目次
1 放射線被害の歴史から未来への教訓を――序にかえて
2 アメリカの原爆開発と放射線被曝問題
全米放射線防護委員会の誕生
マンハッタン計画の放射線科学者
戦前の被曝基準と放射線被害
3 国際放射線防護委員会の誕生と許容線量の哲学
ICRPの生みの親
許容線量の誕生
アメリカの核開発と許容線量
ICRP一九五〇年勧告
4 放射線による遺伝的影響への不安
原爆傷害調査委員会(ABCC)の設立
ABCCによる遺伝的影響研究
倍加線量と公衆の許容線量
5 原子力発電の推進とビキニの死の灰の影響
原子力発電でのアメリカの巻き返し
ビキニの死の灰の影響
BEAR委員会の登場
許容線量の引き下げ
ICRP一九五八年勧告
国連科学委員会
6 放射線によるガン・白血病の危険性をめぐって
微量放射線の危険性への不安の広がり
死の灰によるミルクの汚染
ガン・白血病の「しきい線量」
広島・長崎での放射線障害の過小評価
7 核実験反対運動の高まりとリスク‐べネフィット論
核実験反対運動の高まり
リスク‐ベネフィット論の誕生
一九六〇年の連邦審議会報告とBEAR報告
ICRP一九六五年勧告
8 反原発運動の高まりと経済性優先のリスク論の“進化”
反原発運動の高揚
科学者による許容線量批判の高まり
原発推進策の行きづまり
放射線被曝の金勘定とコスト‐ベネフィット論
BEIR‐1報告
ICRPによるコスト‐ベネフィット論の導入
生命の金勘定
原子力産業は他産業よりも安全
ICRP一九七七年勧告
9 広島・長崎の原爆線量見直しの秘密
原爆線量見直しの真の発端
マンキューソによるハンフォード核施設労働者の調査
絶対的とされたT65D線量の再検討へ
軍事機密漏らしの高等戦術
BEIR‐3報告をめぐる争い
日米合同ワークショップによるDS86の確定
10 チェルノブイリ事故とICRP新勧告
ICRP勧告改訂の背景
新勧告につながるパリ声明
チェルノブイリ事故と一般人の被曝限度
新勧告とりまとめまでの経過
アメリカの放射線防護委員会と原子力産業の対応
国連科学委員会報告
BEIR‐5報告
線量大幅引き下げのカラクリ
新勧告の最大のまやかし
11 被曝の被害の歴史から学ぶべき教訓は何か
時代の変化とともに広がる被曝の被害
防護基準による被害への対応の歴史
現在の被曝問題の特徴
日本における被曝問題の最近の特徴
食品の放射能汚染
12 おわりに
増補 フクシマと放射線被曝
1 フクシマ事故の特徴と労働者・住民の大量被曝
2 一〇〇ミリシーベルト以下の被曝も危険
3 フクシマの汚染・被曝対策とICRP
4 放射線被曝との闘いから脱原発へ
5 フクシマが示すもの
旧版 あとがきにかえて
増補版 あとがき
文献
前書きなど
増補版 あとがき(中川慶子)
チェルノブイリ原発事故から二五年の今年、福島第一原発の過酷事故が起こってしまった。今年は『放射線被曝の歴史』の出版二〇年でもある。事故発生後に政府の設定した高い暫定基準値や事故対応は被害者の苦痛をまともに受け止めず、国民の暮らしや命をないがしろにするものだった。
本書の「序にかえて」で、著者は「人類が築き上げてきた文明の度合いとその豊かさの程度は、最も弱い立場にある人たちをどのように遇してきたかによって判断されると私は思う」と書いている。残念ながら、私たちの直面しなければならない痛々しい現実が新しい“放射線被曝の歴史”の一章となってしまった。
著者は広島・長崎・チェルノブイリのような悲劇を繰り返さないために命を削って研究や運動に携わっていたのに、皮肉にも福島の悲劇がきっかけとなって本書が脚光を浴びることとなった。以前から、本書の価値を認めてくださる方々から連絡を受けたり、自費出版で再版したいとの提案をいただいてはいたが、事故後、再版を希望されるメールや、本書を参考文献にして執筆された論文や献本をたびたび頂戴するようになった。
そうこうするうちに明石書店から復刻のお話をいただいた。初版からもう二〇年も経ってしまったので、広島・長崎の研究が進んでいるだろうし、ICRPの変遷もあるだろうから、この間の動きを増補して出版してはと提案し、受け入れていただいた。そして、中川保雄がともに研究し、運動してきた「科学技術問題研究会」のみなさまが増補章の執筆を引き受けてくださった。
(…中略…)
今まで『放射線被曝の歴史』の再刊を待ってくださったみなさま、温かいご理解、ご支援ありがとうございました。この増補版をどうぞご愛読、ご利用くださいますようお願いいたします。
そして、何度も議論を重ねてくださった科学技術問題研究会のみなさま、その議論をまとめるという困難な仕事に従事してくださった稲岡宏蔵博士には心より感謝申し上げます。
(……)
この書が、放射線ヒバクのない社会を作ろうと奮闘しておられるみなさまのお役に立つことができれば、無念の中で早世した著者も少しは安らかに眠ることができるでしょう。