目次
日本語版への序
はじめに
序章 招待状、下絵を描く
帝国建設への招待状
日本の漫画ジャーナリズム形成期
日本の漫画ジャーナリズム発達期
日本の漫画ジャーナリズム隆盛期
第1章 朝鮮の扉が開く
大陸と列島の間の朝鮮
開国と朝鮮の位相
濁流のなかの朝鮮政治
日清戦争前夜
結び
第2章 未完の帝国建設
日清戦争
敵をつくりあげる
戦争地図を描く
日清戦争と朝鮮
結び
第3章 日本、帝国の隊列に伍す
日露戦争
日本とロシア、そして朝鮮
極東の憲兵、日本
日露戦争と日本社会
ロシアの虚像
傲慢な帝国
交差する列強の視線
結び
第4章 宿願の達成
朝鮮併合
乙巳強制条約と大陸進出
朝鮮併合の前奏曲
目を覚ます朝鮮
併合の瞬間
朝鮮を手なずける
結び
第5章 伊藤博文と寺内正毅
帝国建設のふたりの主役
伊藤博文
伊藤の朝鮮統治政策
伊藤暗殺
伊藤博文と女
寺内正毅
寺内と朝鮮
寺内と軍部、中国、政党
結び
終章 漫画、まなざしの政治
漂う帝国の亡霊
注
参考文献
あとがき
訳者あとがき
訳者付記
索引
前書きなど
はじめに
近年、書店には漫画関連書籍が氾濫している。漫画本はもちろん、漫画に関する本、漫画で描かれた歴史本、漫画を通してみた社会像など、その種類は多様である。このような現象はふたつの大きな流れが合わさって起きた現象である。ひとつは、映像メディア、ゲーム文化やサイバー空間になじんだ世代が社会の主たる消費者として成長するにつれて現れた、彼らを対象とした視覚的なメディアや娯楽性を強調した出版戦略である。もうひとつは、文献史料のみを「権威」ある史料と見なし、視覚的な資料はせいぜい補助資料くらいに見なす既存の態度に対する研究者たちの反省とともに、視覚資料を新たに再評価しようという動きである。
(…中略…)
本書は序章と終章の他、全5章で構成されている。序章では西洋の近代的メディアとともに日本に流入した時事漫画というジャンルの発展過程を追跡した。第1章では朝鮮の開国を前後して現れた時事漫画を通して、帝国をめざす日本の姿と日本人の朝鮮像を探った。第2章と第3章ではそれぞれ日清戦争と日露戦争を、第4章では日露戦争から1910年朝鮮併合にいたるまでの時期に描かれた時事漫画を通して、日本社会の朝鮮に対するまなざしを分析した。第5章では朝鮮併合の主役である伊藤博文と、併合を実現し強圧的な武断統治を実施した寺内正毅を素材とした漫画の数々を紹介した。終章では、今日の日本における時事漫画のもつ意味を探った。
『易経』に、「無往不復」という句がある。「往きて復さぬものなし」という意味である。過去は単に過ぎ去ったものの集合ではなく、現在と未来の一部だと解釈できるだろう。カール・マルクスもまた「歴史は2度繰り返される」が、「1度目は悲劇であり、2度目は喜劇である」といった。これは『易経』における過去の理解と一脈通じるものがあり、これを多少皮肉を込めて表現したのではないか。古今東西を問わずこうした金言は、よりよき将来のためには過去に対する深い洞察がなされなければならないという智恵を盛り込んでいるのではないかと、私なりに解釈する。本書が、よりよい日韓関係を構築していこうという人々に、多少ともそうした智恵の糧になれば幸いである。
(…後略…)