sugarさんの書評 2017/06/24 5いいね!
失敗の科学
失敗を失敗のままにしない仕組みを精緻に組んでいる航空業界とその対岸に位置するとされる医療業界を中心に失敗を多くの事例を示しながら、科学的に平易な言葉で簡潔にまとめ上げられている良書であった。
特に成長するためには失敗を称賛する環境を作り、文化とする土壌が必要であることが重要である。
個人を攻撃するのではなく、失敗を成長の糧と捉え、適切なフィードバックを行い集団として改善を進めるべきであることがこの本には事細かに記載されている。
以下、著書から引用する。
クローズド・ループ現象のほとんどは、失敗を認めなかったり、言い逃れをしたりすることが原因で起こる。
疑似科学の世界では、問題はもっと構造的だ。つまり、故意にしろ偶然にしろ、失敗することが不可能な仕組みになっている、だからこそ理論は完璧に見え、信奉者は虜になる。しかし、あらゆるものが当てはまるということは、何からも学べないことに等しい。
いわゆる「一万時間ルール」(才能が開花するまでには1万時間の訓練が必要という法則)だ。もちろん誰でも世界チャンピオンになれるわけではないが、たいていの人は努力によって熟達できる。
しかし、全く異なる研究結果も出ている。職種によっては、訓練や経験が何の影響ももたらさないことが多いという。例えば、心理療法士を対象にしたある調査では免許を持つ「プロ」と研修生との間に治療成果の差はみられなかった。なぜか?
ゴルフに例えると練習場で的に向かって打つときは1回1回集中し、的の中心に近づくように少しずつ角度やストロークを調整していく。
しかし全く同じ練習を暗闇の中でやっていたとしたらどうだろう?10年頑張ろうと100年続けようと、上達することはない。試行錯誤が不可能なのだから。
心理療法士の仕事は患者の精神機能を改善することだ。しかし治療が上手くいっているかどうかは、何を基準に判断しているのか?フィードバックはどこにあるのか?実は心理療法士のほとんどは、治療に対する患者の反応を、客観的なデータではなく、クリニックでの観察によって判断している、しかしその信憑性は、甚だ低い。患者が心理療法士に気を使って、状態が良くなっていると誇張する傾向があることは、心理療法の問題としてよく知られている。
心理療法士は、治療によが成功した患者の精神機能がそのあとも良好かどうか、あるいは結局失敗に終わったかどうか、全く知らない。つまり、治療の長期的な影響に関するフィードバックが全くないのだ。
こうした新弾力や判断力を高めたいときに大事なのは、熱意やモチベーションだけではない。暗闇に明かりをつける方法を探すことが肝心だ。間違いを教えてくれるフィードバックがなければ、訓練や経験を何年積んでも何も向上しない。
自分の失敗を隠す「内因」が認知的不調和(自尊心や保身による内発的な動機付け、言い訳、バイアス)だとしたら、「外因」とも言えるのが、非難というプレッシャーだ。非難の衝動は、組織内に強力な負のエネルギーを生む。
何かミスが起こった時に、「担当者の不注意だ!」「怠慢だ!」と真っ先に非難が始まる環境は、だれでも失敗を隠したくなる。しかし、もし「失敗は学習のチャンス」と捉えられる組織文化が根付いていれば、非難よりもまず、何が起こったのかを詳しく調査しようという意思が働くだろう。
適切な調査を行えば、ふたつのチャンスがもたらされる。ひとつは貴重な学習のチャンス。失敗から学んで潜在的な問題を解決できれば、組織の進化につながる。もうひとつは、オープンな組織文化を構築するチャンス。ミスを犯しても不当に非難されなければ、当事者は自分の偶発的なミスや、それにかかわる重要な情報を進んで報告するようになる、するとさらに進化の勢いは増していく。
成長型マインドセットは「合理的に」諦める。
成長型マインドセットの人ほど、諦める判断を合理的に下す。成長型マインドセットの人にとって『自分にはこの問題の解決に必要なスキルが足りない』という判断を阻むものは何もない。彼らは自分の”血管”を晒すことを恐れたり恥じたりすることなく、自由に飽きられることができる。
つまりそれは引き際を見極めてほかのことに挑戦するのも、やる抜くのも、どちらも成長なのだ。そして、我々が最も早く進化を遂げる方法は、失敗に真正面から向き合い、そこから学ぶことなのだ。
互いの挑戦を称え合おう。実験や検証をするもの、根気強くやり遂げようとするもの、勇敢に批判を受け止めようとするもの、自分の仮説を過信せずに真実を見つけ出そうとするものを、我々は賞賛すべきだ。
「正解」を出したものだけを褒めていたら、完璧ばかりを求めていたら、「一度も失敗せずに成功を手に入れることができる」という間違った認識を植え付けかねない。
自分の考えや行動が間違っていると指摘されるほどありがたいものはない。そのおかげで間違いが大きければ大きいほど、大きな進歩を遂げられるのだから。批判を歓迎し、それに対して行動を起こす者は、友情よりもそうした指摘を尊ぶといっていい。己の地位に固執して批判を拒絶する者に成長は訪れない。
データとフィードバックは有意義な進化への舞台に「明かり」を灯す。ポイントは、判断力を養える環境を作ることだ、有意義なフィードバックなしに改善は望めない。間違いを警告してくれる「信号」をシステムの中に取り入れることが肝心だ。
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