前書きなど
はじめに
「どうも気候が変わってきたな」と多くの人が感じるようになった。日本では夏の猛暑や集中豪雨、暖冬がこのところ目立っている。世界的にみても熱波や洪水が欧州を襲い、米国では2005年夏に猛烈なハリケーン「カトリーナ」の直撃で大きな被害を受けた。各種の生物にも絶滅をはじめとしたさまざまな異変が生じているが、背景にあるのは地球温暖化であることはほぼ間違いなさそうだ。
1998年に世界各地のサンゴ礁でサンゴの死である白化現象が起き、水温上昇が原因と考えられ、温暖化が地球上に具体的な被害を与えた最初の例ではないかといわれた。その後、徐々に温暖化の影響が表面化し、いまでは一般の人までが気候などの異常を肌で感じるようになったわけだ。「温暖化によって大規模な気候変動が起こる」という警告も発せられるようになった。
世界が協力して温暖化を防止しようと日本で採択されたのが京都議定書だった。だが、最大の温室効果ガス排出国である米国が京都議定書を離脱し、途上国は削減義務を負わないことなどから、京都議定書の限界が指摘された。ポスト京都の枠組み作りも難航し、温暖化防止に悲観的見方が広がる中で、京都議定書採択から10年後の2007年は特筆すべき年となった。「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が厳しい内容の第4次評価報告書をまとめたのに続き、ドイツのハイリゲンダムで開かれた主要国首脳会議(サミット)で「2050年までに温室効果ガスの排出量を少なくとも半減させることを真剣に検討する」という合意が成立したのだ。この合意には日本も一役買った。
とはいえ、先進国の排出量を2010年までに1990年比で5%削減するという京都議定書の目標の達成すら困難視されているのだから、「50年半減」への道は限りなく遠い。経済発展を目指す途上国に排出削減を義務づけるのは至難の業だし、先進国もいまのレベルから7、8割も削減するのは並大抵のことではない。期待が高まっている二酸化炭素の海底・地中貯留技術(CCS)などの開発もどこまで進むか分からない。だが、50年までに半減できなければ、われわれは温暖化の進行を指をくわえて眺める以外なく、地球は破局に向かってまっしぐらに突き進んでいくだろう。
こうした状況を頭に入れ、本書では地球にいま何が起こっているのか、気候変動がもたらす未来は、何が気候変動を起こすのか、人類はいまどんな生活を送っているのか、われわれに何ができるのか、破局は避けられないのか、など地球温暖化と気候変動のさまざまな側面にスポットを当てた。それと同時に、過去に地球全体が凍りつく全球凍結が起こったこと、氷河期の中の氷期から間氷期への移行、中世温暖期の状況などにも言及し、過去の気候変動を幅広く探った。気候変動をめぐる生命と地球の密接な相互作用、さらには将来の地球の姿をシミュレーションする気候モデルや古気候学などについても触れ、全体として良質な科学読み物を目指した。
どうしたら迫り来る破局から地球を救うことができるのだろうか。いまのようにエネルギーをジャブジャブ使うような社会ではどうしようもない。各種の省エネ技術の開発に全力を挙げ、太陽光発電や風力発電、バイオマス(生物資源)など身近に存在する自然エネルギー(再生可能エネルギー)を最大限利用するとともに、ライフスタイルを全面的に見直し、地元でできた食べ物や木材を使うといったことを基本にすべきだと思う。小規模分散型電源、地産地消、スローライフなどがキーワードになるだろう。
また限りなく進む経済のグローバル化よりも、日本などでは地域の特徴を生かした環境保全型の産業を興し、崩壊が著しいコミュニティを再生させることが持続可能な社会をつくる基礎になり、それが結局は温室効果ガスの削減につながるだろう。なんとか多くの人々の賛同を得ようと「経済発展と環境保全を両立させよう」などのスローガンが掲げられることが多いが、温暖化を本当に防止していくには、生活の水準を下げることも真剣に考えなければならないのではないか。
国内では政府、自治体、企業、NGO(非政府組織)、国民がそれぞれ協力し合い、国際的には自国優先で温暖化防止に熱心でない米国や、「温暖化防止よりも経済発展を」と考える途上国を取り込み、共同歩調で温室効果ガスの大幅削減にもっていくのでなければ道は開けない。現在のように日本の国内では炭素税(環境税)や排出量取引の導入をめぐって対立し、国際的にも先進国、途上国の間でほとんどまとまりが取れない状況では、温暖化防止という人類の共通の目標は到底達成できない。
こんな視点に立った本書が、温暖化やそれに伴う気候変動に強い関心を持ち、地球の未来を案ずる人たちの参考になればと思う。