紹介
ヒューム生誕300年。大思想家の根幹に迫る!
▼スコットランド啓蒙思想の代表的哲学者デイヴィド・ヒュームが生きたイギリス(とりわけ彼の祖国スコットランド)の18世紀は、一面においては、資本主義の確立途上であり、前近代的な法律や制度も随所に残る伝統社会であった。同時にそれは、急速に世俗化(脱宗教化)し商業化する現代社会の先駆的時代でもあった。
18世紀という時代との格闘のなかで、神(絶対的価値)が存在しない世界、自己利益に動かされ商業的・貨幣的富の現像に幻惑され、それでもなお、ひとつの地域的・国民的単位をもって人類社会の秩序を模索せざるをえない諸個人の世界を先取りした、ヒューム個人の究極の判断の集合体として、ヒュームの社会科学は展開された。
文明と富裕と秩序の肯定、野蛮と貧困と隷従の断固たる拒否と言えば、啓蒙思想家の標準的価値観と思われるかもしれないが、ヒュームにおいては、それらが独断的な世界観やイデオロギーとして主張されるのではない。文明の「進歩」を歴史の絶対的所与として受け入れたうえで、あとは最大限に選択肢を広げ、その範囲内での自由な諸個人による最適な社会秩序の選択を、「中庸」の判断として追求したのである。
本書では、ヒューム研究の第一人者である著者が、国内外の最新の文献を渉猟し、社会科学の定礎者としてのヒュームの思想形成を精緻に描き出す。
目次
序 章
第Ⅰ部 出 発
第1章 ヒュームにおける社会科学の生誕
第2章 ヒューム正義論の特質と意義
第3章 ヒュームにおける人間労働概念とインダストリー論
第Ⅱ部 発 展
第4章 スコットランド啓蒙における学問の国と社交の国
第5章 「初期覚え書き」とヒューム経済思想の成立
第6章 ヒュームにおける経済発展と奢侈・貨幣
第Ⅲ部 展 望
第7章 共和主義パラダイムにおける古代と近代
第8章 文明社会のアンビヴァレンス
第9章 日本における市民社会論
初出一覧
あとがき