目次
序文
第1章 連帯とソーシャル・ビジネス――理論的背景[池本幸生・松井範惇]
1.1 はじめに
1.2 健康と幸福――連帯の本質的価値
1.3 より良き社会のためのケイパビリティ・アプローチ
1.4 連帯経済の持続可能性
1.5 連帯経済におけるソーシャル・ビジネス
第2章 マイクロクレジット、インクルーシブ・ファイナンスと連帯[松井範惇・坪井ひろみ]
2.1 はじめに
2.2 マイクロクレジットの展開
2.3 社会システムとしてのマイクロクレジットの有効性
2.4 連帯のためのソーシャル・ビジネス――グラミンモデル
2.5 クレジット、インクルーシブ・ファイナンス(金融包摂)の最近の展開
第3章 スペインのグラミン型マイクロクレジット[坪井ひろみ・ノズル イスラム チョードリー]
3.1 はじめに
3.2 ICO財団マイクロクレジット・パイロット・プロジェクト設立
3.3 プロジェクトの対象者
3.4 プロジェクトの基本哲学
3.5 プロジェクトの組織
3.6 プロジェクトの運営方法と活動内容
3.7 プロジェクトの現状
第4章 グラミン・ファミリーのソーシャル・ビジネス[坪井ひろみ]
4.1 はじめに
4.2 グラミン・シャクティ――再生可能エネルギー事業
4.3 保健医療、情報通信、繊維、企業家支援の各事業
第5章 ヨーロッパの企業とグラミンのソーシャル・ビジネス[坪井ひろみ]
5.1 はじめに
5.2 グラミン・ダノン・フーズ――ヨーグルト事業
5.3 グラミン・ヴェオリア・ウォーター――水事業
5.4 BASFグラミン――蚊帳事業
第6章 日本の企業とグラミンのソーシャル・ビジネス[坪井ひろみ]
6.1 はじめに
6.2 グラミンユニクロ――衣料品事業
6.3 グラミン・雪国まいたけ――緑豆事業
6.4 グラミン・フェリシモ・プロジェクト――衣料品・生活雑貨通信販売事業
6.5 ソーシャル・ビジネス・ドリームパートナーズ――投資・コンサルティング事業
第7章 地域通貨と地域の再活性化[松井範惇]
7.1 はじめに
7.2 なぜ地域通貨なのか?「お金の欠陥」
7.3 地域通貨の定義と性格付け
7.4 ひとつの例――山口ワピー
7.5 成功および失敗の要因
第8章 有機農業における連帯の役割[金氣興・池本幸生]
8.1 はじめに
8.2 提携――日本における有機農業
8.3 韓国における親環境農業
8.4 タイにおける「足るを知る経済」と有機農業
第9章 認証コーヒーと連帯[池本幸生]
9.1 はじめに
9.2 コーヒー、環境、貧困問題
9.3 ベトナムにおけるコーヒーと貧困
9.4 コーヒーを通じた連帯
第10章 韓国における社会的企業の展開[金氣興]
10.1 はじめに
10.2 韓国における社会的企業の概念
10.3 自治体の取り組み――忠清北道を中心に
10.4 有機農業の事例からみた社会的企業――フックサリム
用語解説
編者・執筆者紹介
前書きなど
序文
(…前略…)
本書の構成は次の通りである。まず第1章では、総論として、社会問題を解決する上での社会的企業の必要性について理論的に論じる。本書は、アマルティア・センのケイパビリティ・アプローチとバングラデシュのグラミン銀行のマイクロクレジットの研究から出発しており、そこからどのようにして連帯に辿り着いたかを示す。第2章は、発展途上国の貧困層のためのマイクロクレジットのパイオニアとしてバングラデシュのグラミン銀行を取り上げ、その成功の要因を探る。経済学では他者を監視するための仕組みとされる5人グループは、連帯経済では互いに助け合う存在として捉えられる。助け合い、励ましてくれる仲間がいれば、監視する仲間がいるよりも経済的社会的にずっと大きな成果を上げることができる。最近のマイクロ・ファイナンスとインクルーシブ・ファイナンスの動向も簡単に紹介し、それが発展途上国だけでなく、欧米にも広がっている様子を見ていく。第3章では、欧州連合で唯一であるスペインにおけるグラミン型マイクロクレジットのパイロットプロジェクトについて取り上げる。発展途上国の貧困者を対象として始まったマイクロクレジットが、途上国でのみ適切なのではないことを示すひとつの例である。
グラミン銀行はマイクロクレジットをソーシャル・ビジネスとして位置付け、さまざまな分野で社会的企業を設立してきている。第4章から第6章は、グラミンがバングラデシュで取り組む事業の事例である。第4章では、そのようなグラミン銀行のファミリー企業として、太陽光発電、バイオガス、改良かまどなどを提供する再生可能エネルギー事業を行う、グラミン・シャクティに注目する。バングラデシュのような国では増大するエネルギー需要にさまざまな形で対応することによって安定的に応えていく必要がある。さらに、保健医療、情報通信、繊維などファミリーの非営利組織・企業による事業についても取り上げる。第5章では、ヨーロッパの企業との連携から生まれたソーシャル・ビジネスを紹介する。農村の人々に栄養価の高い食べ物を提供するヨーグルト事業と、衛生的な水を提供する上水供給事業、防虫剤を処理した蚊帳を農村の人々に提供する事業を取り上げる。第6章は、日本の企業との連携を取り上げ、衣料品事業、緑豆事業、生活雑貨やコンサルティング事業を紹介する。
第7章は社会的企業のひとつの形態として地域通貨を取り上げる。地域通貨は地方経済を活性化し、コミュニティ開発を行うという目的を持っており、事例として山口県の地域通貨の実験を取り上げる。第8章では有機農業を取り上げる。有機農業を成り立たせている重要な仕組みが農家と都市の消費者を結び付けるという「提携」であり、それはまさに連帯のひとつの形態である。事例としては日本、韓国、タイを取り上げる。第9章は認証コーヒーを取り上げる。フェアトレード・コーヒーは良く知られているが、それは消費者が生産者の状況を知ることによって生産者を支援する消費を行うことである。ここでも生産者と消費者を結び付けることによって、生産者の貧困を解決しようとする連帯の形を見出すことができる。認証はフェアトレード以外にもさまざまなものがあり、貧困削減の他、環境保護を目指すものもあり、連帯が貧困問題だけでなく、他の問題にも応用可能であることが示される。第10章では韓国の社会的企業の事例が取り上げられ、韓国政府が積極的に社会的企業を推進しようとしている様子を見ていく。