目次
はじめに
ニカラグア地図
ニカラグアデータ
Ⅰ 歴史と自然環境
第1章 人と自然――町の案内と知られざる観光スポット
第2章 メソアメリカ世界のなかのニカラグア――先スペイン期から征服まで
第3章 もう一つのニカラグア――大西洋岸とのかかわり
第4章 レオンとグラナダの抗争――歴史に根ざした深い対立の構図
第5章 ウィリアム・ウォーカー――大統領となったアメリカ人
第6章 サンディーノ将軍の抵抗運動――「私は自分を売ることもないし、降伏もしない」
第7章 狂った小さな軍隊――サンディーノと民族主権防衛軍
第8章 湖と火山の国に足を踏み入れて――中米一大きなニカラグア湖と南北に連なる火山
Ⅱ 独裁政治から革命政権へ
第9章 保守主義の時代と自由主義革命――「保守党の30年間」とその帰結
第10章 ソモサ独裁の誕生と崩壊――42年間におよぶ王朝政治の軌跡
第11章 サンディニスタ革命期の文化政策――「あたらしい人間」のための文化
第12章 サンディニスタ革命と識字運動――教育かイデオロギー装置か?
第13章 日本とニカラグア交流史異聞――ユニークな足跡を残した二人
第14章 革命政権の光と影――経済危機、内戦、避難民の10年
第15章 眠る超ド級大空港の謎――社会主義国による海外援助失敗の象徴
第16章 レーガン大統領とコントラ――イラン・コントラ事件で窮地に立たされる政権
Ⅲ 変貌を遂げる政治と経済
第17章 転換点となった1990年の選挙とチャモロ政権の発足――経済と軍部の改革が最大課題
第18章 堅調な経済、それでも中米で最下位を抜けきれない事情とは――国際的なグローバル化が襲いかかる
第19章 巧みなニカラグアの外交政策――中国と台湾、アメリカとロシア全方位外交
第20章 サンディニスタ政権の貧困対策――ミレニアム目標の取り組み
第21章 ニカラグアとALBA――ラテンアメリカ左派グループとの連携
第22章 オルテガ大統領とFSLN――権力基盤を固めたオルテガ大統領
第23章 ニカラグア運河構想のあらまし――運河建設の夢の実現に向けて
第24章 ニカラグア運河をめぐるテーマ――総工費500億ドルのメガプロジェクト
第25章 対コロンビア海洋境界画定紛争――「海洋国家」に向けた大きな前進
Ⅳ 人びとの暮らしと社会の姿
第26章 先住民という「他者」――混血のニカラグア神話
第27章 ニカラグアのフェミニズム運動――政治闘争のはざまで
第28章 ニカラグアのジェンダー平等政策――前進と後退
第29章 女性の政界進出――進む政界進出とガラスの天井
第30章 リプロダクティブ・ヘルス&ライツ――産む・産まない権利をめぐる対立
第31章 ニカラグアの家族――シングルマザーの国
第32章 ニカラグアの国際労働移動――サバイバル戦略としての移民
第33章 ニカラグアの教育制度――フォーマル教育とノンフォーマル教育
第34章 ニカラグアの宗教と北部高地ポストコンフリクトエリア――女性たちのライフヒストリー・インタビューを通して
【コラム1】ボサワス森林保全地区と人々の生活
第35安情勢――中米で最も治安がよいといわれる国の実情
【コラム2】交通事情
第36章 医療事情――発展する保健医療の今
【コラム3】カサ・マテルナ
第37章 ニカラグアの郷土料理――多彩な食材と料理法
第38章 葉巻――キューバ産に追随する勢い
Ⅴ 豊かな芸術の世界
第39章 ルベン・ダリオ――ニカラグアが生んだ世界の大詩人
第40章 詩人の国ニカラグア(1)――モデルニスム期まで
第41章 詩人の国ニカラグア(2)――バングアルディア運動以降
第42章 小説家としてのセルヒオ・ラミレス――『さよなら若造たち』の紹介
第43章 ニカラグアの造形芸術(1)――国立芸術学校と造形芸術
第44章 ニカラグアの造形芸術(2)――過渡期を迎えたニカラグアの絵画芸術
第45章 ニカラグアの彫刻芸術――多彩な彫刻芸術家たち
第46章 ニカラグアの素朴画――革命と芸術が結んだ地方NGOの草の根交流
第47章 ニカラグアの革命音楽家――メヒア=ゴドイ兄弟
Ⅵ 復興と成長に向けた国際社会と日本の協力
第48章 従業員1万人の日系企業――矢崎総業レオン工場
第49章 ニカラグア復興への国際協力――急増した援助
第50章 日本の対ニカラグア協力の軌跡――復興に大きな役割を果たした日本
第51章 高まる自然災害リスクに直面する人びと――世界気候リスク第4位のニカラグア
第52章 災害リスクの軽減とコミュニティ開発――住民ベースの地道な取り組み
第53章 地域保健を担う保健医療スタッフと仕事ぶり――すべての人びとの健康を目指す意志と誇り
第54章 ドナーの保健医療支援と現場スタッフへの“影響”――ただ翻弄されるままではない逞しさ
第55章 青年海外協力隊――私の経験したボランティア生活と活動
参考文献案内
前書きなど
はじめに
ニカラグアは魔術的な魅力を持つ国である。1972年の大地震で壊滅した首都マナグアの旧市街は、廃墟となった当時の姿を今も曝け出している。1979年の革命直後に訪れたある評論家は、「まるで被爆後の広島市街のようだ」と述べている。ニカラグア人は壊滅した街をそのまま残して、幹線道であるマサヤ街道沿いに徐々にスポットを移した。今では高級ホテルやショッピングモールが建ち並ぶ、近代的な街に変貌しつつある。だが、高層建築が目にとまる近隣諸国の首都に比べると、いかにも人間くさい、庶民的な風景である。ニカラグアの持つ魅力の一つは、大都市にありがちな無機質で人間を寄せ付けない、見えない壁が、ここにはないことである。
ニカラグアは中米諸国のなかではもっとも面積が広く、太平洋とカリブ海の両岸に長い海岸線を有している。このため、スペインとカリブ海のアフロアメリカン文化が混淆することになった。ニカラグア湖は、淡水サメが生息することで知られる。現在、両大洋横断運河の建設が進められようとしていて、完成すれば国際的な物流に大きな影響を与えるだろう。地震と火山の国としても知られ、いくつかは活火山で、観光客のツアーコースにもなっている。詩聖ルベン・ダリオの母国でもある。
(…中略…)
本書は2004年に刊行された『エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアを知るための45章』のニカラグアの部分を大幅に充実・拡充したもので、最新のデータを盛り込んだ。(……)