目次
はじめに
I 世界遺産・伝説紀行――ドイツへの誘い
第1章 ケルン大聖堂とドイツ精神――石と歴史の積み重ね
第2章 ドイツ文化の源流ヴァルトブルク城――中世の「歌合戦」とルターゆかりの地
第3章 ふたつの「サンスーシ宮殿」――フリードリヒ大王の夢
第4章 ライン河伝説異聞――もうひとつのローレライ
第5章 「笛吹き男」伝説の舞台、ハーメルンを歩く――中世人の世界へ
第6章 魔法使いファウスト紀行――「アウエルバッハ酒場」から終焉地の「獅子亭」まで
第7章 ティル・オイレンシュピーゲル伝説跡を訪ねて――民衆本に描かれた稀代のトリックスター
【コラム1】ドイツ世界遺産の意外
II 祭りとメルヘンと音楽と――伝統のコスモロジー
第8章 キリスト教祭と土着の祭り――サンタクロースのルーツ
第9章 白雪姫が見た森を訪ねて――メルヘンの原風景
第10章 ヴァイマル黄金時代の人脈相関図――「アポロン」としてのゲーテ
第11章 バイロイト祝祭劇場――「緑の丘」の壮大な実験工房
第12章 「第9交響曲」と日本人――シラーに寄せるベートーヴェンの理想郷
第13章 ドイツリートの魅力――詩と音楽の至福の融合
【コラム2】クリスマス・マーケットとクリスマスの風景
III 市民のライフスタイル――質実剛健
第14章 ドイツパンと家庭料理――忘れられない味
第15章 ドイツの肉料理――ところ変われば品変わる
第16章 自然食品と食の安全――食品スキャンダルからビオ志向へ
第17章 消費税の二重構造――弱者への配慮
第18章 休暇・同好会・ボランティア――人生を楽しむために働く
【コラム3】フリーマーケットとセカンドハンド・ショップ
IV 魅惑のドイツ製品――マイスター・ブランド
第19章 自動車づくりのポリシー――メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、ポルシェ
第20章 マイセン磁器のトリビア――人気の秘密
第21章 「ドール系」マニアの熱狂――ドイツの人形の眼
第22章 黒い森のカッコウ時計――ノスタルジアを呼ぶ職人技
第23章 ドイツビール物語――銘柄をめぐる歴史エピソード
V 女性と社会問題――ジェンダーとセーフティネット
第24章 女性の社会進出と家族の変貌――ジェンダーとパッチワーク・ファミリー
第25章 結婚・離婚・非婚――多様化する男女のあり方
第26章 ドイツのセクシュアル・マイノリティ――権利獲得の軌跡
第27章 少子化への取り組み――特効薬はあるのか
第28章 セーフティネットの転換――ハルツ改革のその後
VI ドイツの教育――伝統と革新
第29章 変わりゆくドイツの初等・中等教育――ゆとり教育の終わり
第30章 シュタイナー学校の実情――「エポック授業」「フォルメン」「オイリュトミー」とは
第31章 技術立国ドイツの職業教育――若者を育てるコツ
第32章 ドイツの大学とボローニャ・プロセス――岐路に立つ大学教育
第33章 現代の大学生活――改革期にある学生天国
VII ドイツ語とドイツ人気質――論理性・生真面目・冗談
第34章 ドイツ語と牧畜文化――名詞の性の悩み
第35章 ドイツ的メンタリティの二極性――デモーニッシュとコスモポリタニズム
第36章 ドイツ人と分類癖――体系化と博物学
第37章 秩序と義務――格言に見る国民性
第38章 ドイツ人のメランコリー――薄明(Dmmerung)と沈思黙考
第39章 ドイツの政治ジョーク――ナチスと旧東ドイツ時代の「笑い」
【コラム4】ドイツ語における「ナウい」英語語法
VIII 政治とEUの行方――存在感を示すドイツ
第40章 メルケル首相と現代政治――「コールのお嬢さん」
第41章 ドイツ「海賊党」の台頭――泡沫政党か大化け政党か
第42章 EUの父クーデンホーフ=カレルギー――日系人が描いたパン・ヨーロッパ構想
第43章 EUの光と影――グローバル化とローカル化の狭間で
第44章 「EUブルーカード」とは――新しい「高資格外国人労働者」の受け入れ
第45章 EUとギリシャ危機問答――迷宮の出口を求めて
IX 循環型社会を目指して――脱原発から再生可能エネルギーへ
第46章 ありふれた日常のゴミ問題――分別とリサイクルの現状
第47章 エコ住宅とエコタウン計画――住民の意識改革
第48章 脱原発へ――ドイツ的危機管理と倫理観
第49章 統計で見る再生可能エネルギー――脱原発の代替は可能か
第50章 「緑の党」の歩み――ワンイシュー政党の変貌
【コラム5】自転車をあなどることなかれ
X 移民と宗教――多文化共生社会へ
第51章 移民社会の現状――トルコ系から東欧系へ
第52章 現代のユダヤ人問題――「つまずきの石」シュトルパーシュタイン
第53章 現代ドイツにおけるロマ――人権保護と社会統合
第54章 国籍取得テスト――多文化共生と主導文化の狭間で
第55章 宗教の世俗化とグローバル化――変わりゆくキリスト教社会
【コラム6】ヒトラーを描いた映画
XI ドイツのなかの日本――日本の発信力
第56章 ドイツの俳句事情――日本文化の受容
第57章 ドイツにおける日本昔話――読み聞かせの体験から
第58章 ドイツで日本語を学ぶ子どもたち――未来の「サムライ」と「なでしこ」
第59章 日本のアニメとマンガ――ドイツにおけるブームの特殊性
第60章 日本祭、日本映画祭のイヴェント――ドイツで日本を楽しむ
第61章 盆栽 (Bonsai)ブーム――ジャポニスムを越えて
第62章 日本食とスシ――日常に浸透する健康食
【コラム7】ドイツで活躍する日本人たち
あとがき
参考文献
執筆者紹介
前書きなど
はじめに
(…前略…)
このように日本でも、単なる従来型の教養的な知識の獲得だけでなく、自分自身で個性的に目的意識をもち、現代ドイツに視線を注ぐ方も増えてきた。たしかに現在、ドイツの情報については、旅行案内書、雑誌、単行本、衛星放送、インターネットなどで簡単に入手することができる。にもかかわらず、本書を世に問う理由とは何なのかを最初に述べておかねばならない。
本書では、多様な現代のニーズに応えるために、断片化したかたちで氾濫するドイツの情報を整理し、その全体像を有機的に把握することに努めた。内容は目次にあるように11部であるが、それを要約すると、1、独自の切り口からの名所旧跡案内、2、民俗、習慣、国民性の分析、3、音楽、文学、文化体験、4、日常的な市民生活の実情、5、社会、教育、ジェンダー問題、6、外国人や宗教の動向、7、循環型社会への取り組み、8、直面する政治、経済問題などである。
このように多面的な視点から、単なるドイツに関する情報だけではなく、テーマの本質的な内奥にも踏み込んで分析してみた。本書を通読すれば、鳥瞰図的に最新のドイツの実情を把握することが可能であり、さらにドイツがどこへ向かっていこうとしているのかも理解していただけよう。
執筆者は全員、ドイツに滞在・留学し、現在でもドイツ語、ドイツ文化論、比較文化論などの教職をはじめ、ドイツとのかかわり合いをもつ仕事に従事している。各人の得意とする分野からそれぞれ執筆をお願いし、編者が語句だけでなく、内容においても全体の統一を図った。各章は2500字程度の比較的短いものであるが、ここに執筆者の経験にもとづく、独自の視点から論が展開されているものと思う。なお適宜、テーマによってはコラム欄を設け、理解を深める試みをおこなった。
まず本書を執筆するにあたって、留意した点をふたつ挙げておきたい。現代ドイツ事情については、できるだけ最新のデータを提示し、具体的に説明するように努めた。数字というのはありのままの事実を把握する一助になるからである。たしかにこれは時代と共に古くなる宿命をもっているが、本書が「現代ドイツ」と銘打っている以上、それを駆使するのが執筆者の使命であると考えている。
2点目はテーマにもよるが、話題に関してできるだけエッセイ的手法も取り入れたことである。というのも抽象的な記述は、なかなか記憶に残らないけれども、それが体験やエピソードと結びつけられると、人間の脳は鮮明に記憶に留め、知識を定着させるものであるからだ。
昔、教室で聞いた授業内容でも振り返ってみると、残っているのはエピソードと共に語られた部分であったという経験をおもちの方も多かろう。司馬遼太郎や洒脱なエッセイストたちはその名手といえるが、本書はとてもその域に達するものではないとはいえ、この点についてもいささか配慮してみた。それが成功しているかどうかは、読者の皆さまのご判断に委ねたい。
(…後略…)