紹介
ライフストーリー研究は、今日の質的研究の花形として注目を集めている。しかし実際にフィールドに出かけ、インタビューを行い、トランスクリプトを作り、対象者の語った「あのとき・あそこ」で起こった物語世界を理解しようとする時、難問に突き当たる。語られた物語は「いま・ここ」のインタビューという相互行為の分析から、すべて理解できるものなのだろうか。もしそうだとしたら、聞き手として、語り手の物語世界に立ち会う時の共感を伴った追体験をどのように説明したら良いのだろう。一言でいえばそれは、ライフストーリーに対する構築主義的なアプローチとリアリズムとの対立である。本書に収められた論文はどれも、この問題と正面から向き合い、抽象的に解決するのではなく、それぞれのフィールドとの粘り強い対話を通して、問題の深化を図ろうとする。
目次
第1部 ライフストーリー論の理論的深化(『口述の生活史』はいかにして成立したか
『ポーランド農民』における手紙と自伝の利用-再評価の試み
語りとリアリティ研究の可能性-社会学と民俗学の接点から
フォークロア研究とライフストーリー
歴史は逆なでに書かれる-オーラル・ヒストリーからの科学論
インタビューにおける理解の達成
『福翁自伝』におけるオーラリティと多声性)
第2部 ライフストーリー・インタビューの現場(現代世界の解釈ツールとしての桜井式ライフストーリー法-滋賀県・湖西、湖東の調査から
ジェンダー・セクシュアリティとオーラル・ヒストリー
「被差別の文化・反差別の生きざま」からライフストーリーへ
「声」を聞く旅-「現場主義」に徹する)