目次
はじめに
第1章 精神障がいのある親に育てられた子どもの体験
第1節 精神科治療につながらない親に育てられた子ども
1.千葉あき 45歳
子:OL経験あり、現在は夫と二人の子と暮らす
親:母が妄想性障害で精神科治療中断、現在一人暮らし
2.石井百合 48歳
子:デザイン関係の仕事に従事、現在は夫と二人暮らし
親:母が精神科未治療で統合失調症疑い、昨年他界
3.川口麻美 50歳
子:会社員、現在は夫と二人の子と暮らす
親:母が統合失調症、現在老人ホーム入所中
TOPIC*家族による家族学習会とは
第2節 精神科治療につながった親に育てられた子ども
1.川内みなみ 25歳
子:対人援助職を志し大学院に進学、現在は一人暮らし
親:母が統合失調症、現在は実父母と暮らす
2.かないはな 28歳
子:対人援助職、現在は障がい者支援施設で就労、一人暮らし
親:父がアルコール依存症、双極性障害、現在一人暮らし
3.城所まい 23歳
子:大学で精神保健福祉を専攻、現在一般企業で就労・一人暮らし
親:母が統合失調症、現在一人暮らし
4.伊藤奏汰 29歳
子:対人援助職、現在は一人暮らし
親:母がパーソナリティ障害、現在母は父(夫)と二人で暮らす
5.たまきまゆみ 38歳
子:対人援助職、現在は障がい者支援施設で就労、シングルマザーで育児中
親:母が統合失調症、現在は父(夫)と二人で暮らす
6.林あおい 26歳
子:看護師、現在は精神科病院で働く、一人暮らし
親:母が統合失調症、現在は父(夫)と二人で暮らす
第3節 ライフサイクルに基づく子どもの体験の整理[埼玉県立大学:横山恵子]
1.乳幼児期
2.小学生
3.中学生
4.高校生
5.青年期 自立
6.成人期 結婚
7.成人期 子育て
8.親の介護
第4節 大人になった子どもの困難とリカバリー[埼玉県立大学:横山恵子]
1.大人になっても残る子どもの後遺症
2.親子関係の修復
3.仲間との出会い
4.子どもにとってのリカバリー
第2章 精神障がいのある親をもつ子どもへの支援のあり方
第1節 母子保健[大阪大学:蔭山正子]
1.妊娠そして出産
2.出産から3・4か月
3.3・4か月以降小学校入学まで
4.小学校以降
5.今後の支援のあり方
第2節 児童相談所[北海道・東北ブロック児童相談所:ウエムラカナタ]
1.家庭で暮らす児童への支援
2.一時保護に至った場合
3.児童相談所からの支援の難しさ
第3節 精神科医療[埼玉県立大学:横山恵子]
1.精神科医療と精神障がい者の結婚・出産の現状
2.医療における子どもへの対応
第4節 保育園[埼玉県精神障害者家族会連合会:岡田久実子]
1.保育園に勤務していた頃に出会った人たち
2.保育園を利用し始めて経験したこと
3.保育園でできることを考える
第5節 学校[埼玉県立大学:上原美子]
1.学校における児童生徒を取り巻く現状
2.学校教職員等の役割
3.養護教諭の役割及び保健室の位置づけ
4.子どものサインに気づく大人の存在
第6節 生活保護[神奈川県厚木児童相談所:長谷部慶章(前神奈川県保健福祉局生活援護課)]
1.子どもの貧困と生活保護
2.福祉事務所とケースワーカー
3.生活保護世帯の子どもたちとその支援
4.福祉事務所における子ども支援のあり方
終章 これからの展望[埼玉県立大学:横山恵子]
1.小さい子どもたちへの支援
2.大人になった子どもたちへの支援
3.大人になった子どもたちによる新たな活動
おわりに
精神疾患の親をもつ子どもの会(愛称:こどもぴあ)
前書きなど
はじめに
(…前略…)
子育てをする精神障がい者の数は把握されていませんが、統合失調症圏の精神科通院女性患者さんの3~4割に出産経験があるとされます。さらに、一度医療につながってもその後未治療になった方や、一度も精神科を受診することのない未治療の方も含めれば、その実数はとても多いと思われます。さらに、統合失調症以外のうつ病や躁うつ病などの感情障がいなど、他の疾患を含めると、その数は計り知れません。
しかし、「子どもの存在」が知られるようになっても、精神障がいのある親に育てられた、子どもたちの生活の実態はほとんど知られていません。子どもの時に親の病気が知らされることは少ないため、親の病気には気づきにくく、親から周囲との関係を制限されるなどして、ストレスを感じながら成長します。親は病気のために養育が十分できなくなったり、離婚や失職などで、貧困の問題も出現しがちです。子どもは、早い時期から、介護者(ケアラー)として成長していきます。家事をしたり、下のきょうだいの面倒を見たり、時には病気の親自身のお世話も引き受けるしっかり者として成長します。暗黙のうちに、家庭のことは話してはいけないと学び、大人になってからも、家庭のことは誰にも話せないまま成長します。しっかりしているように見える子どもたちですが、内面では、大人になっても自信がなく、対人関係の課題など、様々な生きづらさを抱えて、社会で孤立している実態があります。子ども自身も成長途上において、精神疾患のハイリスクな状況にあるのです。
(…中略…)
この本は支援者だけでなく多くの方々に読んでいただきたいと思っています。支援者に「子どもの存在」を知っていただくとともに、自分の身近な「子どもの立場の方々」に目を向けていただくこと、子どもの抱える困難だけでなく、子どものたくましさや子どもの持っている力や今後の可能性を知っていただくことです。今、精神疾患で苦しんでいる方々には、将来、パートナーと出会い、子どもをもちたいと願ったとき、自分たちの子どもがどのように生きていくのか、そのために何を準備する必要があるのかを知ってほしいと思います。そして、勇気を出して、自分の人生を歩んでほしいと思うのです。さらに、地域で孤立している子どもたちには、同じ子どもの仲間の存在を伝えていければと思います。