目次
複雑さと共に暮らす―目次
日本語版への序文
1 複雑さと共に暮らす ― なぜ複雑さは避けられないのか
ほとんどすべての人工のモノはテクノロジーである
複雑なものは楽しみになり得る
何ヶ月もの学習を要する人生のよくある断面
2 簡素さは心の中にある
概念モデル
なぜすべてのものが打出しハンマーのように簡単にならないのか
ボタンの数が少ないとなぜ操作が難しくなるのか
複雑さについての誤解
簡単だからといって、機能が少ないということではない
一般に仮定されている簡単さと複雑さの間のトレードオフは、なぜ
間違っているのか
誰もが機能好き
複雑なものも理解可能だし、簡単なものにも混乱させられることが
ある
3 簡単なものがいかにして我々の生活をややこしくするのか
実世界に情報を置く
サインが役に立たないとき
専門家はいかにして簡単なタスクを混乱させるか
強制選択法で複雑さを減少させる
4 社会的シグニファイア
文化的複雑さ
社会的シグニファイア ― 何をするべきかを世界は我々に
どのように伝えるのか
実世界の中の社会的シグニファイア
5 人間支援のデザイン
スプラインを網目化中
目標とテクノロジーの間の不一致
割込み
利用パターンを無視すると、シンプルで美しいものも複雑で醜い
ものになる
望みのライン
痕跡とネットワーク
推奨システム
グループへの支援
6 システムとサービス
システムとしてのサービス
サービス青写真
エクスペリエンスをデザインする
心地よい外界とのエクスペリエンスの創造 ― ワシントン相互銀行
工場のデザインのようにサービスをデザインする
病院でのケア
患者はどこにいる?
サービスデザインの今
7 待つことのデザイン
待ち行列の心理学
待ち行列の六つのデザイン原理
待つことのデザイン的解決
列は一つか複数か? ― 片側だけのレジと両側のレジ
二重バッファリング
列をデザインする
記憶は現実よりも重要である
待ちが適切に扱われるとき
エクスペリエンスをデザインする
8 複雑さに対処する ― パートナーシップ
T型フォード車をどのように始動させるか
複雑さを扱う基本原則
デザイナーのための規則 ― 複雑さを扱いやすくする
我々のための規則 ― 複雑さに対処する
9 挑戦
販売員のバイアス
デザイナーと客の間のギャップ
評論家のバイアス
社交的インタラクション
なぜ簡単なものが複雑になるのか
デザインの挑戦
複雑さと共に暮らす ― パートナーシップ
謝辞
注
訳者あとがき
文献
索引
装幀=桂川 潤
前書きなど
日本語版への序文
私の著書『複雑さと共に暮らす』が日本語でも刊行されることをとてもうれしく思っている。
日本は我々の多くの新しいテクノロジーの拠点であり、また、携帯電話やウェブサイトから冷蔵庫、テレビ、自動車に至るコンシューマーテクノロジーの開発において強い影響力をもっている。そしてそのデザインは世界中の人々に大きなインパクトを与えている。また、多面的な要素を扱いやすい個別の部分に繊細に区画化して複雑さに対応する日本の流儀は、よく知られている。
多くのデザイナーが、アジア人は欧米人よりも複雑なモノを好む、と考えている。彼らはよく、日本、韓国、インドのウェブサイトを、より簡素に見える欧米のそれと比較して例に挙げる。この見方は間違いだ。複雑さは文化ではなく、よりタスクに依存するのだ。互いの文化は異なっているし、振舞いや他の人々とのインタラクションの仕方の多くも文化や伝統によって決まる。しかしそれでも、共通していることがたくさんある。我々は皆、同じ人間だ。現代のテクノロジーは、電話や携帯であれ、テレビ、自動車、あるいはコンピュータであれ、世界中同じだ。どの人も他の人とは異なり、どの文化も他のものとは異なるとはいえ、異なる点よりも似ている点のほうが多いのである。
この本で私は、人々の違い、文化の違いに大いに気を配っている。しかし強調したい点は、我々は同じである、というところにある。世界中どこであれ、複雑さは生活の現実なのである。なぜか? 複雑さは日常生活に必要な一部だからである。したがって、テクノロジーにおける複雑さは必要であり、かつ良いことなのだ。生活の営みにつりあうためには、テクノロジーは複雑でなければならないのである。
複雑さは良いのだが、分かりにくいのはいけない。つまり、複雑なものと混乱しているものを区別しなければならない。混乱しているということは、分かりにくいということである。どんな人も、どんな文化においても、分かりにくいテクノロジーには苛立つ。この本が、複雑さと分かりにくいものの違いを明確にし、世界中の人々がイライラすることの少ない、混乱することの少ない生活を送ることができるように役立てば幸いである。
良き友人たち、伊賀聡一郎さん、岡本 明さん、安村通晃さんに深く感謝したい。彼ら献身的な日本の科学者グループは、実に注意深く、正確さに気を配って私の本を何冊も翻訳してくれた。どの本のときにも、翻訳をより良いものにするために、私と妻は翻訳グループを訪ねてきた。この本の翻訳が進行していたときも、箱根温泉の日本旅館で私たちはミーティングを行なった。実にリラックスした、爽快な滞在だった。最後に、日本の出版社、新曜社の塩浦あきら社長にはいつもながらの支援をいただき、感謝申し上げたい。