目次
日本の読者の皆さまへ(サビーネ・フリューシュトゥック、アン・ウォルソール)
序章 男性と男性性を問い直す(サビーネ・フリューシュトゥック、アン・ウォルソール)
第Ⅰ部 侍の遺産
第1章 鉄砲のジェンダー――日本近世における技術と身分(アン・ウォルソール)
第2章 名と誉れ――一七世紀商人の覚書(ルーク・ロバーツ)
第3章 日本国家における武士道とジェンダー化された身体――サムライ志願者への檄文(ミッシェル・メイソン)
第4章 ヒロイズムの後に――真の兵士は死ななければならないのか?(サビーネ・フリューシュトゥック)
第Ⅱ部 周縁の男たち
第5章 衰退していく労働組合員――戦後労働運動における階級とジェンダー(クリストファー・ガータイス)
第6章 サラリーマンはどこへ行った?――『電車男』に見る男性性・マゾヒズム・テクノモビリティー(スーザン・ネイピア)
第7章 日本の都市路上に散った男らしさ――ホームレス男性にとっての自立の意味(トム・ギル)
第Ⅲ部 身体と境界
第8章 壁を登る――日本のスポーツサブカルチャーにおける覇権的男性性の解体(ウォルフラム・マンツェンライター)
第9章 男として不適格?――二〇世紀初頭の日本における徴兵制・男性性・半陰陽(テレサ・A・アルゴソ)
第10章 恋愛革命――アニメ、マスキュリニティ、未来(イアン・コンドリー)
第11章 ロボットのジェンダー――日本におけるポストヒューマン伝統主義(ジェニファー・ロバートソン)
監訳者あとがき(長野ひろ子)
前書きなど
日本の読者の皆さまへ
本書は、二〇〇八年の冬、カリフォルニアのサンタバーバラで開催されたワークショップでの論議を、なおいっそう深め発展させることをめざし刊行したものです。もちろんこれは、私たちが長期にわたり各自で日本国内の調査研究に従事しつつ、男性・男らしさ・男性性についての特性や規範、それらの過去から現在までの有様、さらに日本の独自性とその普遍性への見通しについて積み重ねてきた論議でもあります。それゆえ、本書の著者たちは、日本での経験や日本での男性・男らしさ・男性性研究から多くの学問的示唆を受けています。一九八〇年代以降、ジェンダー研究は、歴史学・人類学・社会学・カルチュラルスタディーズなど異なるディシプリンをもつ諸分野を交差させながら学際的に発展してきました。そして日本の著名な研究者たちからも、比較的新しいこの分野に参入する方々が現れました。彼らから私たちは多くのことを学んできました。もちろん同時に、私たちはホームグラウンドである欧米のアカデミックな世界にも一方の足場をおいています。本書を完成させることができたのは、日本の研究者や読者とのこれまでの多分野での交流、ならびに私たちの論議に参加して下さった日本の研究仲間のおかげです。
言語や文化、学術研究のあり方の壁を乗り越えて語り、記し、訳すというのは、国際化の著しい現代においても容易ならざる作業です。そうした意味で、この度の日本語版の刊行にあたり、大変なご尽力をいただいた長野ひろ子氏に衷心より感謝の意を表します。また、彼女をはじめ、邦訳に際し貴重な時間と労力を惜しまず割いて下さった内田雅克氏、長野麻紀子氏、粟倉大輔氏には感謝の言葉もありません。本書が、目には見えぬが確かに存在する言語・文化・学問上の数多の障壁を乗り越え出来上がったのは、ひとえに訳者の方々のご尽力の賜物です。
本書が、読者の皆さまの知的好奇心を呼び覚まし、批判的眼差しをもって受け止められ、そして皆さまもこの論議に加わり、さらなる考察を深めていただくことを祈念してやみません。
二〇一二年六月 サンタバーバラと東京にて サビーネ・フリューシュトゥック/アン・ウォルソール