目次
シリーズ刊行にあたって(シリーズ巻頭言)
第1部 過去からの流れのなかの子どもの身体
第1章 現代の子どもの運動生活習慣と体力・運動能力(西嶋尚彦)
はじめに
第2章 発達のなかの子どもの身体
●幼児期(木塚朝博)
はじめに
Ⅰ 幼児期運動指針
Ⅱ デュアルタスクとは
Ⅲ デュアルタスクの実践例
Ⅳ 幼児教育現場への提言
おわりに
●児童期(加藤謙一)
はじめに
Ⅰ 走・跳・投の基礎的運動技能の発達
Ⅱ 小学生スプリンターの疾走能力の縦断的発達
おわりに
第3章 原風景から見た幼少期の身体経験のもつ意味(中込四郎・奥田愛子)
はじめに
Ⅰ 原風景とは、そしてなぜ原風景か
Ⅱ 子どもの遊び空間
Ⅲ アスリートの原風景の特徴
Ⅳ 双子のアスリートの事例
おわりに
第2部 今を生きる子どもの身体
第4章 現代社会の特徴から“みた”子どもの身体――私たちは子どもの身体をどのように“みる”べきか(菊幸一)
Ⅰ はじめに――現代社会における“課題”としての子どもの身体
Ⅱ 子どもの身体をめぐる“遊び”と“スポーツ”
Ⅲ 現代社会に求められる子どもの身体
Ⅳ スポーツ空間論からみた子どもの身体
Ⅴ おわりに―社会的行為としての子どもの身体の可能性
第5章 学習指導要領で求められる子どもの身体(岡出美則)
Ⅰ はじめに――学習指導要領で示された子どもの身体への批判
Ⅱ 学習指導要領で示された子どもの身体検討の手続き
Ⅲ 学校教育全体で対応すべき課題としての子どもの身体
Ⅳ 教科指導の対象としての身体
Ⅴ 第二次大戦後の体力つくりの導入の経過
Ⅵ おわりに
第6章 不適応の子どもの身体――〈私〉の身体を生きることのむずかしさ(坂本昭裕)
はじめに
Ⅰ 大人への過渡期にある身体
Ⅱ 思春期の子どもにみられる不適応の実際
Ⅲ 不適応の子どもの身体の語り
Ⅳ 〈私〉の身体を生きることのむずかしさ
Ⅴ 思春期を通過するための儀礼
おわりに――現代社会が失ったもの
第7章 障害のある子どもの「身体」(澤江幸則・齊藤まゆみ)
Ⅰ アダプテッド体育・スポーツ
Ⅱ からだに障害のある子どもの「身体」
Ⅲ 自閉症スペクトラム障害の子どもの「不器用さ」
Ⅳ アダプテッド体育・スポーツからみた「身体」とは
第3部 未来の子どもの身体
第8章 未来につながる子どもの身体とその育ち――プロジェクトの取組とその成果(澤江幸則・木塚朝博)
Ⅰ はじめに
Ⅱ 調査項目について
第9章 子どもの身体性コンピテンスの発達に寄与するために――体育・スポーツ学における課題と提案(阿江通良)
Ⅰ 子どもの身体性コンピテンスの発達における危機
Ⅱ 日本の子どもは活発で、巧みに動けるのか
Ⅲ 動きと器用さ(巧みさ、調整力)について
Ⅳ 「効率よく動ける子ども」を育てるために
Ⅴ 子どもの動きの発達に役立つ遊びや運動の確立のために
あとがき
編著者・執筆者紹介
前書きなど
あとがき
(…前略…)
本書は大きく3部構成となっている。第1部は「過去からの流れのなかの子どもの身体」と括られた。ここでは子どもの体力・運動能力の経年的な推移を示すことにより、特徴そして課題を浮き彫りにした。すでに指摘されていることではあるが、子どもたちの運動・スポーツ生活が二極化に向かっていることを過去からのデータが物語っていた。また、一部の運動能力や体格面での向上が認められるが、現代の子どもたちは、動きの質(運動のやり方)の低下、そして身体や力の加減をコントロールする運動調整能力の発達に遅れが明確に示された。この辺りの特徴は、未来の子どもたちの運動能力を考えるうえで着目すべき側面ととらえた。こうした子ども期の特徴と、後年の発達や運動・スポーツとのかかわり方への影響については、幼い頃の記憶にある原風景やスポーツ原体験調査の結果からも示唆された。
次に、4章から7章までを第2部として、「今を生きる子どもの身体」と括ってみた。子どもたちの今日的遊びや運動環境の貧困を招いたのはわれわれ大人たちによってであり、さらに、「どのような遊びやスポーツとのかかわり方が適しているのかが、子どもの立場から認識され、議論されているとは言いがたい」との現状への指摘は、そのまま受け止めねばならない。わが国の子どもたちの体力・運動能力の向上には、学校体育の果たす役割が極めて大きい。教科指導としての体育がどのように位置づけられ、変遷してきたかを検討することは、今後の課題を明確にするうえで重要となる。さらにこの第2部では、広義の問題(課題)を抱えた子どもたちにおける「身体」の特徴から、彼らの体験している世界に迫ることが可能であるとともに、彼らの問題(課題)解決にとって身体活動の果たす役割の大きいことが示された。運動する機会はすべての子どもたちに保証されるべきである。著者が、「アダプテッド体育・スポーツにおける『身体』は、単に機能的・生理的機能に閉じたものではなく、その人の運動特性だけでなく、意志や認知、社会性など、心理社会的機能を含めた複合的な有機体としての『身体』なのである」と締めくくっているように、近年創設されたアダプテッド体育・スポーツ領域の理念は、心理身体面での障がいを抱えた子どもたちの体育・スポーツに限らず、健常な子どもたちの指導においても参考となる。
そして第3部は、「未来の子どもの身体」と題して、2つの章で構成した。これらは、本プロジェクトの具体的な研究成果および今後の課題を明示したものと位置づけられる。「子どもの運動を、生活などを含めた人間行動を支える基盤である身体を処する能力としてとらえ」、その能力を「身体――環界能力(Physicals-Surrounds Competence)」と命名し、既存の運動能力テストでは測ってこなかった3つのあらたな運動(身体)能力の側面に操作的定義をはかり、テストバッテリーを開発した。それは、「ブロック倒し課題」(道具操作能力)、「やぶさめ課題」(二重課題遂行能力)そして「きょうりゅうのタマゴ課題」(対人協働能力)である。これらの課題のさらなる妥当性や信頼性の確かめは、重要な課題のひとつとして本プロジェクトが終了したあとも継続的な取り組みがなされている。最終章では、「(これらの)3要因が統合された動きで、かつ子どもが自主的に楽しく行えるようなもの(指導法)を開発する必要がある」と主張し、今後の課題を示唆した。子どもたちが楽しみながらこれらの能力の発達を可能とする具体的な手だてを提案することも本プロジェクトの責務と考えられる。
(…後略…)