目次
まえがき
第Ⅰ部 国内の事例
第1章 日本手話とろう教育――危機的な時代の第三の道[佐々木倫子]
コラム① 在日ブラジル人第二世代の言語と教育の問題点[杉野俊子]
第2章 母語を生かした英語の授業――英語を英語で教える授業を補うために[井上恵子]
コラム② 夜間定時制高校における言語的多様性と英語教育[森谷祥子]
コラム③ これからの英語とのつきあい方[中川洋子]
第3章 世界の動向に連動する言語教育とは――日本の教育に欧米型の論理的思考法と言語技術を取り入れるときに考えなければいけないこと[蒲原順子]
第Ⅱ部 海外の事例
第4章 カナダ・ヌナブト準州のイヌイットの社会変化と教育[長谷川瑞穂]
コラム④ オーストラリアにおける少数民族言語教育の成功と不成功[濱嶋聡]
コラム⑤ パラオにおける言語の状況[岡山陽子]
第5章 グローバル時代におけるマカオの言語教育――グローバル社会での生き残りを賭けた政策[原隆幸]
コラム⑥ アフリカにおける言語使用と教育[山本忠行]
第6章 英語教育と先住民族言語復興――マオリ語・アイヌ語を中心に[岡崎享恭]
コラム⑦ ベトナムと日本の架け橋になれるか、新設のある大学の役割[近藤功]
第7章 インドの部族言語の教育――サンタル語教育に関する現地調査より[野沢恵美子]
第Ⅲ部 第三の道へ
第8章 言語は中立か――英語の経済的・社会的優位性についての一考察[田中富士美]
第9章 脱グローバル化時代の語学教育――「母語+英語+第三の場所」の提案[杉野俊子]
第10章 日本における英語必要・不要論――バフチンの「対話」の概念が示唆する第三の道[波多野一真]
あとがき
用語索引
前書きなど
まえがき
(…前略…)
本書は、そうした各国の社会経済的状況と言語教育との関連を中心に、各国についての研究や議論を紹介していくことを出版の目的にしている。また、国内にも目を向けることにより豊かな言語教育のあり方について議論を深めている。本書は10章から構成され、「国内の事例」「海外の事例」「第三の道へ」を提案する議論という3部から構成されている。第Ⅰ部は、佐々木「日本手話とろう教育――危機的な時代の第三の道」、井上「母語を生かした英語の授業――英語を英語で教える授業を補うために」、蒲原「世界の動向に連動する言語教育とは――日本の教育に欧米型の論理的思考法と言語技術を取り入れるときに考えなければいけないこと」の三稿の他、杉野「在日ブラジル人第二世代の言語と教育の問題点」、森谷「夜間定時制高校における言語的多様性と英語教育」、中川「これからの英語とのつきあい方」の三つのコラムも含んでいる。佐々木は、ろう児をとりまく「言語と教育」の現状を見た上で、ろう教育に望まれる第三の道を提案している。井上と蒲原は、グローバル化に対応した英語教育推進の中、英語教育の広がりや欧米型の論理的思考を表す言語表現や形式が、日本語や日本人の思考力に与える影響を憂慮し、内発的に起こるような方向性を示唆している。杉野は、「ニューカマー」から「在日ブラジル人第二世代の時代」になったと言われる在日ブラジル人家族やその子ども達が抱える言語・教育の問題点を指摘している。森谷と中川のコラムでは、日本の英語教育の限界を考察し、今後の英語教育のあり方を提案している。第Ⅰ部の三稿と三コラムを通して、より豊かな言語教育を目指すべく、議論や提案を行った。
第Ⅱ部は、長谷川「カナダ・ヌナブト準州のイヌイットの社会変化と教育」、原「グローバル時代におけるマカオの言語教育――グローバル社会での生き残りを賭けた政策」、岡崎「英語教育と先住民族言語復興――マオリ語・アイヌ語を中心に」、 野沢「インドの部族言語の教育――サンタル語教育に関する現地調査より」の四稿と、濱嶋「オーストラリアにおける少数民族言語教育の成功と不成功」、岡山「パラオにおける言語の状況」、山本「アフリカにおる言語使用と教育――公用語普及と国民教育の観点から」、近藤「ベトナムと日本の架け橋になれるか、新設のある大学の役割――その光と影」の四つのコラムから成る。カナダ・イヌイット、マカオ、インド、オーストラリア、パラオ、アフリカ、ベトナムなど、アジア・アメリカ・アフリカ・オセアニア地域にわたる海外の事例を紹介し、先住民少数言語のその復興と教育について現状の問題点を提示し、現地語による基礎教育の普及が負のスパイラルから抜け出す方策になるのではないかという、世界の多くの少数言語話者に共通する問題の解決に貴重な示唆をしている。
また、第Ⅲ部では、田中「言語は中立か――英語の経済的・社会的優位性についての一考察」、杉野「脱グローバル化時代の語学教育――「母語+英語+第三の場所」の提案」、波多野「日本における英語必要・不要論――バフチンの「対話」の概念が示唆する第三の道」の三稿を通して、言語と教育の関係を、現在の英語教育のあり方とその発展性をグローバルな視点からとらえなおし、未来へ向けて第三の道を探っていく試みを行った。
本書は、特定の言語を単純に導入/擁護/推進(あるいは反対)しただけでは解決できない複雑な状況を「矛盾」と捉え、国内外のそうした状況を(言語)教育という視点から客観的に伝えていくことを心掛けた。また、事実を伝えるだけではなく、賛成・反対という二分法的に議論されがちな言語使用に関する摩擦や衝突を乗り越え、未来に向けて第三の道を提示できる一冊にしていくことを目指した。
(…後略…)