目次
序章 欧米の集団妄想とカルト症候群[浜本隆志]
第1章 もう一つの十字軍運動と集団妄想[浜本隆志]
第2章 フランス、ドイツ、スペインの異端狩り[浜本隆志]
第3章 ペストの蔓延と鞭打ち苦行者の群れ[浜本隆志]
第4章 トレントの儀礼殺人とユダヤ人差別[森貴史]
第5章 人狼伝説から人狼裁判へ[溝井裕一]
第6章 ミュンスターの再洗礼派と千年王国の興亡[浜本隆志]
第7章 魔女狩りと集団妄想[浜本隆志]
第8章 アメリカに飛び火したセイラムの魔女狩り[浜本隆三]
第9章 フランスの王政復古と幻視──天空の十字架、大天使の出現、蘇る聖遺物崇敬[柏木治]
第10章 ルルドの奇蹟と聖母巡礼ブームの生成[柏木治]
第11章 カンパーの顔面角理論からナチスの人種論へ[森貴史]
第12章 アメリカの秘密結社クー・クラックス・クラン──人種差別団体の実像[浜本隆三]
第13章 ヒトラー・ユーゲントの洗脳[細川裕史]
第14章 ヒトラー演説と大衆[高田博行]
終章 集団妄想とカルト症候群の生成メカニズム[浜本隆志]
あとがき
主要参考文献一覧
図版出典一覧
編著者紹介・執筆者紹介
前書きなど
あとがき
集団妄想やカルト症候群は、欧米だけでなくもちろん日本でも、これまで何件か発生してきた。よく知られているものとしては、幕末の1867年8月から12月にかけての「ええじゃないか」騒動がある。これは、伊勢神宮のお札が降ったという噂をきっかけに、人びとが「ええじゃないか」と踊りながら練り歩き、富商などの家へ押しかけてどんちゃん騒ぎを繰り返すというものだ。「ええじゃないか」は関西、東海、四国地方に広がった騒ぎであったが、江戸幕府の没落から明治という新しい時代への転換期を時代背景にしている。なお、討幕派が意図的に仕組んだ運動という説もある。
これは純粋に日本型の集団妄想のようであるが、じつはそうではない。われわれが本文で確認したように、ヨーロッパの十字軍運動やペスト蔓延時に、キリストや聖母マリア、天使からの手紙が届いたという噂を根拠に、民衆十字軍および少年十字軍の運動が盛り上がりをみせた現象、さらに舞踏病の憑依やペスト蔓延のパニックなどと構造的に類似していることがわかる。
何かをきっかけにして噂が瞬く間に広がって、異常な行動が伝染するというのは、一つのパターン化された現象である。このような集団妄想や集団ヒステリーは、時代の転換期に多発していることが確認できる。群集心理には、日本や欧米という文化の差を越えて構造的な類似性があることがわかる。
(…中略…)
以上のようにみると、本書で展開した集団妄想やカルト症候群は、単に欧米社会だけではなく、ほとんど普遍的に世界で発生するものであることが明らかだ。これらの生成のメカニズムも類似しており、したがって本書の分析は、この種の事件に応用できるように思われる。さらにその生成のメカニズムは、過去の歴史だけではなく、現代や未来の事例にも当てはめることが可能であろう。いまなお、カルト集団であるアフリカ・ナイジェリアのボコ・ハラムが引き起こす事件、「イスラーム国」の原理主義やテロなどが大きなニュースとして取り上げられており、集団妄想やカルトは、アクチュアルな課題でもある。その意味において、本書を世に問う意義もあると確信している。
本書はテーマが広範多岐にわたるので、7人の執筆者の共著というかたちをとっているが、できるだけ各章の流れや関連性を重視し、集団妄想とカルトの生成のプロセス、時代的背景や全体像を浮き彫りにできるよう配慮したつもりである。そして読み物としても、読者のみなさまに興味を惹く工夫を少なからずこらしてみた。しかしその結果や出来栄えについては、読者のみなさまのご判断に委ねたいと思う。
(…後略…)