目次
謝辞
まえがき
序論[シーリア・シャゼル、サイモン・ダブルデイ、フェリス・リフシッツ、エイミー・G・リーメンシュナイダー]
1 犯罪と罰――監獄を使わないで罰すること[シーリア・シャゼル]
2 社会的逸脱――中世のアプローチ[G・ゲルトナー]
3 人生の終わり――クリュニー修道士たちに耳を傾ける[フレデリック・S・パクストン]
4 結婚――中世の夫婦と伝統の使用[ルース・メイゾ・カラス]
5 女性――ダヴィンチ・コードと伝統の捏造[フェリス・リフシッツ]
6 同性愛――アウグスティヌスとキリスト教徒の性的志向[マシュー・キュフラー]
7 性的なスキャンダルと聖職者――災厄のための中世の青写真[ダイアン・エリオット]
8 労働――中世の修道院からの考察[マーサ・G・ニューマン]
9 障害?――身体の差異に関する中東からのまなざし[クリスティーナ・リチャードソン]
10 人種――本屋が隠したこと[メイガン・ケイタ]
11 難民――一三世紀フランスの見方[メガン・キャシディ=ウェルチ]
12 拷問と真実――トルケマダの幽霊[エイミー・G・リーメンシュナイダー]
13 階級の正義――我々にはなぜワット・タイラーの日が必要なのか[ピーター・ラインボー]
14 指導力――我々には君主の鑑はあるのに、どうして大統領の鑑はないのか[ジェフリ・コジオル]
訳者あとがき
執筆者紹介
前書きなど
訳者あとがき
(…前略…)
本書は現代における不正を分析して明らかにし、それをなくすためには、あるいは少なくともそれから弱者を保護するためにはどうすればいいのかを提言している。本書で不正とされているのは、単に法に背くこと、犯罪に手を染めることではなく、多数者の横暴であり、権力の専横であり、強者による弱者の差別であり、そして不公平さである。本書の基調音は少数者へのやさしさであり、不正ならざることに対する怒りであり、公平性の取戻しへの希望である。そしてそのためにはどうすればいいのかを、本書は提言する。
権力というものが必然的に抱えることになる不正に対して、人はどのように対処するべきであろうか。各自、自分の持ち場で不正を分析し、不正をあぶりだし、自分のできる範囲で、自分なりにそうした不正と闘うこと、それがおそらくは唯一可能な方法論であるだろう。それなら相手がどのようなものであっても、多くの人々にとって闘うことが可能になるだろう。本書はそれを実行に移したものである。
本書では、一四人の中世史家が現代の不正の問題に挑んでいる。
歴史家というのは世間一般の評価では、「現代という時代にうとい」ということになっているようである。とりわけ中世史などを専門にしている人は、現代に関してはまったく無関心であると見られている。確かに中世史家は現代を語ってこなかった。現代史家を除いて、歴史家は自分が対象としている時代については雄弁であっても、自分が生きている現代についてはあまり語ってはこなかった。それが専門家としての一種の矜持だと考えてのことであった。しかしそれではいけないと考えた中世史家が立ち上がった。本書は主としてアメリカの大学で中世史を教えている一四名の歴史家が、それぞれの持ち場から、現代における不正に挑戦したものである。中世史家が現代の不正に挑戦するなどという表現を聞いて、あの牧歌的な中世の再評価を目指した本であると考えた方は、大間違いである。本書は現代に比べて中世世界がこんなにも素晴らしかったということを主張したい能天気な論文集ではない。そんなことがまかり通るところはゲームの世界だけだろう。しかし中世世界が暗黒の世界であり、それは克服の対象でしかないという見方も一面的なのだ。進歩、あるいは発展というスローガンのもとに遅れたものとして捨て去られてしまったもののなかに、我々の時代にも適用可能なものがあったかもしれないことは認めてもいいだろう。十把ひとからげとばかり捨てられてしまったもののなかから、現代に通用することを少しずつ拾い出しながら、その作業を通して現代の不正を眺めることが、本書全体を通しての通奏低音である。
(…後略…)