目次
はじめに
第1章 教科書問題を考える視点
1.日韓歴史教科書問題をいかに解いていくべきか
2.日本における歴史教科書問題の系譜
第2章 前近代史学習を考える視点
1.建国神話と歴史教育
2.神話的象徴と歴史的実体の間の檀君
3.百済から渡来した人々の足跡
4.8世紀に新羅と日本はどのような関係を結んだか
5.アジアの中の「モンゴル襲来」
6.歴史教育における「通信使」
第3章 近現代史学習を考える視点
1.日帝の韓国強制占領
2.3・1運動の舞台
3.関東大震災で韓国人を助けた布施辰治
4.沖縄戦の記憶と歴史教育
5.忘れられた戦争6・25
第4章 日韓の歴史教科書を比較する視点
日韓の歴史教科書を比較する視点
日韓の中学校歴史教科書(2005年版)及び国史教科書(2003年版)における日韓関係記述の要旨比較
おわりに
前書きなど
はじめに
日韓両国は、これまで緊密かつ繊細な友好関係を築きつつも、同時に、歴史、とりわけ韓国併合・韓国強制占領を前後する事実をめぐり、常に政治的、社会的な対立・応酬を重ね、今日に至っている。そして応酬は、両国の制度の下で公認され全ての中学生に利用される歴史教科書をめぐる論争の形をとって繰り返されてきた。
議論の応酬や対立は、両国が、真の和解と協同に向かう不可欠な道程であろう。事実、両国の歴史教育、歴史学関係者による、政府や民間レベルで建設的な議論や共同研究がなされ、成果があげられてきた。本書も、基本的には、このような取り組みの一つと考えていただきたい。
本書は、日韓の7名の歴史教育、歴史学研究者による共同研究の成果である。共同研究では、両国の教科書に記された内容の水準、記載された事実と説明を、まずは相互に学びあうことを確認した。そのため本書は、教科書の記述内容について、歴史解釈の是非・評価・批判を急いだり、単一の解釈を提案するものではない。はじめにこのことを、お断りしておきたい。
日韓の歴史的問題を象徴する歴史教科書(と、これに関連する教科書訴訟や戦後補償裁判を含む)問題は、国家間、民間、ネットを含むメディアを介しての政治的応酬のみがとりあげられ、解釈の対比や是非をめぐる議論だけが報じられる傾向にあり、その反面、残念なことに、一般には、日本と韓国の教科書にどのような歴史的事実がどのような分量で説明されているかという、そもそもの前提さえ、共有されないままにあるように思われる。
このような現状の改善を目指す試みとして、私たちの共同研究は始まった。それは、両国の教科書に、両国関係について何が書かれ何が書かれていないのか、まずは、両国の教科書について、解釈的言辞をできる限り取り除き、比較する、純粋に両国教科書の内容を確認し、照合し、両国の総合理解に不可欠な事実を補うという作業であった。日本側の8種類の教科書についても、(少なくとも日本の公的な検定制度を通過した教科書として)教科書間の優劣や是非を安易に論ずることはせず、韓国の教科書に記された事実と対比・照合することに限定して、各社の記述内容を総合し要約することにした。
そのため第4章は、各教科書の原文を教科書ごとに比較する方法はとらず、日本側の教科書が総体としてどのように記述されているかを概観するものとなっている。あるいは教科書の特色を損なうものと感じられるかもしれない。そうであればお詫びしたい。教科書間の優劣・是非を論じるものではないことをご理解いただきたい。
両国の教科書を直接確認することが第一であることはいうまでもない。両国の多くの人が、歴史解釈をめぐる応酬や、あたかもそれが国益であるかのような言辞に目を奪われ、素直に目を向けてこなかった相手の国の教科書記述を、偏見の無い目で確認する契機としていただければ幸いである。
第1章は日韓両国の歴史教育史をたどる論考である。第2章の建国神話に関する論考とともに、日本側、韓国側の歴史教育や教科書問題の経緯を確認している。
第2章と3章では、7名の共同研究者が、それぞれ専門から、日韓の歴史教育や歴史学の視点として広く学ばれることを期待する主題を論じている。各論考は、2005年から5年近くをかけて、毎年二回、日本と韓国で検討会を開催し、ほかにもメール等を介して相互に批評を出しあい、改稿を重ねてきた。
各論考は、日韓の歴史教育について、「このような視点にもっと目を向けて欲しい」という思いを込めて執筆している。この思いが、両国関係の発展にささやかな一石を投じるものとなるよう願っている。