目次
はじめに――国境と少数民族をめぐる背景 落合雪野
(1)国境域の成り立ち
(2)少数民族の成り立ち
(3)国境域の変化
(4)本書のねらいと構成
第1部 国境域の特徴
第1章 ミャンマー国境域 松田正彦
(1)ビルマの「管区」と少数民族の「州」
(2)内戦と違法活動
(3)国境域の繁栄
(4)開かれる国境域
第2章 ベトナム国境域 柳澤雅之
(1)海の国境と陸の国境
(2)越北地方と西北地方
(3)少数民族とキンの新しい統合過程
第3章 ラオス国境域 横山 智
(1)「内陸国」の誕生
(2)周辺から孤立する国へ
(3)「周辺と結ばれる国」への転換
(4)ローカル国境と国際国境ゲート
(5)グローバル化時代の国境の機能
第4章 国境と人びと ボナン・ジャンルカ
(1)瑞麗とムーセー
(2)河口とラオカイ
第2部 生業
第1章 ミャンマーと中国の国境域 松田正彦・柳澤雅之
第1節 豊かな農村のつくりかた 松田正彦
(1)闘う少数民族
(2)辺境で実現した近代的な稲作
(3)稲作から解き放たれた人びと
(4)おわりに
第2節 漢人・地方政府と結びついた農業生産 柳澤雅之
(1)瑞麗市と国境
(2)農村の暮らし
(3)国境地帯に暮らす
第2章 ベトナムと中国の国境域 柳澤雅之
第1節 国家の力、国境の力
(1)ベトナムの少数民族として生きる
(2)ローカルネットワークの時代――1990年代まで
(3)ベトナム国の一地方として――2000年代以降
(4)生産と消費に見るベトナムと中国
(5)おわりに
第2節 商品経済の浸透と棚田の農業
第3章 ラオスと中国の国境域 横山 智
国境の弾力性と農民の生業変化
(1)ラオス国境域の動態と少数民族
(2)乾季水田裏作での契約栽培
(3)常畑での契約栽培
(4)国境を往来する人とモノ
(5)契約栽培の進展と農民の対応
第3部 生活
第1章 着る 落合雪野
民族衣装とその素材をめぐるつながり
(1)衣食住の衣
(2)アカと哈尼
(3)カチンと景頗
(4)シャンと傣
(5)スタイルと伝統を作り続ける
第2章 眠る 白川千尋・落合雪野
第1節 土着の蚊帳、国境を越える蚊帳 白川千尋
(1)なぜ蚊帳なのか
(2)土着の蚊帳
(3)蚊帳の使用状況
(4)使われなくなる土着の蚊帳
(5)「近代的な蚊帳」
(6)国境を越える蚊帳を使いこなす人びと
第2節傣の伝統的な蚊帳 落合雪野
あとがき
前書きなど
はじめに――国境と少数民族をめぐる背景
本書の目的は、ミャンマー、ラオス、ベトナムが中国と国境を接する東南アジア大陸部の国境域を対象に、東南アジアと中国のはざまで暮らす少数民族が、国家からの政治的、経済的、文化的影響を受けながらも、自らの生業や生活を能動的に変化させ、多様な生存戦略を構成していく、そのプロセスを明らかにすることにある。
これまで国境域の少数民族は、政治的にも経済的にも国家の周縁に位置づけられ、不利な状況を余儀なくされた人びととしてとらえられてきた。ところが、中国との国境に居住する少数民族は、中国の政策や経済発展を背景に、開発や投資の恩恵を受け、情報や技術を吸収できるという好条件を得ることとなった。国境域は、このような意味では、最先端の場所となったのである。
国境の少数民族は、自分たちを領域に取り込んだ国家からも、また、隣接する中国からも、政治的、経済的、文化的圧力を確かに受けている。しかし、日常生活においては、次々に流れ込んでくる、人、モノ、資金、情報、技術を吟味し、評価し、選択して、自らのアドバンテージをしたたかに確立しつつある。これまでは、伝統的な暮らしを維持する人びととしての側面が強調されることの多かった少数民族であるが、国境域においては、むしろ生業や生活のあり方を主体的に作り変え、多様な生存のための戦略を紡ぎだしているのである。
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