そうした形態的な相違を超えて、一貫した流れを読み取っていただけるものと信じている。
発表の機会を与えていただいたそれぞれの関係者の方々、それから、出版界の厳しい情勢の中で本書の出版に踏み切り、前二冊と同様、編集上の親身のアドヴァイスをいただいた中嶋廣氏にお礼申し上げたい。
いま私が中心的に取り組んでいるのは、本書のような思想史的な考察を基盤として、それを哲学の体系にまとめ上げることである。欧米から輸入した哲学ではなく、土着の思想の展開から、どのような哲学を構想できるか。それは、今の日本でもっとも緊要な課題である。そのスケッチは、本書3-4に記したが、還暦を過ぎた私にとって、晩年を賭けた大仕事になるであろう。その副産物として、もしかしたら『近代日本の思想・再考4』ができるかもしれない。しかし、それは今のところは夢のような話であり、ひとまずは3までで第一期完結と考えている。
二〇一〇年六月 著 者