目次
ロボットと共生する社会脳 目次
「社会脳シリーズ」刊行にあたって
社会脳シリーズ9『ロボットと共生する社会脳─神経社会ロボット学』への序
1 心の理論をもつ社会ロボット─ロボットの「他者性」をめぐって苧阪直行
はじめに
ロボットの他者性
心に近づくAI
心の志向性
心の理論
他者の心をリカーシブに見る
志向性のレベル
ロボットと心の理論
共同志向性
セラピーロボット
介護ロボット
ジャンケンロボット
IoT(モノのインターネット)
各章の概要
おわりに
2 ロボット演劇が魅せるもの坊農真弓・石黒浩
「共生しつつある」というフレーズ
ロボット演劇の創りかた
フィールドワーク1─演出に隠された社会的ロボット像
フィールドワーク2─役者が創り出す社会的ロボット像
ロボット演劇が〈見せる=魅せる〉もの
3 人工共感の発達に向けて浅田 稔
はじめに
共感の進化と発達
人工共感に向けた二つの主要な発達
ADR/CDRによる人工共感への試み
討 論
4 ロボットに「人らしさ」を感じる人々神田崇行
はじめに
社会的ロボット─人ではないのに、人らしく振る舞うロボット
「人らしい」ロボットは何をもたらすか?
人々と「人らしい」ロボットとの関係
おわりに
5 遠隔操作アンドロイドを通じて感じる他者の存在西尾修一
はじめに
遠隔操作ロボット・メディア「テレノイド」
テレノイドの受容性
認知症高齢者のコミュニケーション支援
抱擁の効果
おわりに─遠隔操作アンドロイドを通じて感じる他者の存在
6 アンドロイドへの身体感覚転移とニューロフィードバック西尾修一
はじめに
遠隔操作型アンドロイドと身体感覚転移
対話による身体感覚転移
脳波による遠隔操作─固有感覚の影響の排除
操作者の脳活動への影響
おわりに
7 感覚・運動情報の予測学習に基づく社会的認知機能の発達長井志江
はじめに
社会的認知発達の基盤としての感覚・運動情報の予測学習
自他認知の発達とそれを通したミラーニューロンの創発
物体操作能力の発達における目標指向性の発現
社会的信号の予測学習を通した共同注意の発達
予測誤差への特異な感度が引き起こす自閉スペクトラム症
おわりに
8 人間とロボットの間の注意と選好性吉川雄一郎
はじめに
代理的な注意の提示
誘発された注意
観察された注意
まとめ
9 ブレイン・マシン・インタフェース─QOLの回復を目指して平田雅之
はじめに
BMIに用いられる脳信号
脳信号の解読
ロボットアームのリアルタイム制御
ワイヤレス埋込装置
BMIに関するアンケート調査
肉体的QOLと精神的QOLの解離
BMIで目指すところ
おわりに
引用文献
社会脳シリーズ1~9巻総事項索引
社会脳シリーズ1~9巻総人名索引
装丁=虎尾 隆
前書きなど
ロボットと共生する社会脳─神経社会ロボット学への序(抜粋)
「社会脳」シリーズの最終巻のテーマは社会ロボットである。ロボットは人間から見れば機械でありモノにすぎないが、近年の認知ロボティクス(認知ロボット工学)の目覚ましい進展は、ヒトらしいロボットを身近で親しみのある存在にしつつある。社会脳シリーズ刊行の趣旨は、デカルトの「われ思うゆえにわれ(自己)あり」という自己を中心にした見方ではなく、「他者(社会)思うゆえにわれあり」という他者の視点から、脳を通して社会をとらえなおすところにある。この冒険はわれわれを、一歩進んで「他者(ロボット)ありゆえにわれ思う」という視点への展開に導く。この冒険が自己と他者の迷路の行き止まりに行きつくのか、あるいは新たなロボットとの共生社会の構築へと進展するのかはわからない。
ロボットといえば機械とは一味違った興味をもつのが普通である。本邦では1951年にSFマンガ「鉄腕アトム」が出ており、もっと最近では1999年にソニーのアイボ、続いて2000年にホンダのアシモなどの自律型ロボットが出て、市民に親しまれるロボットのイメージを作ってきた。ごく最近には、あたかも心があるように見えるさまざまなロボットが次々と登場している。
ロボットと社会
ロボットと社会のかかわりを振り返ると、アシモフが1950年のSF小説の中で提案したロボット3原則に、(1)ヒトに危害を加えない(その危険性を見逃さない)、(2)ヒトの命令に従う(ただし、ヒトに危害を及ぼさない)、(3)自己を守る(ヒトに危害を加えず、命令に従った上で)などの原則が並べられている。内容は憲法9条より厳しい。小説という仮想の世界の話であるが、不可能だったことが可能になる現代社会なので、ヒトに近い認識や行動能力をもつロボットが実際に現れてくると、このような問題が現実味を帯びてくる。たとえば、ロボット兵士(兵器)が戦場でヒトを殺すことは第1原則に違反するからダメということになる。これを原則的に当てはめることはできても、行動規範上で守らせることはできるか? ロボット化されたドローンにもその危険性がある。自律型ロボットに道徳的な判断をすることができれば事故や犯罪を起こすリスクは減るだろうが、もしシリアスな事故を起こしてしまったら、その責任の所在はどうなるのか? 社会規範である道徳を守るロボットが出てくれば、ヒトとロボットの共生は新時代に入るだろう。しかし事はそう簡単ではない。使う側のヒトも、ロボットに対して一定の倫理観をもつ必要がありそうである。本シリーズ第2巻『道徳の神経哲学』5章の「社会脳と機械を結びつける」でもロボットとBMI(ブレインマシンインターフェース)の問題を取り上げ、神経倫理学の重要性を指摘した。
さて、人形の犬が可愛いと思う心は、その犬を犬型あるいはヒト型ロボットに置き換えた場合どう変わるのか? 家族のように感じるようになるのか(アイボの場合はそうなったが)? ヒトとモノの間にはふつう感情はないが、見かけの感情を作り出すロボットができればヒトは、もっとロボットに近くなり、共生できる社会を作ることができるであろうか? ロボットとヒトが共生できるロボット・ヒューマン・インタラクション(RHI)社会には、テクノロジーの進展に追いついた社会的公正さや、社会的規範にマッチした新道徳の進展がともなうことが必要だ。
スマートフォンというミニロボット
現在のICT社会では、機械に驚かされるということはよくあるが、会話する機械に驚くことはまず、今まではなかったように思う。ところが、最近のスマートフォンの音声対応システムには驚かされるものが出てきた。たとえばアップル社のアイフォンに内蔵される秘書機能をもつソフト“Siri(シリ:Speech interpretation & recognition interface)”だ。Siriはスマートフォンに内蔵されたマイクとスピーカーを通して人間と自然に対話できる。プロソディーなど発話の調子もリアルで、音声認識や発話の解析ツールが