目次
はじめに
第1章 悲しき奨学金
1 借金1044万円――社会へ出る日の重荷
2 落とし穴――延滞金「まるで地獄」
3 親にまで――破産しても消えない
4 甘いワナ――風俗で働く自分に涙
5 学費未納――親に管理任せ、消えた
6 ジレンマ――取り立てねばクビに
7 救済策――働く意欲を守るため
background 教育後進国・日本
interview 橘木俊詔「柔軟な返還制度が必要」
遠藤勝裕「新たな学生のため回収」
clip 奨学金の返還訴訟激増。年5000件超
○日本学生支援機構の奨学金事業とは?
○「困窮学生に役立てて」匿名寄付1000万円
第2章 老いて追われる
1 強制退去――もう行くところない
2 措置控え――帰る家には布団すらない
3 給付切り――負担倍増し、きしむ生活
4 無届け――「違法だが」低額求め
5 葛藤――防げなかった死、自問
background 終のすみか求め
○流転の末、たどり着いた3畳間
○高齢だけを理由に貸し渋り
○受け皿の養護老人ホーム、じつは定員割れ
interview 稲葉剛「年金や格差、根の深い問題」
第3章 非正規スパイラル
1 漂流――37歳、溶けない氷河期
2 派遣女子――会社の都合で変わる身分
3 婚活の壁――正社員が最低条件
4 高学歴プア――東大修士も門前払い
5 ハラスメント――物言えば経済制裁
6 ブラック企業――「正社員はまし」洗脳
7 親の不安――年金使い、孫まで援助
background ゆがんだ新・日本的経営
○多様な雇用形態を提言。負の側面、労使とも想定外
○「自由な働き方」に潜むリスク。意見言った途端切り捨て
interview 阿部真大「幻想打ち砕かれた世代」
clip 五人に一人が「やむを得ず非正規」で働く
第4章 子どもたちのSOS
1 ネグレクト――愛も歯も溶けていく
2 孤立――私も青春味わいたい
3 無料塾――夢へ「俺やってやる」
4 普通の幸せ――「早く二人と暮らしたい」
5 受診控え――窓口での負担、重く
background 学びを守るために
○就学援助基準、地域で格差
○国の補助廃止影響。認定を自治体が絞る
○どんな保護や支援があるか
○将来負担は1・1兆円増。「かわいそう」では済まない
clip 子どもの貧困率、九割未調査
第5章 18歳の肖像
1 退所――たった一人で見る夢
2 打ち切り――自立へ一歩。母は苦悩
3 ホームレス――大人は信じてくれず
4 就職――家族のため家を出る
5 未来――まず「高卒」。娘を守るために
background 壁を越えるために
○支援打ち切りで細る18歳。自立への援助は手薄
○学費高騰でも仕送り増やせず。進学阻む家庭の困窮
interview 宮本みち子「18歳の公的支援、なぜ手薄に」
第6章 年金プア
1 老老介護――妻と生きるため離婚
2 弱者いじめ――負担増、98歳の母にも
3 切迫――1年後の自分見えず
4 短期保険証――老後のため、逆に重荷に
5 余命の対価――わが家に住むための選択
background 日本の制度、現状は?
○収入は現役時の35%に。高齢化で見直し進む支給額
○納付期間が最低25年から10年へ。無年金者対策で短縮
○増える免除制度の利用者
clip 貧困高齢者160万人増
第7章 内なる国境
1 亡命労働者――借金抱え出国の果て
2 実習のワナ――薄給、暴力、もう限界
3 留学苦――労働制限、高時給頼み
4 派遣会社――日系人、雇用の調整弁
5 シングルマザー――生活保護にビザの壁
6 出稼ぎ孤児――ガイジン帰るところない
background 外国人労働者との共生
○低賃金や過酷残業頻発
○東京五輪で特需の建設。「即戦力」再来日で穴埋め
○代行事業で「家事」特区。「女性活躍」を名目に解禁
clip 就労目的の難民申請急増。その背景は?
第8章 がんサバイバー
1 生きたい――命より娘の未来を
2 家族のため――一生治療必要といわれ、延命に迷い
3 中小企業の苦悩――社員守る保険、程遠く
4 再就職――病気告白に態度急変
5 願い――逆境でも前を向いて
background 治療と就労、厳しい両立
○医師、看護師、患者の苦悩と向き合う
○患者3割が離職、収入減。国も「社会的問題」と明記
○就活240社空振り
interview 桜井なおみ「企業にも優遇策を」
clip がん治療中の雇用、中小企業では6割が困難
終章 「新貧乏物語」に込めた思い
教育は貧富の差によらない平等なチャンスであるべき
一つひとつの光
無届け高齢者施設に宿泊して考えたこと
いまも確かな答えを出せずにいる
支えてくれる人や制度があれば、道は開ける
大人でない18歳だからこそ抱える、逃れようのない貧困
決して他人ごとではない、誰もが隣り合わせの危機
事実を打ち明けてくれた勇気にこたえたい
私たちは現実を直視する必要がある
なぜ制度をもっと柔軟に活用できないのか
貧困問題をさらに深く理解するためのブックガイド
あとがき
前書きなど
まえがき
(…前略…)
本書は二〇一六年、ほぼ一年にわたって中日新聞、東京新聞、北陸中日新聞で掲載した長期連載「新貧乏物語」をベースに加筆・修正し、単行本化したものです。「驚くべきは現時の文明国における多数人の貧乏である」で始まる河上肇の評論『貧乏物語』が一九一六(大正五)年に発表されてからちょうど百年の節目。貧困が決して過去のものではなく、私たちが生きる平成の現代においても社会を蝕む病巣であることをさまざまな現場から掘り起こし、その実態をストレートに伝えるのが狙いでした。無論、百年前と今とでは社会制度も生活環境も、人々の価値観も大きく異なります。モノや食糧が不足した戦前と比べれば、日本は格段に豊かになっているという反論もあるでしょう。ただ、河上が「金持ちが奢侈をやめることで富裕層と貧乏人の格差をなくす」と指摘した経済格差による相対的な貧困はなくなるどころか、むしろ増殖されていると言っても過言ではありません。内閣府が二〇一四年に公表したデータによると、国内の所得格差を表す相対的貧困率は、経済協力開発機構(OECD)に加盟する三十四カ国のうち、イスラエル、メキシコ、トルコ、チリ、米国に次いで六番目に悪い16・0%でした。父子、もしくは母子家庭の貧困率は、加盟国で最悪の50・8%に上っています。
(…後略…)