Herman Melvilleさんの書評 2015/04/24
アメリカ19世紀最大(?)の作家メルヴィルがシェイクスピアからどんな影響を受けたかを論じる比較文学的な面と、彼のキリスト教・西欧文明に対処する姿を通じて西欧文明を批判するすばらしい本です。アメリカ文化の基盤は空間に置かれているのに対してヨーロッパの文化はキリスト教的であり、時間に基盤をおいていると指摘しており、刺激的だと思います。しかも本の書き出しは一見こうしたこととは無縁な難破船の乗組員の食人の話からはじまり、その事件がメルヴィルにどのような影響を与えたかを考察しています。次にメルヴィルの所有していたシェイクスピア全集に彼が残している書込みから、彼がシェイクスピアをどのように読み、19世紀アメリカの民主主義社会とシェイクスピアの生きたエリザベス朝との最大の違いとして民主主義という要素を考慮に入れながら、メルヴィルの重んじていたのは男と男の友情だッタと言うことを指摘しています。そして最後に広大な太平洋を舞台に「白鯨」を書いたメルヴィルが地中海世界の狭い世界・その世界の中心となるキリスト教にどのように反応していったかをたどり、それにより著者オールソン自身のキリスト教文明に対する批判を提示しているのです。難しい本ですが作家論としても西欧文明論としても異色の優れた本だと思いました。
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