目次
はじめに
第Ⅰ部 古代
1 ローマの成立と発展――都市国家から地中海世界の覇者へ
2 ローマの「内乱の一世紀」――カエサルの権力掌握と暗殺
3 ローマ帝政前期のイタリア――「ローマの平和」から「3世紀の危機」へ
4 古代末期のイタリア――キリスト教の普及とゲルマン民族の侵入
第Ⅱ部 中世~ルネサンス
5 紀元1000年ごろのイタリア半島――6~11世紀ごろの北部・中部・南部イタリア
6 コムーネの誕生と展開――11~13世紀ごろの様相
7 南イタリアの展開――外国勢力の支配
8 ローマ教皇庁とイタリア――普遍性と地域性
[コラム1]十字軍とイタリア
9 中世イタリアの港湾都市の興亡――地中海世界とイタリア
[コラム2]イタリア中世都市の形態学
10 人文主義と「国家」の理念――領域国家フィレンツェの新たな歴史像
11 都市コムーネから領域国家へ――中世後期中北部イタリア半島の諸国家
12 市民的宗教――コムーネと一体の信仰
13 中世の都市生活――いかに住まい、いかに生きたか
14 建築家という職能の形成に向けて――フィレンツェの建設現場
15 修道会の活動――聖と俗のあいだで
16 ルネサンスと宗教改革・対抗宗教改革――人文主義の基盤のうえに
[コラム3]イタリアの食文化――野菜が支えるイタリア料理
第Ⅲ部 近代
17 16世紀のイタリア――近世の始まり
18 17世紀のイタリア――動乱のなかで
19 18世紀イタリアの政治――ヨーロッパ国際政治のなかのイタリア半島
20 17・18世紀のイタリア経済学――近代経済学への貢献
21 イタリア啓蒙――ムラトーリとその残響
22 啓蒙改革――18世紀イタリアの改革
23 フランス革命とナポレオン支配――イタリア史を学び、フランス史を学ぶ
24 マッツィーニ、カヴールとガリバルディ――イタリア統一の三傑
25 イタリア統一の過程――「リソルジメント」の時代
[コラム4]イッレデンティズモとトリエステ
26 リソルジメント期の思想と芸術――ロマン主義はどう根づいたか
27 統一後の議会と行政――自由主義期議会の構成・活動と行政の変容
28 クリスピとジョリッティ――ある自由主義の相貌
29 ローマ問題の発生とカトリック運動――国家と教会
30 社会主義運動の台頭――アナーキズムから改良主義へ
[コラム5]南部主義の系譜
31 自由主義期の外交と植民地政策――「列強」の座を求めて
32 イタリア王国の産業――農業と工業の近代化
33 世紀転換期の思想と芸術――ヴェリズモ、頽廃主義、未来派
[コラム6]移民大国イタリア
第Ⅳ部 現代
34 20世紀の幕開け――ジョリッティ時代から第一次世界大戦へ
35 ヴェルサイユ体制と戦後危機――両極化するイタリア社会
36 人民党と社会党・共産党――カトリック政党の誕生と社会党の分裂
37 20世紀前半のイタリア思想――自由主義、ナショナリズム、カトリック、社会主義
[コラム7]イタリアのマルクス主義――グラムシを中心に
38 ファシズム運動の誕生とムッソリーニ政権の成立――苦境から生まれた「ローマ進軍」
39 ファシズム体制――社会と文化のファシスト化
40 エチオピア戦争、スペイン内戦介入から第二次世界大戦へ――ファシスト・イタリアの黄昏
41 レジスタンスとファシズムの崩壊――イタリア共和国の礎
[コラム8]歴史認識と歴史修正主義
42 イタリア共和国の成立とイタリア共和国憲法――国民が選択した共和制と政党間の「協定」としての憲法
[コラム9]地域の個性 北と南
43 戦後再建と中道政治――左右対立と安定の摸索
44 改革と社会運動の時代――経済成長から「鉛の時代」まで
[コラム10]イタリアの女性に妊娠中絶の権利はあるか
45 イタリア型福祉国家の成立と変容――弱い国家と低い体系性のなかで独自に発展する福祉国家
46 第一共和制から第二共和制へ――左右二極化へ向けて
[コラム11]映画で学ぶイタリア史――その扉を開くために
47 憲法改正と分権化――あるべき国と州等の関係の模索
48 ヨーロッパ統合とイタリア――EUへの期待と現実
49 20世紀イタリアの思想(20世紀後半~21世紀)――民主主義についての議論
[コラム12]ヴァティカン 教皇が空を飛ぶこと
50 21世紀のイタリア――南の思想と「中堅」国家
[コラム13]戦争犯罪と戦後賠償
参考文献
イタリア史略年表
前書きなど
はじめに
イタリアを旅行する人は、その地の古代から中世、近代に至る歴史の重層に感激するであろう。ローマはその典型であり、古代の劇場遺跡がそのままアパートとして使われている不思議さに戸惑う。また、ミラノ、トリノ、ヴェネツィア、フィレンツェ、アッシジ、ナポリ、パレルモなどを旅すれば、それぞれの「まち」の個性と多様性に感動した経験を持つであろう。あるいは、イタリア人の陽気さに驚いたかもしれない。また、イタリアは世界で一番多くの登録された世界遺産を持つ国である。いったい、このような個性と多様性、開放性はどこに由来するのであろうか。
イタリアは先駆性、普遍性とその裏面としての排除も特徴としている。イタリアという名前は19世紀半ばまではイタリア半島という地名に過ぎなかった。しかし、この地は古代以来、ヨーロッパ史に大きな影響を与えてきた。古代ローマ帝国は地中海世界の覇者であると同時に、その支配はヨーロッパ大陸のガリアやブリテン島にまで及んだ。ローマ帝国は同盟市市民にローマ市民権を与えたが、帝国の境界に壁を建設し、帝国外との断絶を作り出した。キリスト教はカトリック(「普遍的」という意味)教会を創造したが、それは十字軍や異端審問という「異質なもの」の排除も行った。中世の都市は都市民の自由を保障したが、都市の外とは壁を作り、区分した。イタリア・ファシズムはファシズムの時代の先駆であり、ナショナリズムを根幹としながらも、ヨーロッパ・ファシズムの建設をめざした。今日、地中海は、かつてのカルタゴとは形は異なるが、アフリカや中東から難民・移民が大量にやってくるルートになっているが、難民・移民の排除の主張はイタリアでも高まっている。また、イタリアは世界で最初に精神病院を廃止した国である。イタリアの歴史は、このように先駆性、普遍性と排除にも満ちている。
本書は、総勢45名の執筆者による古代から現代までのイタリアに関する50章と13のコラムで、このワンダーランドの歴史の旅を試みている。巻末には日本語で読める参考文献を載せている。本書がきっかけとなり、イタリアという地に興味を持つ人が増えるならば、編者と執筆者にとって大きな喜びである。
本書全体は4部で構成されているが、第Ⅱ部の中世~ルネサンスの構成案の作成では亀長洋子氏に、第Ⅲ部の近代の構成案の作成では北村暁夫氏にお世話になった。全体を通しての用語や訳語の統一には編集者の兼子千亜紀さんにお世話になった。この場を借りて、感謝したい。
2017年11月 高橋進