目次
まえがき
序章 多文化社会日本と多文化関係学的アプローチ(久米昭元、松田陽子、抱井尚子)
第1章 現代日本社会の3つの課題──多文化関係学6眼3バランスの視点から(林吉郎)
第2章 多文化共生活動における差異・共通性・パワーの認識──在日コリアン高齢者識字活動参加者への聞き取り調査から(猿橋順子)
第3章 ブラジル人児童と多様化する教室のマイノリティー(森田京子)
第4章 日本の教育現場における外国語指導助手と日本人教員の関わり──多文化共生の視点からの一考察(大谷みどり、築道和明)
第5章 コミュニケーションの平等と国際共通英語──英語教育の改善に向けて(伊藤明美)
第6章 外国人・帰国児童生徒に対する教育支援の在り方──NPOの媒介的機能に関する考察(千葉美千子、パイチャゼ・スヴェトラナ、杉山晋平)
第7章 多文化組織におけるコミュニケーションと日本人リーダー(石黒武人)
第8章 海外駐在日本人社会と新型インフルエンザ──新型インフルエンザ集団感染下における噂(清水・ベーテ恵)
第9章 「韓流」再考──韓流ドラマの感情移入的視聴による偏見逓減効果の検証をもとに(長谷川典子)
第10章 中国社会のマスメディアと日本のイメージ──現実との「ズレ」はどのようにして生じるのか(花澤聖子)
第11章 中国の“法から身を守る文化”によって醸成された言動・行動様式(三潴正道)
終章多文化関係研究・教育を学術的分野に発展させるための潜在的課題(石井敏)
あとがき
著者紹介
前書きなど
まえがき
20世紀中葉の太平洋戦争での敗北から現代までの間に、世界は大きな変貌を遂げたが、特に日本社会の国際化、グローバル化の動きは激しいものであった。とりわけ、1980年代から始まった東南アジア、中東、ラテンアメリカ諸国からのニューカマーの流入により起こった社会の多文化化は加速的に進み、今や、日本は実質的には「多文化社会」になったといえる。しかしながら、そのような実態があるにもかかわらず、日本政府は、米国、カナダやオーストラリア、ドイツのように「多文化主義」を国の基本的施策としているわけでもなく、多様な背景を持った人々との共生に際して起こる種々の問題、課題に直面し、その解決法を模索して右往左往しているかのようである。
そのような背景のなか、2002年、文化人類学、心理学、社会学、言語学、異文化コミュニケーション論、地域研究、国際関係論などの異なる専門分野を持った研究者・教育者・実践家が集まり、多文化関係学会が設立された。当学会は、多様な文化の相互作用およびその関係性を、多面的かつ動的に研究することを志向しており、その意味では多様な文化的背景を持った人々が共生する「多文化社会」と密接に繋がっている。当学会の特徴はこれまでの既存の学問領域を横断的に切り開き、異文化、多文化との関わりの中で個人レベルから組織・社会・国家・国際レベルでの関係性に焦点をあて研究するという学際性と、地域性、民族性、宗教、言語、ジェンダー、職業、世代など、社会を構成する人々の広い意味での文化的相違を基にして起こる軋轢・摩擦などの原因を分析、考察し、解決策の模索に取り組むという課題解決志向性の2つである。
学会設立10周年にあたり、学会としてはようやく新しい学問領域としての多文化関係学の視座、アプローチ、方法論などの輪郭が見え始めたところではあるが、10周年を節目として記念図書を刊行することとなり、編集委員会を立ち上げた。本書に掲載された論文のうち、第2章から10章までの9章は、学会誌と同様に全会員から投稿募集を行い、編集委員会と外部査読者の査読を経て採択されたものである。また、序章と第11章は編集委員会メンバーによって執筆され、第1章と終章については、編集委員会による依頼論文が収められている。煩雑な査読および編集作業にあたっては編集委員の力によるところが大きく、ここに代表として感謝の意を表したい。
多文化関係学はまだ産声をあげたばかりの研究分野である。読者の方々には、本書を通して現在の日本社会が直面している問題を理解し、同時にその分析、考察に用いられている多文化関係学的なアプローチに触れ、今後、この新領域のさらなる発展のための批判、意見、示唆などをいただければ幸いである。
多文化関係学会設立10周年記念図書・編集委員会を代表して 久米昭元