目次
はじめに
第一章 日本における異文化間教育研究の展開
1.文化間移動と教育
2.異文化間教育とは
3.異文化間教育研究の普及と拡散
4.異文化間教育学の位置と課題
5.異文化間教育学の新たな展開
6.異文化間教育学における「理論」と「実践」
7.研究方法の明確化
8.異文化間的視点と研究の理念
第二章 異文化間教育におけるカテゴリーの問い直し――「海外子女教育」における「日本人性」概念の再構成
1.カテゴリーの問い直しとは
2.「日本人」はどのように定義されてきたか
3.「海外子女教育」にみる差異化と一体化
4.「日本人」としての自己定義
5.「日本人」というカテゴリーの矛盾
6.「日本人性」の問い直し
7.他者化する側の意識化
8.日本人という当事者性の自覚
9.多様な「日本人」の教育
第三章 異文化間教育とアイデンティティ――アメリカにおける日本人生徒のエスニシティとアイデンティティ
1.アイデンティティとは
2.ロサンゼルスの教育
3.現地の学校におけるELDの位置づけとその機能
4.ELDというシステムによるエスニシティの強化
5.日本人生徒の対人関係とその差異化
6.メインストリームとの対比の中での位置取り
7.「英語力」の意味づけとそれをめぐる位置取り
8.補習授業校での位置取り
9.日本人生徒の位置取りをめぐる戦略
第四章 異文化間教育と日本語教育
1.第二言語としての日本語
2.異文化間教育学と日本語教育との関連
3.異文化間教育学と日本語教育の共通性
4.「現場生成型研究」の必要性
第五章 異文化間教育と外国人の教育政策――日本における外国人教育政策の現状と課題
1.外国人の子どもの教育
2.外国人の子どもの教育政策の現状
3.権利保障の明確な規定
4.公教育の再定義──外国人学校の位置づけと就学の義務化をめぐって
5.子どもの学習保障
6.不就学への対応
7.進路保障
8.「市民性」の教育への転換を
第六章 異文化間教育と地域ネットワーキング――地域における外国人の子どもの学力保障の試み
1.支援や連携を取り上げる意味
2.子どもの発達をトータルにとらえる
3.地域における多様な学習支援の回路
4.地域での支援活動の意味
5.多様な組織間の連携の可能性
6.地域ネットワーキングの構築に向けて
第七章 異文化間教育と多文化共生の取り組み――学校における多文化共生の取り組みの課題
1.多文化共生とは
2.学校の多文化共生の試み──小学校の実践から
3.学校の多文化共生をはばむ要因
4.教師の実践の省察──多文化の課題の再構成
5.育成する人間像の転換──混淆的なアイデンティティを
6.子どもたちにどのような力を育成するか
7.学校における協働の体制
前書きなど
はじめに
(…前略…)
本書は、私のこうした課題意識をもとに、ここ数年、異文化間教育学に関して発表してきた論文を再構成したものであり、全部で七章からなっている。第一章の「日本における異文化間教育研究の展開」では、異文化間教育の概念整理や異文化間教育学のこれまでの成果を踏まえつつ、今後の課題について検討した。第二章「異文化間教育におけるカテゴリーの問い直し」では、「海外子女教育」(「子女」という用語の問題が指摘されているが、本書では、これまでの研究と実践で使われてきた「海外子女教育」「帰国子女教育」という用語に限り、そのまま「 」付きで使用することにした)を事例にして、これまで前提にしてきた「日本」や「日本人」という枠組みの再考を試みた。これは、異文化間教育学の研究がこれまで自明視してきたカテゴリーの問い直しという作業でもある。第三章の「異文化間教育とアイデンティティ」では、異文化間教育学において重要な主題であるエスニシティとアイデンティティについて考察した。異文化間教育学におけるアイデンティティ研究を概観し、エスニシティとアイデンティティの関連についてアメリカに住む日本人生徒の調査から探った。第四章の「異文化間教育と日本語教育」では、第二言語としての日本語に焦点をあてた。異文化間教育学と日本語教育との関連について子どものバイリンガリズムという視点から考察したものである。第五章の「異文化間教育と外国人の教育政策」では、国レベルの学校教育を中心にした外国人にかかわる教育政策のこれまでの歩みを批判的に検討し、今後の教育政策の課題を示した。第六章の「異文化間教育と地域ネットワーキング」では、地域における外国人の子どもの学力保障の多様な試みについて検討した。誰のための支援か、何のための支援か。さらにはこうした多様な支援活動を通して、個人と組織の関係のあり方や組織間の関係のあり方について考察した。最終章である第七章の「異文化間教育と多文化共生の取り組み」では、学校を中心にした多文化共生の取り組みの問題点と今後の課題を示した。本書に収録したものは、すべて学校教育や子どもの教育に焦点をあてたものである。異文化間教育学は、いうまでもなく多様な対象に多様なアプローチで研究がなされ、その成果も蓄積されている。本書で議論したものは異文化間教育学の研究の中でごく一部にすぎない。
(…後略…)