紹介
契約論の名著、邦訳成る。
▼ゲーム理論とならぶミクロ経済学における流行のトピック、契約論。この分野の定番書、Firms, Contracts, and Financial Structure, Oxford University Press, 1995の翻訳。
▼オリバー・ハートが中心となって発展させてきた不完備契約理論を自らサーベイし、わかりやすく伝える解説書となっていると共に、不完備契約理論を適用して企業の範囲や金融構造、さらには破産など多様な問題について理論の発展方向に関する視座を与える。
▼不完備契約理論は、およそ経済取引において、すべての起こりうる状況を網羅し何が起こっても対処しうる完璧な契約を結ぶことは本来不可能であるという、極めて現実的な認識から出発する。この立場から様々な現象について議論し、さらに伝統的なアプローチが分析の対象としてこなかった「パワー」の問題まで言及される。
▼企業理論・経営理論の学習者、研究者には必読の1冊。
特別寄稿「本書を手にとった幸運な読者に向けて」
伊藤秀史氏(一橋大学大学院商学研究科教授)をご覧いただけます。
目次
序
1 所有権の意味
2 企業の境界
3 金融証券
4 パワーの分散
5 触れなかった問題——公的所有
第Ⅰ部 企業を理解する
第1章 既存の企業理論
1 新古典派理論
2 エージェントという視点
3 取引費用の理論
第2章 所有権アプローチ
1 概説
2 統合のコストと利益についてのモデル分析
3 理論から直接説明される事象
第3章 所有権アプローチの諸問題
1 非人的資産の役割と権限の特性
2 従業員のインセンティブ
3 権限委譲およびその他の中間的所有権形態
4 残余コントロール権と残余所得
5 評判の効果
6 物的資本への投資
7 資産の形成
8 統合・情報の伝達・協力
第4章 不完備契約モデルの基礎に関して
1 ホールドアップ問題に関して
2 第2章で分析した所有権モデルについて
3 ホールドアップ問題の役割分析に加えて
付録——メッセージ依存型所有構造
第Ⅱ部 金融構造を理解する
第5章 金融契約と負債の理論
1 Aghion-Boltonモデル
2 私的流用モデル(Hart and Moore[1989]に基づく)
3 多期間モデル
4 不確実性を伴う場合
5 複数投資家の存在とハード・バジェット制約
6 関連する研究
付録——CSVモデル
第6章 公開企業における資本構成の決定
1 モデルの説明
2 モデル1
3 モデル2
4 モデル3
5 資本構成の実際
6 資本構成についてのその他の理論
付録——短期債務のもう1つの役割 モデル3
第7章 破産手続き
1 正規破産手続きの必要性
2 破産手続きの目標
3 現在の破産手続き
4 代替的破産手続き
5 評価
6 考察
7 結論
第8章 公開企業における議決権構造
1 非効率性:例示
2 モデル
3 モデルの拡張
4 結論
訳者あとがき
参考文献
索引