目次
序章 いま、なぜ「子ども虐待と貧困」か(松本伊智朗)
1 本書の主張と問題提起
2 本書の構成と本章の課題
3 子育て家族をめぐる貧困の現状
4 調査結果に見る子ども虐待と貧困
5 不利と困難の複合的側面
6 「子ども虐待」と「貧困」の論争的な性格
7 子ども虐待問題と貧困の再発見
8 貧困と社会的共感
序章補論 貧困という概念
第1章 児童相談所から見る子ども虐待と貧困(清水克之)
1 毎日寄せられる子ども虐待通告
2 重症な子ども虐待の生活条件調査
3 子ども虐待は貧困問題と強い関係
4 家庭に対する基盤整備を
5 だれひとり「忘れられた子ども」のいない社会をめざして
第2章 母子保健から見る子ども虐待と家族の貧困(佐藤拓)
1 見えてこない貧困への支援と母子保健
2 保健機関の調査から見る貧困
3 母子保健から子どもと家族の貧困に支援を行うために
第3章 学校教育から見る子ども虐待と貧困(峯本耕治)
1 「見えにくい不利」防止と学校の役割——問題意識
2 貧困が学齢期の子どもにもたらす「見えにくい不利」
3 より深刻な「見えにくい不利」
4 学校は貧困の世代間連鎖を防ぐ最大の公的システム
5 学校でこそできる虐待防止と家族支援
第4章 自立援助ホームから見る子どもの「自立」と貧困(村井美紀)
1 自立援助ホームの子どもたちの家庭の貧困
2 自立援助ホームにたどり着くまで
3 利用者が抱えるリスクと将来見通しの困難さ
4 自立援助ホームの支援方法と内容
5 自立の見通しとその後
6 自立援助ホームの限界
7 公的責任の不明瞭性
第5章 日米の先行研究に学ぶ子ども虐待と貧困(山野良一)
1 いくつかの事例から——はじめに
2 アメリカにおける調査・研究から
3 日本における調査・研究から
4 貧困が子ども虐待につながる経路(1)
5 貧困が子ども虐待につながる経路(2)
6 市民の使命として——おわりに
あとがき(松本伊智朗)
前書きなど
序章 いま、なぜ「子ども虐待と貧困」か
(…略…)
2 本書の構成と本章の課題
ここで本書の構成を述べておきたい。
第1章では、自治体における調査結果が検討されると同時に、児童相談所から見た実態が示される。執筆の清水は、やはり児童福祉司として長い経験を持つ。
第2章から第4章にかけては、子どもの年齢段階ごとの課題を意識した構成になっている。第2章では、母子保健の現場から見える家族の現実と支援のあり方が示される。執筆の佐藤は医師として長い経験を持ち、母子保健の現場から子ども虐待に関する著作と政策提言も多い。第3章では学校という場から見える子どもの現実と、学校を舞台とした社会福祉的援助の可能性について議論される。執筆の峯本は子どもの権利に関心を寄せる弁護士であり、自身がスクールソーシャルワークとその組織化の活動に身を置いている。子ども虐待問題や教育・学校に関する著作と発言も多い。第4章では自立援助ホームを場にして、社会的自立に関わって子ども・青年の直面する困難と支援のあり方が示される。執筆の村井は児童養護問題とソーシャルワークを研究対象とする研究者であり、自身も自立援助ホームの運営に携わっている。
第5章では、アメリカでの研究成果の概観と日本の児童相談所での実践の経験から、問題の整理がなされる。執筆の山野は長い経験を持つ児童相談所の児童福祉司であり、アメリカでの留学・研究の経験がある。貧困と子ども虐待に関する発言と著作も多い。
これらの各章に共通するのは、「子ども虐待と貧困」という枠組み、子ども・家族の直面する困難を具体的に示す試み、そして、政策と実践の課題として現実的に議論する観点である。本章ではそれらの前段として、「子ども虐待と貧困」を議論する際の視角を試論的に整理しておきたい。執筆の松本は、貧困研究をベースにしながら児童養護問題と子ども虐待問題に関心を寄せる研究者である。以下では貧困に関する共通理解を整理するとともに、子ども虐待と貧困がそれぞれに論争的な概念であるがゆえに安易な結び付けは危険をはらむこと、したがって、それぞれの概念の深化が理論的課題としてあること、しかし、それにもかかわらず実践的な問題として避けて通れないこと、そして、この問題の議論は困難の渦中にある家族と子どもの支援のあり方と同時に、社会のあり方の問い直しを射程に含まざるをえないことなどを、読者とともに考えてみたい。
(…後略…)