目次
日本語版によせて
謝辞
略語表
序章
用語と定義
(再)新興ドナーと開発パートナーの重要性
各章の概要
第1章 背景――新興パワーと主流対外援助
グローバルな富と権力の変容
対外援助
結論
第2章 非DAC援助の開発協力の歴史と経験
冷戦の地政学、友愛、競争――社会主義開発協力の政治
非同盟運動
国連――南南協力の公式化
OPECと湾岸ドナーの設立
「新」EU加盟国
新興ドナー特有の推進力(ドライバー)
被援助国としての経験
結論
第3章 今日の(再)新興開発パートナー――機関・被援助国・資金フロー
定義とデータ
非DACドナーは対外援助量にどの程度、
貢献しているのだろうか?
非DAC開発援助の制度的組織(institutional organization)
透明性と説明責任
結論
第4章 モダリティと実践――(再)新興開発パートナーシップの実態
非DAC対外援助/開発協力の被援助国
非DACドナーの対外援助と開発援助の手法(モダリティ)
境界とコンディショナリティ――二つの鍵となる議論
結論
第5章 言説・想像・パフォーマンス――非DAC開発援助の構築
はじめに
西側対外援助における象徴・論証の理論化
互酬性の徳――南南開発協力
西側から東と南を見る――ポーランド
覇権国家への対抗――ベネズエラ
結論
第6章 組織的提案・課題・変容――変容する開発ガヴァナンス
はじめに
グローバル開発ガヴァナンスの性質と目的
よりよい調整・協力をめぐる議論
国際援助レジームの主要組織における対話と変容
地域組織とその他の多国間組織
三角・三国間開発協力
被援助国におけるガヴァナンス・レジーム
結論
第7章 効果的援助から開発効果と新グローバル・パートナーシップへ
効果的援助から開発効果へ?
協力の将来とは?
註
訳者あとがき
文献
索引
著者略歴・訳者略歴
前書きなど
訳者あとがき
著者のエマ・モーズリー博士はケンブリッジ大学地理学科の上級講師であり、人文地理学を基点に国際関係、特に国際開発援助の研究を中心に行っている。原著 From Recipients to Donors: Emerging Powers and the Changing Development Landscape(ZED Books, 2012)は現在、国際開発援助が直面している多様な問題・現象を新興ドナーという視点をいれてアプローチ、分析したものである。21世紀に入ってから、中国、インド、ブラジル、南アフリカなどの新興大国を中心に開発途上国(タイ、ベネズエラ、インドネシアなど)が他の(後発)開発途上国への援助に積極的に乗り出してきた。モーズリー博士は中心的な南側新興アクターは今世紀から急に出現したものではなく、歴史的に見て、1950/60年代の植民地独立後から行われていることを勘案し、南側ドナーを(再)新興開発パートナー(または(再)新興アクター、(再)新興ドナー、非DACドナー等)と呼んでいる。
(…中略…)
今世紀に入ってからの中国、インド、南アフリカ、ブラジルなどといった(再)新興開発パートナーは国連での南南協力についての合意、あるいはDACなどの伝統的国際援助コミュニティの枠内というプラットフォームではなく、自国と被援助国側と新たに協定を結び、それに基づいて南南協力を実施するようになった。これらには、インド・アフリカ・サミットフォーラム、中国─アフリカ協力フォーラム、アフリカ・ルネッサンスなどがある。これら機構を通した援助は伝統的国際援助コミュニティと理念、重点分野、戦略等で大きく異なっている。1990年代から伝統的国際援助コミュニティが社会セクターの中心となり、持続可能な環境、グッド・ガヴァナンス、貧困削減、民主化といった「開発条件」(コンディショナリティ)を課したのに対して、(再)新興開発パートナーはコンディショナリティは課さず、生産性と直結する大規模な経済インフラ中心の援助(経済成長)を行っている。(伝統的)国際援助コミュニティでの評価を見ると、ミレニアム開発目標と直接には関わっていないこと、またこれら南南協力はその対象国・内容・規模が不透明(less transparent)であること、資源等の見返りを要求していること、国連やOECD・DAC等の伝統的ドナーと援助協調を行わないなど批判が強く、伝統的国際援助コミュニティでは「新興ドナー異質論」あるいは原著にあるように「不良ドナー」との主張がされるようになった。しかし、モーズリー博士はミレニアム開発目標設定などの進捗はあるものの、伝統的ドナーもまた善意・高潔であるといったメタファーのもとで地政的商業的援助を行っているに過ぎないと分析する。
原書では、対外援助を理論的に整理し、その上で援助/協力が本質的に政治であることを明確に指摘し、(再)新興開発パートナーによる援助を精査した上で、援助資金にOOFなどの資金も広範に含むこと、そして経済成長の貧困削減への効果を再考すべきであろうと述べている。そして、持続可能な環境や人間の安全保障といった人権保護をどのように新たな開発理念に組み込むかが今後の問題になるとしている。モーズリー博士は伝統ドナーへの批判的評価をしながらも、新興ドナーの側にも与することはなく、相互対話・学習という目線で新たな国際援助コミュニティの創造という視点から今後の国際開発援助について考察している。今後、南南協力、すなわち(再)新興開発パートナーの対外援助の増大が確実になるなか、その多様性・複雑性から、国際援助コミュニティは予測が難しいダイナミックな局面に入ると考えられる。原著はその変貌を考える上で、貴重な書である。
(…後略…)