目次
序文
第1章 社会の基盤には男女の示差的原初価が存在する?
社会的権力と人類学
男女の差異、思考の究極の限界点
生物学的与件というアルファベット
男女の示差的原初価
認知カテゴリー、不平等、支配
第2章 社会的なものの論理――親族体系と象徴的表象
三つのアプローチ、三つの複合的レベル
文化主義的思考
多様性のもとでの不変項
社会的なもの、数の限られた組み合わせ
身体的かつ生物学的な思考材料
親族研究の主要な諸問題
誕生が配偶者選択を決定するとき
出自――一つの特権的な血統あるいは複数の血統
フランス法における婚姻禁止の諸例
親族体系は固有の世界観を示している
生物学的紐帯、社会的紐帯
基本的な生物学的与件
世代の順序、性差、兄弟姉妹
生物学的諸特徴の組み合わせとその観念的操作
象徴的構築の核にある兄弟.姉妹の関係
第3章 妊娠能力と不妊――イデオロギーの罠の中で
子どもの誕生後の性行為の禁止
熱と冷、中心となる概念カテゴリー
熱と冷のバランスの制御
性液と受胎
男性の不能と女性の不妊
小児期の熱と無月経の女性
極めつけの異常性
熱の危険な蓄積
第4章 不妊、乾き、乾燥――象徴的思考におけるいくつかの不変項
学問的言説と道徳規範
民間言説と社会的規範
不妊の責任は女性にある
無視される男性の不妊
生物学的父〔ジェニター〕vs社会的父〔ペーター〕
性の関係、血の関係、力の関係
夫婦の血の不適合性
規範侵犯の兆候としての不妊
生殖能力という限られた資産
先行世代と後続世代を混ぜてはならない
父の同意、母の同意
女性原理の同意
体液を融合させ、血を混ぜる
異種との交わり――人間、それ以下のもの、それを超えるもの
世界の均衡
第5章 精液と血液――その生成と両者の関係に関する古代の理論について
説明モデルの数には限りがある
受胎という見事な錬金術
血液の複雑な混合と遺伝の諸問題
民間概念vs科学的思考
体液の特徴づけから序列化まで
ヒンドゥーにおける生命の循環
骨の中の精液
骨は男性要素、肉は女性要素
信仰の物質的基盤
信仰の核には物質がある
第6章 悪臭に捉えられた赤ん坊――精液と血液が母乳に与える影響について
熱のある赤ん坊と性交渉
体液間の不適合性
褐色の髪の温和な乳母
血液の攪拌と悪臭
身体の均衡、世界の均衡
第7章 半身像、片足裸足、片足跳び――男性性の古代形象
横向きの半身像
シライの神話物語
知的操作――切断する、だがどこを?
側面像の心的な力
質料の増殖、力の凝集
男性の性的能力の凝集
増大し、強化された生殖力
生殖力の精髄としての半身像
第8章 アリストテレスからイヌイットまで――ジェンダーの理論的構築
男性原理の変質
人間の形相における類似性
女性性のもつ動物的な質料
女性的なものの過剰としての怪物性
サンビア族のモデル――「人は男に生まれるのではない、男になるのだ」
イヌイット――セックスと切り離されたジェンダー・アイデンティティ
象徴的次元、自然的次元
第9章 戦士の血と女たちの血――妊娠能力の管理と占有
人類学的視点から見た男性優位
原始母権制というテーマ
イロクォイ族のケース
ほぼ平等からほぼ奴隷状態まで
原始母権制」と神話の社会的機能
一連の堅固な象徴的思考
象徴作用と対立の論理
理性のさまざまな姿
男の心をもつ」女たち
試金石としての妊娠能力
性的不平等の二本の主軸
第10章 さまざまな独身像――選択、犠牲、背徳
西洋における、完全と救済の探究としての独身
西洋以外では、独身者は一人前にはなれない
死せる処女は冷たい悪霊と化す
独身の死者どうしの神秘的結合
超自然的な災い
偉大なる水牛女
半人前
自由選択は近代の発明
第11章 ユピテルの太腿――新たな生殖方法についての考察
真の変革はありえない……
生物学的紐帯に優先する社会的紐帯
子どもと人格
子孫を残す願望、というより義務
不妊という不幸
「親子関係を作るのは言葉、壊すのも言葉」
不妊という生物学的問題に対する社会的解決策
「父」と呼ばれる女
複数の「母」をもつ子どもたち
亡父から生まれた子どもたち
集団の権利と個人の要求
第12章 個人、生物学的なもの、社会的なもの――子をもつ権利と生殖の問題
親子関係と子どもを成すこと
「血の紐帯―子どもを成すこと」に優先する「社会的紐帯―親子関係」
意思と個人
個人の諸権利と他者との関係
自然を根拠にした社会制度などない
個人の自己実現と集団の法
個人の先鋭化
結論 女性が権力をもつことはありそうにない
「五人の有権者、二人の女性、一匹の犬」
女性は個人か?
妨害力
女性の特殊性か、男性の特権領域か
進歩概念についての相対的錯覚
女性の年齢区分と男としての年齢……
原注
文献
初出一覧
監訳者あとがき
前書きなど
監訳者あとがき
本書は一九九六年にオディル・ジャコブ社から出版されたMasculin . Feminin. La pensee de la difference の全訳である。なお、本書の第Ⅱ巻 Masculin . Feminin II: Dissoudre la hierarchie の翻訳『男性的なもの/女性的なものⅡ 序列を解体する』(明石書店)が二〇一六年秋に刊行され、日本におけるエリチエの仕事の最初の本格的な紹介となっている。
(…中略…)
本書は、一九七〇年代の末以降、さまざまな機会に発表してきた男女の差異に関する論考をまとめたものである。構造主義人類学の立場から、今なお普遍的に存在する男女の序列、男性支配の根源を突き止め、その理由を理解しようと努めること、それが本書を貫く問題意識である。序文でも述べられているとおり、平等実現のための有効な闘いはその対象を同定することからしか始まらないからである。
(…後略…)