目次
序章 都市空間に潜む排除と反抗の力(町村敬志)
第1章 建造環境で他者化される住宅危機――都市の自然をめぐる労働と管理と夢(林真人)
1 資本主義下の住宅危機、建造環境の自然、他者化
2 ホームレスの人びとの生活と空間管理――A市の事例研究Ⅰ
3 野宿者の仕事と空間管理――A市の事例研究Ⅱ
4 都市空間の変遷とホームレス問題――時期区分
5 「第二の自然」に見る夢
第2章 「不法占拠地域」における在日朝鮮人の記憶と集合性――地域と住民という結節点(山本崇記)
1 居心地の悪さ
2 東九条と40番地――「不法占拠地域」の形成小史
3 「0番地」なるもの
4 行政的介入と住民運動の力学
5 社会学から記憶を掬い出すために
第3章 曖昧化する労働と排除――生活世界としてのローカルな空間(山根清宏)
はじめに
1 隠蔽された「社会の内部」と曖昧領域
2 雇用の外部化――事業主でもなく労働者でもなく
3 ローカルな空間――労働空間への埋め込みと排除への適応
第4章 都市型サービス産業の労働現場――民間施設に従事する若年専門技術者の事例(田中研之輔)
1 都市型サービス産業と若年不安定就労
2 サービス産業現場に関する労働社会学
3 対象施設の概要と調査手法・期間
4 労働の実態
5 流動市場における若年専門技術者の非流動性
第5章 分断される郊外――場の解体と強制されたフレキシビリティ(森千香子)
はじめに
1 先進国におけると郊外と貧困マイノリティ層の滞留
2 日本の郊外変容――均質性の虚構と外国人という視座の不在
3 団地における負のスパイラル
4 強制されたフレキシビリティ――移動を余儀なくされる人々
5 未来の実験室としての郊外
第6章 ユニオン・アクティヴィズムの居場所――西新宿・雑居ビルにおける労働/生存運動拠点空間の形成と存立(岩舘豊)
1 市民社会組織の事務所空間へ/から――社会運動と空間をめぐる一視角
2 拠点空間の形成過程
3 拠点空間の存立――事務所共有の論理と動態
4 ユニオン・アクティヴィズムの居場所――まとめにかえて
前書きなど
序章 都市空間に潜む排除と反抗の力(町村敬志)
○分水嶺としての1990年代
1990年代、振り返ってみると、日本社会は一つの分水嶺を越えつつあった。バブル経済の狂乱が日本列島を覆い尽くした1980年代が終わりを告げる頃から、さまざまな変化が都市・地域のあちこちで姿を現し始める。日本の好況と人手不足ゆえに急増をした外国人労働者や外国人住民は、日本の景気停滞後も、コスト削減のための「フレキシブルな」労働力として重用され、大都市インナーエリアや大都市近郊の内陸工業都市に定住をしていく。高度経済成長を支えた地方出身の労働者のうち「家族」や「会社」の支えを失い孤立化していく高齢者層のなかから、野宿生活を余儀なくされる人びとが急増し、公園や駅、河川周辺などに段ボールハウスが軒を並べる風景が出現をする。
最初のうちこれらの風景は、多くの人びとにとって、限られた層の例外的な現象と見えていた。しかしやがて、そうした問題や境遇は、従来は「ふつう」と思われていた多数の人びとを巻き込む広範な現象へと拡大していく。2000年代に入る頃には、派遣労働など非正規の「フレキシブルな」労働力のなかに編入される日本人労働者の数が急増を始める。また、経済成長期に人びとの安定的移動をまがりなりにも実現し居場所確保に貢献してきた「学校」・「会社」・「家族」の連結装置が揺らいできた結果、それらの隙間から放り出されていく人びとが自らの居場所を求めて彷徨う姿が、都市のさまざまな場所で目撃されるようになる。
差別と排除の〔いま〕を問う本企画において、第2巻は都市・空間・労働に焦点があてられる。以下に続く6つの章は、ホームレス、在日朝鮮人、新来の外国人住民など差別や排除の力に直接さらされてきた人びとによる空間領有の試み、現代都市において不安定就労を強いられているサービス労働者の生活世界、さらにはそうした労働者が排除に対抗するために繰り出す拠点形成の実践といった、多様なテーマを取り扱う。これらは、一見するとバラバラなものと見えるかもしれない。しかしそれらは、今述べたような1990年代を一つの起点とする日本社会の変動と、多かれ少なかれ関わりをもっている。終わっていく構造と新しく姿を現しつつある構造が乱雑に折り重なりあう状況の下で、そこに巻き込まれ周縁化を余儀なくされる人びとは、どのような差別や排除を体験しているのか。また同時に、人びとはそれらをいかに巧みにかわし、それらに抗い、どのような居場所を再構築しようとしているのか。
(…後略…)