紹介
「アイルランド人」のアイデンティティとは──
イェイツが築こうとした「アイルランド」との絆。
アイルランドのノーベル文学賞詩人、ウィリアム・バトラー・イェイツ(1865-1939)は、独自に「アイリッシュ・フォークロア」の収集を行ない、生涯、「フォークロア」に強い関心を抱きつづけた。
本書では、イェイツをとおして独自の変容をとげた「フォークロア」を作品から拾い上げ、その創作活動と「アイリッシュ・フォークロア」の関係を明らかにし、歴史に翻弄されたイェイツの内面世界に迫る。
▼19世紀半ば~20世紀、英国の植民地拡張にともなって、「フォークロア」が世界中に発見された時代、「フォークロア」は社会的に注目を集め、「フォークロア学」も最盛期にあった。一方、アイルランドでは、「フォークロア」を文化的アイデンティティの基盤として、英国の植民地支配からの独立を求めるナショナリズム運動の支柱とみなしていた。
目次
序章 フォークロアとイェイツ
1 フォークロアとは
2 アイリッシュ・フォークロアの世界
3 「イェイツとアイリッシュ・フォークロア」をめぐる議論
4 「妖精」から見えてくるもの
5 ナショナリズムのフォークロア
6 イェイツとフォークロア——初期から後期へと流れるもの
第1章 イェイツの生涯を貫くフォークロア——その政治的背景
1 二つの立場
2 アイルランドの場合
3 イェイツの立場
4 フォークロアの政治的意味づけの強化
5 イェイツのフォークロア観の推移と一貫性
6 イェイツとアイルランド語
第2章 対立を越えて
——劇詩『オシーンの放浪』が予見するナショナリズムの行方
1 カトリック教会と対峙するナショナリスト
——十九世紀末の英雄オシーン
2 キリスト教と異教——聖パトリックとオシーンを繋ぐもの
3 イェイツの異教に内在する他者受容の可能性
第3章 めぐりくる昼と夜——詩集『葦間の風』と太陽シンボリズム
1 民衆の想像力へのあこがれ——限りなき時空へと続く梯子
2 見果てぬ夢——最後の戦いのフォークロア
3 天と地をめぐる魂——人さらいの妖精のフォークロア
4 その後の昼と夜
第4章 ハープの力
——劇詩『影なる海』とイェイツのナショナリズムへの不安
1 ハープと剣——対立か協調か
2 嘆きのハープ
3 愛国のハープ、国家再生のハープ
4 ハープと剣の行方
第5章 物語の力——狂言喜劇『役者女王』と革命のフォークロア
1 革命を呼ぶユニコーン
▼復活祭蜂起のフォークロア ▼ユニコーンのフォークロア
▼ユニコーンがもたらす世界の終わりと始まりの物語
2 イェイツの心の奥を映す歪んだ鏡——女王、首相、詩人
3 ロバとカモメのフォークロア
4 まだ見ぬ革命の物語
第6章 アイルランドの物語の再構築
——「クレージー・ジェーンの歌」と独立後のアイルランド
1 アイルランドが求めるの愛
2 二つの顔をもつ恋人——英雄か侵略者か
3 老女を救うのは誰か——の愛、の英雄の再定義に向けて
4 アイルランドの声の転生
終章 アイルランド文学とフォークロア