目次
・第一章 「iPad時代の本」を考える
——本作りの二つのゆくえ
・第二章 表紙をハックせよ
——すべては表紙でできている
・第三章 テキストに愛を
——こんなEリーダーが大事
・第四章「超小型」出版
——シンプルなツールとシステムを電子出版に
・第五章 キックスタートアップ
——kickstarter.comでの資金調達成功事例
・第六章 本をプラットフォームに
——電子版『Art Space Tokyo』制作記
・第七章—形のないもの←→形のあるもの
——デジタルの世界に輪郭を与えることについて
前書きなど
ぼくらの時代の本とは何だろう?
ぼくらの時代の本とは形のある本だ。しっかりとした紙にインクで印刷され、頑丈な製本にはしおりが挟み込まれていて、タイポグラフィにも神経が行き届いている。数々の荒波を乗り越えてぼくらの本棚に陣取り、認識され、手に取られ、注目されるのを待っている。
ぼくらの時代の本とは形のない本だ。デジタル上に漂い、ぼくらのiPhoneやiPad、Kindleやその他リーダーの中に存在している。それらは画面の大小や、解像度の高低に関係なく、スクリーンを埋め尽くしている。何の警告もなく消えてしまうものもあれば、コンピュータネットワークの中で繰り返しコピーされるものもある。 ぼくらの時代の本とはその両方を行き来する本だ。物質からデジタルへ、切り替え可能。ぼくらの時代の本は講談社やランダムハウスから、何百万の読者へと届けられる。ぼくらの時代の本は―あなたやぼくのような―個人から何百万の読者へと届けられる。
ぼくらの時代の本はきちんと編集され、磨きがかけられ、仕上がった原稿として出版される。ぼくらの時代の本はほとんど編集されず、断片のまま出版され、読者によって磨きがかけられる。
あなたが手にしているこの本は、ぼくらの時代の本についての本だ。本がデジタルへと移行する際の技術的ハードルについての本だ。人々の力を借りて資金調達することでしか成り立たないような出版のあり方についての本だ。タブレットやスマートフォンでの読書の増加によって、変わりつつある表紙の存在意義についての本であり、変わりつつある本との関係についての本だ。
この本は、この4年間における本のあり方、読書のあり方、出版のあり方の進化を見てきたぼくのエッセイを集めた本だ。この本は、ある種の本が死に、別の種類の本が生まれることを告げる本ではない。紙の本は終わり、電子本が否応なく隆盛することを告げる本でもない。この4年間でぼくらが何かを学んだとすればそれは、ぼくらの時代の本とは紙の本と電子本のどちらのことも指し、著者と出版社と読者の関係を進化させるには、そのどちらにも重要な役割があるということだ。
ここに書かれたエッセイは観察の記録である。シリコンバレーやニューヨークの出版スタートアップでの経験の記録。自分で出版した経験の記録。そしてぼくが何度も何度も ―人生を通じて―取り組み、熱中し、恋に落ちて来た一冊一冊の本への愛情の記録だ。
どうか、ぼくらの時代の本について、一緒に考えてみてください。
二〇一四年一〇月
クレイグ・モド(me@craigmod.com)