紹介
◆作動中のジェンダーを捉える◆
ジェンダーという言葉は、性と社会をめぐる議論では社会的な性差を指す言葉としてすっかり一般的な表現です。しかし性差が〈社会的〉だとはいったい何を意味するのでしょうか。性差の原因が後天的・人為的だということでしょうか? 著者はこの一般的理解が陥る危険を示し、より豊かな現実の理解のため、社会の現場に戻る経験的な研究を促します。私たちの社会生活は、お互いに行為し理解しあうという〈意味〉をめぐるやりとりであり、「性現象の社会性」はこの社会生活の実際を適切に記述することでこそ明らかになるというのです。フェミニズムやシステム理論が予示した社会秩序の研究を、ジェンダーと法をめぐるトピックを実際に記述するなかで実現する清新な野心作です。
目次
実践の中のジェンダー―目次
まえがき i
1 「規範」としてのジェンダー
2 ジェンダー概念と社会批判
3 法的実践の中のジェンダー
Ⅰ部 社会秩序の記述
第1章 性現象の「社会」性
1 はじめに
2 パフォーマティヴィティ概念の構成
3 パフォーマティヴィティ概念の困難
4 「構築」主義の「思考上の制約」
5 行為の記述と社会生活の編成
6 おわりに
第1章補論 行為とコンテクストの相互構成的関係
あるいは間接的言語行為について
1 オースティンの「パフォーマティヴ」
2 デリダのオースティン批判
3 デリダのオースティン批判の問題点
4 コンテクストを作ること
第2章 社会システムの経験的記述
1 はじめに
2 社会秩序の概念化をめぐる問題
3 ルーマンの「社会システム」
4 ルーマンの「相互行為システム」
5 「対面状況」の社会システム論的記述
6 おわりに
第3章 社会秩序の記述と批判
1 はじめに
2 論争: 会話分析 vs. 批判的談話分析
3 ミクロ―マクロ問題
4 「価値判断」と記述の身分
5 おわりに
Ⅱ部 法的実践の中のジェンダー
第4章 法的推論と常識的知識
1 はじめに
2 「法と社会」という思考法
3 実践としての法的推論
4 判決文の理解可能性
5 おわりに:全体社会のサブシステムとしての
法システムの作動
第5章 強姦罪における性的自由
1 はじめに
2 強姦罪の正当性をめぐる争い
3 強姦罪の「古い」解釈
4 法的実践のなかの「被害者の意思」
5 おわりに
第6章 被害者の意思を認定する
1 はじめに
2 「判決文を書く」実践
3 「被害者の意思」を推論する方法
4 被害者の意思を認定する
5 おわりに
第7章 ポルノグラフィと「女性の被害」の経験
1 はじめに
2 反ポルノグラフィ公民権条例
3 「行為」か「表現」か
4 ポルノグラフィと「女性の被害」
5 おわりに:革命的カテゴリー
あとがき
文献
人名索引
事項索引
装幀=桂川 潤