前書きなど
■統計力学は難解な学問として学生から敬遠される傾向にある。……エントロピーやエンタルピーなど、実際に測定できないマクロな物理量が登場し、場合によってはその物理的意味は置き去りにしたまま、数式処理によって多くの関係式が導出されていく。まるで迷路に迷い込んだようだという学生もいる。
■実は、統計力学によって、これら熱力学関数のミクロ機構が明らかになっていく。曖昧模糊として捉えどころのなかった熱力学関数に血が通いだすのである。しかも、統計力学によって、ミクロとマクロの融合がなされ、熱力学の本質さえもが明らかになっていく。まさに、熱力学という推理小説に込められた謎が、統計力学という探偵によって明らかになっていく、そんな感覚を与えてくれる。
■統計力学は、固体物理学への導入としても重要な側面を持っており、フェルミ統計やボーズ統計など、金属電子論や電子工学の発展に及ぼした波及効果は大きい。多くの読者が統計力学の魅力の一端に気づいていただければ幸甚である。 (本書「はじめに」より)