目次
はじめに
第1章 多文化共生とは何か――コミュニティ心理学的視座から多様性を考える[加賀美常美代]
はじめに――問題の背景
1.地域住民とのコンフリクト
2.コンフリクトをどのように考えるか――葛藤解決方略の視点から
3.外国につながる子どもと異文化受容態度
4.多文化共生とコミュニティ心理学
5.コミュニティ心理学の主要な理念――問題解決に向けて
6.多様性を考える――今後の課題に向けて
第2章 日本の外国人の抱える問題[田渕五十生]
1.多民族化する日本社会
2.定住中国人の急増と多様なバック・グラウンド
3.定住する日系南米人をめぐる状況
4.国際結婚の配偶者とダブルの子どもたち
5.多文化教育の実践可能性
6.多文化社会の実現をめざして
第3章 中国帰国者の抱える問題――1世、2世、3世に求められる支援とは[島崎美穂]
1.中国帰国者とは
2.中国残留孤児問題の解決に向けた取り組み
3.帰国者の受入れ体制――3つのセンターとその支援体制
4.中国帰国者1世、2世、3世の抱える問題と求められる支援
5.今後の課題とまとめ
第4章 地域社会と多文化共生――新宿の小学校事例を中心として[善元幸夫]
1.自分探しの子どもたち
2.問題の所在――多文化社会の中で生きる新宿・新大久保
3.子どもと新大久保――子どもたちはこれからの未来をどう生きていけばよいのであろうか!
4.日本語学級の取り組み・実践――日本語国際学級へ
5.2人の子ども――「韓国の子どもRとタイの子どもSの出会いの物語」
6.日本語国際学級と通常学級で授業を創る
7.結び――実践現場を踏まえた現状、当事者意識の理解と問題解決
第5章 外国につながる子どもたちの困難・サポート・対処行動からみる現状[岡村佳代]
はじめに
1.外国につながる子どもたちの現状
2.外国につながる子どもへのサポート
3.外国につながる子どもの困難対処
4.地域社会の持つ可能性
まとめと今後の課題
第6章 地域日本語教育とコーディネーターの重要性――共生社会の構築へ向けて[野山広]
はじめに
1.「地域日本語教育」という概念誕生までの経緯
2.地域日本語教育の展開――文化庁の事業と調査結果からみえてくること
3.地域の状況変化に応じた先駆的自治体の対応と社会状況の変化
4.リーマンショック(2008年)による変化――調査の結果からみえてくること
5.今後の課題
おわりに――共生社会の構築に向けて
第7章 国際結婚家族で母語を身につけるバイリンガル――社会言語学と言語発達の視点から捉える[藤田ラウンド幸世]
はじめに
1.家族の「言語」、社会の「言語」
2.国際結婚家族の子どもの言語発達
3.日本語・英語の同時バイリンガル、Tの言語発達事例
4.国際結婚家族の母語と二言語のダイナミズム
第8章 国際結婚の解消――身近な法律問題[吉野晶]
はじめに
1.二人の間の子ども――国籍はどこに
2.夫婦の離婚――さまざまな法律問題が凝縮されている問題
3.外国籍の妻にとって離婚は日本在留に影響がないのか
おわりに
第9章 難民認定申請者(Asylum seekers)の生活とこころ[野田文隆]
はじめに
1.日本の難民受入れの歴史
2.難民認定申請者の現実
3.難民認定申請者のこころの問題
4.難民認定申請者への支援とは
第10章 多文化共生と障害の文化モデル――一人ひとりへの合理的配慮[長瀬修]
はじめに――「障害者」とはだれか
1.障害学(ディスアビリティ・スタディーズ)と「社会モデル」
2.障害差別と「合理的配慮」
3.合理的配慮の起源――宗教から障害へ
4.障害の「文化モデル」
5.配慮の平等
おわりに
第11章 企業と研修生――共生に向けた日本語支援の視点から[守谷智美]
1.研修生・技能実習生とはどのような人たちか?
2.研修生・技能実習生を取り巻く問題
3.研修生・技能実習生の日本語習得とその支援をめぐる問題
4.研修生・技能実習生との共生に向けて
第12章 大学コミュニティにおける多文化共生[加賀美常美代・小松翠]
はじめに――問題の背景:日本における留学生政策の変遷と現状
1.多文化共生に向けた教育整備の必要性と文化的多様性の尊重
2.留学生の抱える悩みはどのようなものか
3.大学における異文化接触の現状と問題
4.異文化間交流を妨げる問題と肯定的な異文化間交流のための枠組み
5.共生をめざすさまざまな取り組み――教育的介入
6.大学キャンパスにおける共生の実現に向けて
第13章 海外の日本人駐在家族と移動する子どもたち[岡村郁子]
はじめに
1.日本人の海外駐在派遣の変遷
2.日本人海外駐在員とその家族が抱える問題
3.帰国した家族の抱える問題
4.海外赴任者とその家族のために何ができるのか
5.これからの海外赴任に向けて
第14章 韓国における多文化化する家族とその子どもたち[朴エスター]
はじめに
1.移住労働者
2.結婚移民者
3.移住労働者家庭と国際結婚家庭の子どもたち
4.多文化化する韓国社会への対応と課題
まとめと今後の課題
おわりに
編著者・執筆者紹介
前書きなど
はじめに
近年、日本に住む外国人の数は上昇の一途をたどってきており、ここ数十年で、地域社会、大学・学校コミュニティを構成する人々が急速に変化し多文化化してきている。グローバル化が進行する中で、多様性のある人々との共生は現代的・社会的課題である。多様な人々、子どもたちを地域社会や大学・学校コミュニティに受け入れるということは、マジョリティの人々の価値観とは異なる価値観を持つ人々と接触することである。そこではさまざまな葛藤や障壁が生じることが考えられるが、ホスト社会の人々は、年齢、性別、民族、集団、言語、文化等の「多様性」を持つ人々(マイノリティ)を理解し、双方が居心地良くともに生きていくことのできる地域社会、大学・学校コミュニティを保障することが必要となる。
本書は、多文化社会の中で生じる障壁を分析し、マイノリティの人々、多様な背景を持つ人々が相互理解しともに生きていくために、どのように関わったらよいか当事者の視点で考えていく。また、グローバル化社会の中で自文化中心主義から脱却し、文化的差異だけでなく広義の意味での社会的差異である「多様性」とは何かを考え、それを理解し容認していくことはどのようなことかを中心課題として考えていく。
本書は全14章から構成されている。まず、第1章は、日本人ホストと外国人の意識とのコンフリクトの現状を踏まえたうえで、グローバル社会における多様性を容認することはどのようなことか、多文化共生とはどのような社会かを考え、コミュニティ心理学と多文化共生を関連させながら解決の可能性を論じている。第2章は、日本の定住外国人の抱える諸問題について歴史的経緯から現在に至るまでをオールドカマー、ニューカマーを交差させながら論じている。第3章は、中国帰国者の歴史的経緯と抱える問題を整理し、1世、2世、3世の問題の質的相違とその多様な支援の可能性を論じている。第4章は、日本で最も外国人の多い都市である新宿区の小学校での事例を取り上げ、外国につながる子どもたちの抱える問題と教育支援を取り上げている。第5章は、学校コミュニティにおいて中学校、高等学校の外国人生徒の抱える困難と対処行動について整理し、その現状を取り上げている。第6章は、地域日本語教育について概観し、地域社会におけるコーディネーターの重要性について論じている。第7章は、文化的背景の異なる夫婦、国際結婚家族において二言語・二文化を身につけているか、バイリンガルの子どもたちがどのように言語発達をしていくか検討している。第8章は、身近に起こりうる国際結婚とその諸問題としての離婚について、事例を踏まえて法律の観点から分析している。第9章は、難民認定申請者の現状と生活実態、メンタルヘルスの問題に関して精神科医の視点から論じている。第10章は.障害者の現状と文化的多様性として差異を考える際、障害者と他のマイノリティとはどのような違いがあるのか、障害学や合理的配慮の観点から考えている。第11章は、外国人研修生と技能実習生に焦点を当て、彼らにとって日本語習得とはどのようなものか検討している。第12章は、大学コミュニティにおける留学生の量的増加と日本人学生との異文化間交流は、大学のグローバル化、人材育成、多文化共生にどのように影響していくのかを考えている。第13章は、海外の日本人駐在家族と移動する子どもについて、家族の現状と直面する困難を取り上げ、その解決方法について論じている。第14章は、急速に多文化化している韓国の多文化家族と移動する子どもたちについて取り上げ、その現状と彼らが直面している困難とその対応について言及している。
本書は、2006年から2012年まで筆者の担当するお茶の水女子大学文教育学部の「多文化共生論」に、ゲストスピーカーとして講義をしていただいた先生方におもに執筆していただいた。執筆者の先生方は、多文化教育、異文化間教育、日本語教育、多文化間精神医学、法律、障害学、異文化間心理学など、現在、多様な外国人支援、マイノリティ支援の最前線で活躍し、関わっていらっしゃる高度な専門性を持つ方々である。こうした講義を土台に書きおろしてくださった先生方に感謝の意を表するとともに、本書は次世代を担う若者たちに向けて先生方からの熱い思いをメッセージとして発信できたことを幸いに思う。さらに、多文化共生社会の現代的課題の解決に向けて広く読者の方々とともに、今後、取り組んでいくことができれば誠に喜ばしいことである。
編著者 加賀美常美代