目次
はじめに
Ⅰ 概説
第1章 外国人のスイス像――ユートピアと現実
第2章 スイス人気質――スイス人同士では?
第3章 スイスの味――チーズとチョコレートだけではない
第4章 民間習俗行事――多様で多彩、複層的な世界
第5章 スイスのスポーツ――有名アスリートたちから見るスイスのスポーツ
【コラム1】ミグロ
【コラム2】普通の人々の勇気
【コラム3】現代の人々の暮らし――日本に住むスイス人女性の視点から
第6章 多言語の国――四つの国語と四つの公用語
Ⅱ 自然
第7章 山・川・湖――水と雪と岩の織りなす絶景
第8章 エンガディンの自然と芸術家――清冽なる思索と詩作の根源
第9章 アスコーナ――「真理の山」に集った20世紀の知性
第10章 アルプス――スイス最大の資源
第11章 環境保護とエネルギー政策――地方主権に根差したエコシステムの構築
Ⅲ 歴史
第12章 テル伝説と建国の歴史――「奴隷に甘んじるよりも死を」(シラー)
第13章 傭兵――貧しい山村から異国への出稼ぎ
第14章 過去の克服――ナチ・ドイツへの協調と「精神的国土防衛」
第15章 ザンクト・ゴットハルト峠――スイス建国のシンボル
第16章 宗教、特に宗教改革・宗派対立――緊張と妥協
【コラム4】ヴァチカンのスイス衛兵
Ⅳ 都市
第17章 チューリヒ――古くて新しいスイス最大の都市
第18章 ベルン――ユネスコ世界遺産の連邦都市
第19章 ジュネーヴ――国際都市の受難の歴史
第20章 バーゼル――温故知新に努めるライン川沿いの古都
第21章 ゾーロトゥルン――活気溢れる中世の町
【コラム5】フリブール/フライブルク
Ⅴ 文学
第22章 ゲーテとスイス――理想郷アルカディアを求めて
第23章 『村のロメオとユリア』――シェイクスピアのスイス的変奏
第24章 カール・シュピッテラー――〈空想〉と〈孤独〉にこだわるノーベル賞作家
第25章 ヨハンナ・シュピーリ――『ハイジ』の作家の生涯
【コラム6】推理小説
【コラム7】ローベルト・ヴァルザー
Ⅵ 美術・彫刻・建築
第26章 パウル・クレー――独創性溢れる多彩な絵画世界
第27章 ハインリヒ・フュースリ、フェルディナント・ホードラー、ジョヴァンニ・セガンティーニ――知られざる三人のスイス画家
【コラム8】チューリヒ・ダダ――戦争を逃れて集まった前衛芸術家のエネルギー
第28章 スイスの絵本作家――『ウルスリのすず』、『こねこのぴっち』、そして『にじいろのさかな』
第29章 アルノルト・ベックリーンとアードルフ・ヴェルフリ――眠りの園は魔を呼び寄せる
第30章 ル・コルビュジエとアルベルト・ジャコメッティ――世界が認めた巨匠二人
Ⅶ 演劇・映画・音楽・舞踊
第31章 マックス・フリッシュとフリードリヒ・デュレンマット――戦後スイス文学を代表する二人の作家
第32章 カバレット――現代スイスの秀でた滑稽〈文学寄席〉
第33章 スイスの映画――スイス映画の歩みと現在
第34章 ダニエル・シュミート――ドイツ語圏スイスを代表する奇異な映画監督
第35章 ジャン=リュク・ゴダール――フランス語圏スイスの傑出した社会派映画監督
【コラム9】《僕のピアノコンチェルト》
【コラム10】《マルタのやさしい刺繍》
第36章 19世紀スイスとヨーロッパ音楽の流れ――フランツ・リスト、リヒャルト・ワーグナー、ヨハネス・ブラームス
第37章 20世紀スイスのクラシック音楽事情――政治体制に翻弄される音楽家たち
第38章 オトマール・シェックとドイツ・ナチズム――芸術上の野心と祖国愛の狭間で
【コラム11】ハインツ・ホリガー――臨界現象への誘い
第39章 バレエ、ダンス、ローザンヌ国際バレエコンクール――舞踊の流入・定着・発展
Ⅷ 思想・教育
第40章 カール・グスタフ・ユングとカール・ケレーニイ――過去への遡及
第41章 ヨハン・カスパー・ラーヴァーター――〈天才〉を尊重する正義感溢れる詩人・神学者
第42章 ジャン=ジャック・ルソー――彷徨する思索者の魂
第43章 ヨハン・ヤーコプ・バッハオーフェンとヤーコプ・ブルクハルト――19世紀バーゼルの二人の碩学
第44章 ヨハン・ハインリヒ・ペスタロッチ――人間に内在する〈獣〉を意識する汎愛主義者
第45章 リカルダ・フーフとスイスの大学――女性の教育
第46章 現在の教育制度――ローカル面とグローバル化
Ⅸ 政治
第47章 永世中立と亡命――小さな多言語国家の生き残り策
第48章 魔法の公式――スイスの議会・内閣・政党
第49章 直接民主制――スイス的民主主義の形
第50章 女性参政権――男女平等社会への長い道のり
第51章 国連加盟への歩みとスイスに本拠地がある国際機関――永世中立国の現代的使命とは?
第52章 軍事国家スイス――戦時の国土防衛から平和貢献へ
【コラム12】安楽死をめぐる議論
Ⅹ 産業
第53章 スイスの観光・ホテル――小さな観光大国スイスのホスピタリティ
第54章 スイスの銀行――世界の金はスイスを目指す?「秘密」のプライベート・バンキング
第55章 スイスの時計・医薬品業界――世界に羽ばたく歯車/スイスの輸出を支える産業
第56章 交通(特に鉄道)――鉄道大国への道と、その課題
XI 外国(特に隣国)との関係
第57章 対ドイツ――大国への憧れと反発
第58章 対オーストリアおよび対リヒテンシュタイン――隣接する「不倶戴天」の強国と、一体不離のミニ国家
第59章 対EU――小国スイスのしたたかな外交
第60章 移民と新移民――スイス人のドイツ人嫌い?
【コラム13】日本との関係
参考文献
前書きなど
はじめに
本書はスイスに関心を持つ読者を対象に、60章、13のコラムという計73のトピックにわたって、スイスのさまざまな姿、特にその特徴や魅力を紹介しようとするものである。内容は、「概説」「自然」「歴史」「都市」「文学」「美術・彫刻・建築」「演劇・映画・音楽・舞踊」「思想・教育」「政治」「産業」「外国(特に隣国)との関係」という大きく11の部門に分かれている。
スイスは地理的にヨーロッパの中心部に位置し、小国ながら四つの言語圏を抱え、スイス人は建国以来、幾多の試練を経て、世界有数の豊かな社会を築いてきた。スイスというと、日本では美しい自然、永世中立、直接民主制等でよく知られている。しかしその他にも、遠い異国の私たち日本人にとって興味深い側面が多く存在する。
従来スイスの文化は国内の三つの言語圏に対応して、それぞれドイツ文化、フランス文化、イタリア文化の枠内で論じられることが多かったと言える。しかし本書ではそれぞれのトピックについて、できるだけ特殊スイス的な背景にまで踏み込んだ記述を行うことを心がけた。これにより、読者が今まで知らなかったスイスの特徴や魅力に気づくことがあれば、本書の目的は達せられたと言えよう。
日本ではすでにスイス案内の類書が何冊か刊行(巻末の参考文献を参照)されているが、本書をあえて世に問う理由は、文学や思想の研究を主専攻とする総勢十数名の執筆者がそれぞれ本来の関心を踏まえ、スイス社会の現状だけでなく、とりわけ歴史・文学・思想・芸術といった文化面について多くの紹介・解説を行っている点にある。
本書の執筆者は、「スイス文学研究会」(www.swisslit.org)のメンバーないしはその関係者である。本研究会は1962年の創立以来これまで活発な研究会活動を行いながら、「スイス文学叢書」全6冊をはじめとして数々の翻訳作品の刊行を行ってきた。最近は、スイス文学を知るためにはスイスの現代史も深く知る必要があるという思いから、バルバラ・ボンハーゲ他『スイスの歴史 スイス高校現代史教科書〈中立国とナチズム〉』(スイス文学研究会訳、明石書店、2010年)の翻訳を刊行した。今回は、さらに関心が広まり、スイスという地域を多様な視点から全般的に取り上げた『スイスを知るための60章』の執筆・刊行に至った次第である。
(…後略…)